良い女講座
『一週間で、俺の隣に立っていても、おかしくない女にしてやる』
そう廉人さんに言われて、やっと果恋ちゃんから靴を返してもらった
それから私は廉人さんに美容院に連れて行かれた
見た目から高そうな美容院で、美容師さんはみんな廉人さんと、知り合いのようだった
私が髪をいじられている間、手の空いている美容師さんたちと、廉人さんは話をしていた
…というより、いちゃいちゃしていた
両隣に座っている女性たちは、廉人さんの体に触れ、廉人さんも女性の体を触っていた
廉人さんにとって、女性に触れられるというのは自然な行為みたい
綺麗にネイルされた指が、廉人さんの身体を這っていた
切り終わった後、私は鏡を見つめた
長さがかわったわけじゃないけど、なんか雰囲気が変わった
何でだろう?
髪にも艶がある
カット以外にトリートメントをしたような…
それだけなのに、金額は2万を超えていた
え? 2万?
私がいく美容室は、カットだけで3千円だよ?
なんでこんなに高いの?
廉人さんはさほど驚くこともなく、財布から万札を3枚出す
オツリはいらないからと言うと、美容室を出た
セレブな世界って、なんかちょっと違和感を感じるな
お金に執着心がないのかな?
他人のために2万をポンと投げだせるなんて、私にはできない行為だよ
「けっこう時間がかかったな。あとは明日だな。車に乗れ。家まで送る」
明日…
明日は何をするのだろう
またポンと大金を私のために投げだしてしまうのだろうか?
「あ…と。私、電車で帰れますから」
私は深々とお辞儀をすると、廉人さんに背を向けた
これ以上は迷惑をかけられないから、美容院代だけで、私の心はちくちくと棘が刺さって痛いよ
誰かに自分のお金を払ってもらうなんて、今までしてもらったことがないから
どうしていいか、わからないの
迷惑なんじゃないか?
もしかしたら、苛々しているんじゃないか
俺の金を使いやがって…思われてるんじゃないかって
不安でたまらなくなる
「良い女は家の近所まで、男を送らせるものだ。逆に家まで送らない男は、良い男ではないってこと」
駅に向かって歩き出そうとする私に、腕を掴んで引きとめた廉人さんが説明した
『良い女』のあり方
『良い男』のあり方
私には難しいかな……