素顔と演技
電車に乗り、最寄り駅で降りた
自宅までの道のりは、いつも自転車だけど…今日は廉人さんの車で移動してたから、駅からは歩いて帰った
本当なら、約束した通り、廉人さんのマンションに行くのだろうけど、鍵を持っているわけじゃないし、やっぱり寝る場所は家がいい
私は20分ほど歩いて、自宅のマンションに到着した
「おい」
肩を叩かれた
「はい…」
恐る恐る振り向くと、そこには怖い顔で煙草を吸っている廉人さんが、立っていた
「お早いお帰りで…」
私は苦笑いをする
「送るっつっただろ」
「お仕事中だったので」
「でも、俺は送ると言った」
「お客様を放っておかれるのは…」
「送ると言った!」
廉人さんの語尾が強くなった
「無事に家に帰ってこれましたし…」
「帰る家が違うだろ」
私は廉人さんに腕を掴まれて、車の中に入れられた
車の中は、煙草の臭いが充満していた
夕方乗ったときは、何の匂いもしなかったのに…
「あんた、何なんだよ!」
廉人さんが、苛々していた
「日中は、驚くほど、良い女だったのに…いきなり帰りやがって。意味、わかんねえ」
運転席に座った廉人さんが、愚痴をこぼした
そう簡単には、良い女を習得できないってことかな?
なんて心の中で呟いてみる
16年間、生きてきた土台があるわけだし
いきなり、性格を変えるには無理が生じる
日中は、頑張れても、夜は素に戻っちゃうのかも
「ごめんなさい」
「謝るのは聞き飽きた」
冷たく言い放つ
「廉人さんにとっての良い女って、なんですか?」
「弱い部分を見せない女だ。男のプライドを傷つけず、それでいて、甘え上手。それが良い女だ」
「わかりました」
そうなれるように努力します
心の中で、呟いた