果恋の研究
「この店って、何時までですか?」
ちょうど接客を終えて戻ってきた雅人さんに質問した
「平日は終電前まで、金・土は朝の6時までだよ」
「日曜日は?」
「客の入り具合で決めてるんだ」
「そうなんですか」
私は時計を見た…すでに10時を過ぎている
こんな遅い時間まで、外にいたことがない
「私、帰るので、廉人さんに伝えておいてください」
「え? まずいよ。オーナーに今、言ってくるから」
雅人さんが慌てて立ち上がろうとした
「いいんです。仕事の邪魔をしたら、悪いですから」
「いやいやいや、言わないと。俺らが怒られます」
雅人さんは、私の制止もきかずに、廉人さんのところへ行ってしまった
女性客と楽しく話していた廉人さんは、一瞬だけ私に目をやった
雅人さんに何か話をすると、小走りで雅人さんが戻ってきた
「送っていくから、もう少し待っててと」
仕事をしているのに、申し訳にないよ
私はただ、好意でここに居させてもらっているわけだし
そんな迷惑は…
私は鞄を持つと、勢いよく席を立った
「トイレ!」
隣に座っていた雅人さんの足を跨ぐと、走ってドアに向かった
「え?」
雅人さんの驚いた声がした
ボーイさんが、私の腕を掴もうとするが、一足先に私は身をかわして店の外に出た
早く走るのには、自信がある
中学が陸上部で、短距離の選手だったから、瞬発力には誰にも負けない自信がある
店の外は、夜10時だというのに、街は明るいし…人通りも多かった
全く人気がないと心配になるけど、私は安心して、人の流れに身を任せて、駅へと向かった