彼氏いない歴15年
お兄さんはキッチンに入り、ポットからお湯を出す
Tパックを紅茶カップに入れて、三人分の紅茶を淹れてくれた
「果恋ちゃん…私、帰るよ。お仕事の邪魔しちゃ悪いし」
私は果恋ちゃんの後ろに立つと耳元で囁いた
「気にしなくていいんだって、花音のほうが一大事なんだから」
「でも…私は麗華さんに謝ればすむことだし」
「それはダメ。絶対に駄目よ。あんなに馬鹿にされて悔しくないの? 必ず見返してやるのよ」
「でも…」
「あの顔なら、麗華だって悔しがるでしょ?」
果恋ちゃんは、キッチンで紅茶を淹れているお兄さんを指でさした
えぇ?
「顔だけなら良い顔してるから。付け焼刃には持ってこいよ」
それは…ちょっと、悪いでしょう
いくら果恋ちゃんのお兄さんでも、良くないよ
「あの…でも」
「いいの、いいの」
果恋ちゃんは、ソファを叩いて、私に座るように目で訴えた
「お兄ちゃん…紅茶、遅いけど? あと早く、仕事を休むって電話しなさいよ」
果恋ちゃんは厳しい声で、お兄さんに文句を言う
「我が儘だな~。これだから、年下は嫌なんだ」
え? 私は肩身が狭くなった
果恋ちゃんのお兄さんは、ブツブツと文句を言いながら、電話の前に行く
家電から会社に電話したようだ
妹の具合が悪くなったから、休むと言っていた
果恋ちゃんって凄い
本当に、休ませてしまった
スーツも着て、仕事に行く気だっただろうに
私はますます、申し訳なくなって肩を縮めて座った
「ほら、紅茶だよ」
果恋の前に荒々しくコップを置く
でもお兄さんは、私に置くときだけ丁寧に置いてくれた
「何、この扱い差は? 可愛い妹にたいして冷たくない?」
「どこが可愛い妹だよ。…ったく。お前のせいで、月に何回欠勤になっているんだか」
「ごめんなさいっ!」
私は謝ると、お兄さんは驚いた顔をして、首を振った
「君が謝ることじゃないよ」
「そうよ。だいたいお兄ちゃんはサボり癖があるんだから」
「お前のせいだろうが! 塾の送り迎えをしろ、とか。服が買いたいから、車を出せとか。お前の願いごとは、ロクなもんじゃねえ」
ロクなもんじゃない…ってことは今回も、そう思われちゃうのかな?
面倒くせえって、嫌な顔をされるのだろうか
そうだよ。私の恋人役なんて、面倒くさいよ
やっぱりここは、麗華さんに謝るべきなんだ