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ジョウロと会話が出来るようになってから、ホルンは今まで感じていた疑問を問い質した。
「そもそも主は我を単なる魔道具だと思っているみたいだが、それは違う。魔道具などと同じ物として扱われるなど、なんたる侮辱!」
「そ、そうなのか?」
そういえば鑑定士もジョウロを魔道具だとは言っていなかった。
中から回復ポーションが出てきたから、魔道具かもしれないとホルンが認識していただけだ。
「我は偉大なる神具であるぞ! 我と意志疎通が取れるようになったのは、主のレベルが上がったからだ。我を扱うにはレベルが低すぎたのだ。低級な魔物ばかり狩るから、こんなに時間がかかったのだぞ!」
「い、いや、それは俺が商人になって、お金を稼ごうと思ったから……」
余程不満が溜まっていたらしい。
延々と説教が始まり、慌ててホルンは話の内容を変えようとした。だが、やぶ蛇だった。
「我は言葉を交わさぬとも、今までずっと主を見守っていたぞ! この際一言言わせてもらうが、主の女を見る目の無さには、呆れ果ててしまうわ! 胸の大きさにこだわるからだ!」
「なんてこった……!」
(ここに誰も居なくて良かった……!)
もし誰か居ようものなら憤死ものである。仲間が居たら白い目で見られたかもしれない。ホルンは、本人もあまり自覚していなかった巨乳好きをジョウロに指摘され、顔を手で覆った。
「金を集めるのは弱い主に出来る最善の方法だったかもしれないが、強くなって、もっと我に相応しい人間になれ!」
「え? え? ちょっと待て、どこに行く!? おい、なんだこれ!? ジョウロから手が離れないじゃないか!」
「我と主の間には海よりも深い絆があるからな!」
「全然納得できない!! ……ギャー!! 人殺し!!!!」
ホルンはジョウロに引きずられるようにして連行され、魔物の巣穴に落とされた。
そして予期せぬ修行が、半強制的に開始された。
「し、死ぬかと思った……!」
「やれば出来るじゃないか。それでこそ我が主。この調子で成長すれば、我の真なる力を発揮する日も近いだろう」
満足気なジョウロに、ホルンは恨めしい視線を送った。
「真なる力って何?」
「我を使いこなせば、主の仲間も復活するぞ! 我は神具だから人間の1人や2人簡単なものだ!」
ホルンは、耳を疑った。
「……復活? HPも0になっていたのに? もう骨だけになっているのでは……」
「あの猿は魔王の手下で、獲物をコレクションする習性があるんだ。きっと主の仲間たちもキューブに氷漬けにされているはずだ」
「本当か? 本当にあいつらが……」
(やばい。死んだと思って、あいつらの部屋にあったエロ本とか、処分しちゃったんだけど……)
大量にベッドの下から見つかったエロ本には、遺族のご両親も目を丸くしていた。
(だって、あんなものがあるなんて知らなかったし、不可抗力だろ。生き返る可能性があるなんて知らなかったし……)
誰でも人には見られたくない秘密があるものだ。それが身内ならば、なおさらかもしれない。
「……アホ面さらしてる暇があったら、修行するぞ。我が、主を強くしてやる! どうせ暇なんだろ?」
「暇だな」
ホルンはお金を稼ぐために冒険者をやめたが、ずっと道案内ぐらいは出来るかもしれないと思っていた。弱いかもしれないが、唯一ダンジョンを踏破した人間だ。
もしかしたら、今までの経験を生かせるかもしれない。
何より、自分は安全な場所で見ているだけというのは性分には合わなかった。
(こうなったら、自分の限界に挑戦して、強くなってみよう。仲間を救うんだ)
ホルンは仲間を助けるために、出来ることから始めることにした。




