第1話 ワレワレ、異世界に立つ
銀河歴3^819257943 、太陽系第三惑星、地球。この青く美しい星に一人の異星人が降り立った。
彼の名前は
「ヨグ=アーサル=トゥッル=イソ=ガゴーソス☆、調査日誌。太陽系第三惑星地球に到着、ワレの宇宙船の状態は極めて良好です」
「場所は大和国の山中に着陸、訂正、現在は日本と呼称されているのでした。宇宙船は既に安心ステルスモードにて上空に待機。にしてもまだ星の中で国というコミュニティで分断しているのですね。」
光沢のある緑色の肌を持つ彼、ヨグは自身の掌に向かって話している。
「久しぶりの地球ですが、まだ文明はフェーズ1にも到達していない。乗り物は家畜動物から飛行機や車に乗り換えたようだ。素晴らしい、現代にこんな原始的な構造の乗り物にのる姿を生で見られるとは」
彼は頭上を飛ぶ飛行機を見て言った。
「食品も未だに経口摂取が主流。実に非効率的ではあるが、そこに人間は異常なまでの熱量を持っている。わざわざ並んでまで摂取するとは、興味深い」
彼は人々がレストランに並んでいる様子をみてそう言った。
「みな手に電子端末を持っている。絶え間なく操作を行っていますが一体何をしているのでしょうか。少し彼らの端末にアクセスして観察を……」
ヨグは次の観察対象について記録を取ろうとしたその時、彼の頭部に埋め込まれているマイクロチップが信号を受信した。
「これは、非常事態です」
彼は即座に人気のいない路地に入る。
次の瞬間、彼は宇宙船内にいた。
「この信号は宇宙船、数は500隻。信号を発信している船の識別開始、これはあの船団のものですね。緊急事態です、すぐに地球人全員に警告しなければ」
「ヨグ=アーサル=トゥッル=イソ=ガゴーソス☆これより全地球人に警告するため、意識接続装置を開発します。念のためこの過程も記録しておきましょう」
ヨグは全人類の意識に接続するための装置を開発する。
作業を開始してから2時間ほど経過。
「一通り必要な機構は完成。これより接続テストを行う。とりあえず、この近所に住んでいる者に接続しましょう。できれば休眠状態の者がいれば、いました」
装置のモニターにある少女の顔が映し出された。
彼は頭部に半透明のシールのようなものを張り付ける。
「波長の調整、完了。出力をまずは最小限にして。接続開始」
昼寝をしていた少女の目が開く、眼からは光が溢れていた。
「接続完了。対象の脳が液状化、頭部のあるいは全身の爆発、人格の破綻、いずれの現象も確認されません。テストは成功。では次は日本全体に範囲を広げて――」
彼がそう言うと掌に埋め込まれた装置のアラームがなる。
「その前に昼食の時間です。折角なので現地のものを摂取してみましょう」
再び街に戻ったヨグはファミリーレストランに入る。
すでにランチタイムで一番忙しい時間帯が過ぎたようで、店内に人はあまりいない。
「久しぶりの地球人との交流、この国の言語に関する知識は最新のものにアップデート済み」
「いらっしゃい……ませ」
店員は入って来たヨグをみて一瞬固まる。
(え?緑?顔色が優れないようだけど、大丈夫なのかな?)
「おひとりですか?」
「左様です」
「さよう?で、ではこちらへ」
ヨグは席に案内される。
「カレーライスを一つ、それとフルーツタルトを所望します」
彼は席につくとすぐに店員に注文した。
「かしこまりました。カレーライスとデザートにフルーツタルトですね!」
店員はメモを取り厨房に向かう。
「これでまずは二つ、調査リスト:食品欄からカレーライスとフルーツタルトを達成済みに更新」
ヨグは手に向かって小声で言った。
「こちら、カレーライスです。デザートのフルーツタルトはご希望のタイミングでお申し付けください」
「かたじけない」
彼はカレーライスをじっくりと観察している。
運ばれて来たカレーライスは野菜の全てをミキサーにかけたもの。一見すると白米の上にカレールーとゴロゴロの肉が乗っているだけに見える。
「白米と呼ばれる炭水化物に茶色の泥のようなものをかけた食品、香りからいくつもの香料を使用していると想定される。推定される調理時間などを考えても非常に非効率的。では観察はこの辺にして、これより実食調査に入ります」
まずは一口食べる。
「っ!」
彼は無言のままもう一口運ぶ。
更にもう一口。
口の横にカレーがついたまま彼は手に話しかける。
「記録の訂正、エネルギー摂取効率は悪い、その評価に変わりはありません。しかしこの味は、極めて特殊。いくつもの香りと食材がこの液体の中で混ざり合っている」
ヨグは話しの間にもう一口食べる。
「味覚分析の結果、液体の中には複数の野菜が含まれていることが判明。単純な料理かと思いましたが野菜のうまみがあってのこの味。推奨、この味覚体験」
こうして彼はあっという間にカレーライスを食べ終えた。
「デザートのフルーツタルトを所望します」
「かしこまりました、お済みのお皿お下げします」
彼は外の景色を見ながらフルーツタルトを待つことに。
「このような店がいくつもの一つの街の中に展開されている。今しがた各店のシステムにアクセスした所全て独立した店舗のようだ。ワレの星のように栄養補給を大気から行えない地球人にとって食は娯楽の一つとなっているようです」
「こちら、フルーツタルトです」
観察をしていると店員がデザートを持って来た。
「かたじけない」
「ご、ごゆっくりどうぞ~」
店員は彼の変わった話し方に引っ掛かりつつも深入りしてはならないと自制しお辞儀をして下がっていく。
「これがフルーツタルト、地球人が”食後に食す”高糖度食品。食後に食すという矛盾した考え、興味深い。そして栄養バランスという概念を知らないかのような材料を使用し、過剰なまでに飾り付けている。興味深い」
彼がフルーツタルトを観察していると彼の身体が光始める。
「おや、転送装置を起動した記憶はありませんが」
そう言って彼はタルトが乗った皿を持ちながら懐から財布を取り出す。
「お、お客様?!大丈夫ですか?」
店員が驚いた様子で彼に尋ねる。
「お店の方、こちらにお代を。おつりは差し上げます」
ヨグがそういうと身体から発せられる光が一層強くなる。次の瞬間彼の姿はそこにはもう無かった。
ここはヨグがいる所とは別の世界。
その世界に一人の少年が今、現れた。
「ブラック企業で30連勤して月の残業時間が180時間(内40時間以外はサービス残業)結果エコノミークラス症候群で死んだが、慈悲深き女神様の計らいで異世界に転生したぞ!身体も若返らせてもらった上にチート能力も授かった!」
早口でまくし立てるその少年の名前はサトウ・ユウタ。
「おお!勇者様!よくぞ我らの世界に来てくださった!」
そう言って彼に歩み寄るのはこの世界の国王。
「あなたが僕を呼んでくださった国王様ですね。名をサトウ・ユウタと申します」
「おお!サトウ・ユウタ様!皆の者、勇者サトウ様だ!次の儀式が終わり次第すぐに歓迎の宴を開くぞ」
国王がそう言うと周囲の兵士、あとはローブを着た魔法使いらしき者達が歓声を上げる。
「では勇者様、これより聖女様を御呼び致しますので」
国王がそう言うと配下の者達が新たに召喚に必要な儀式の用意をする。
「ちなみに御呼びする聖女さまはこちらのお方です」
そう言って国王の隣にいる高齢な魔法使いが魔法の鏡を取り出して見せた。そこには美しい少女の顔が映っていた。
「召喚の陣作成終わりました。では魔法団の諸君、意識を陣に集中させて。魔力を送るんだ」
「おお、これが召喚、魔法!すっごいファンタジーだ」
ユウタがそう言うと、召喚の陣が強く七色の光を放つ。
「さあ!お越しくださいませ聖女様!」
国王がそう言うと七色の光は収束していく。光は人型を形成していく。
「成功したぞ!聖女様!」
国王が叫ぶ。
(いきなりヒロイン来た!)
ユウタは内心ワクワクだった。
光が収まり、そこに立っていたのは煌めく緑色の肌を持つ男だった。
「え……」
「え……」
国王とユウタが口を開けて固まる。
他の者も固まっていた。
「あ、あの聖女様が来るはずなんですが?」
ユウタが呼びかけると。
「聖女?ワレは銀河文明連合の研究員です」
「それじゃあ、その、お名前は」
目を丸くしながらユウタは追加で質問をする。
「ヨグ=アーサル=トゥッル=イソ=ガゴーソス☆と申す」
「☆まで名前?」
「左様。質問は以上ですか?ではワレはこのフルーツタルトを実食検証するので」
ヨグは唖然としているユウタや国王を気にする様子もなくタルトを口にする。
「記録、この食品もまた興味深い。ただ民衆に糖分を摂取させる為に過剰に飾り付けたものかと思われたが。果物、白い雲状の装飾、その下の固形物、全体を支える別の固形物。先ほどのカレーと違い、いずれも甘いという味覚の方向性なのに全てに違いがある。推奨、この味覚体験の保存」
と一人で手に向かって話すのであった。
こうして異世界に召喚されてしまった異星人ヨグ=アーサル=トゥッル=イソ=ガゴーソス☆そして日本人のサトウ・ユウタ。
この時はまだ誰も知らなかった。召喚されたこの宇宙人は魔王よりも厄介な存在だということを。
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