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ホルンはジョウロの中に入っている液体を見て考えた。先ほどまで燃えていた火は鎮火し、赤色の液体が残っていた。
(最初から黄緑色の液体は入ってたけど……)
ジョウロはボス討伐の際に得たドロップ品だ。ホルンは回復魔法があまり得意ではないが、ボスは回復魔法に長けており、極めて高い自己治癒能力に苦労した。
いくら攻撃しても回復されてしまうからだ。
ボスが所持していたということは、ボスがジョウロの主であった可能性が高い。最初に入っていた液体は今よりずっと色が濃かった。
もし、主の魔力に効果が左右されるとしたら、色が薄くなるのも納得だ。
「この赤色の液体に、火魔法をかけたらどうなるのかな……?」
疑問が浮かぶと、どうしても試したくなって、実際にやってみた。どうやら緑色の液体の時に火魔法をかけるより、赤色の液体の時に火魔法をかけたほうが炎の勢いが強くなるようだ。
「ってか、あっつ!?」
火の耐性はあるが、想定以上に火の勢いが強くなりすぎて、火傷の状態異常にかかってしまった。ホルンは慌てて、ジョウロに魔力を注ぎ、水魔法をかけた。
火はすぐに鎮火したが、ジョウロの中の赤い液体は、透明な液体に変わった。
「ん? ……これはお湯か」
それからも色々と試してみたが、火の魔力を入れてから風の魔力を込めると、凄い勢いで飛んでいった。火と水など、相反する属性だと消えてしまうようだが、魔力量を調整すれば、攻撃にも転用できるみたいだった。組合せを変えれば、使い道は多岐にわたるだろう。
魔力を重ね掛けすると、上手い具合に飛んで行ったが、凄い威力だった。重ね掛けに慣れてくれば、使い道は多岐に渡るかもしれない。ただ、重ね掛けに失敗すると近距離に魔法が飛んでしまうため、大怪我をしかねない。練習が必要になるだろう。
消費する魔力量を考えると、ジョウロを介することで、100分の1程度で済んでいることになる。魔法の威力もかけた魔法の10倍は出ているだろう。下級魔法なのに、上級魔法と比べても遜色ないほどの威力が出ていた。
上級魔法は下級魔法よりも詠唱に時間がかかることを考えると、ジョウロの性能の高さが分かる。
(この魔道具、有能すぎるだろう……)
ホルンは全属性に適正があるが、突出したものがなく、器用貧乏と蔑まれていたホルンの火力不足を補うに余りあるものだった。
ただし、そのことは無闇に公表出来ない。ジョウロ欲しさにホルンの命を狙う輩が出てくるかもしれないからだ。
今の主はホルンだが、ホルンが死んだら所有者無しになって、誰でも使える可能性もある。
それに、ホルン本人ではなく、親など周囲の人間も危険にさらされるかもしれない。身の安全を考えたら、自衛出来ない内は口を閉ざすしかない。
「冒険者崩れの商人には、ちょっと荷が重すぎないか……?」
この魔道具があれば、争いの種になりかねない。
もしギルドの手に負えないような魔物が発生した時は切り札になるかもしれないが、使い方を間違えると国そのものを滅ぼす道具になる。
このジョウロを巡って、国同士の争いになるかもしれない。
(さすが、鑑定不能な50階のドロップ品)
いつも重いけど、この時ばかりは、さらに重みを感じた。
「……ジョウロさん? 意思があるなら、お願いします! 俺への帰属やめてくれます??」
そうしてくれたら、すぐに条件付きでオークションに出して売り捌く。うまくいけば、ホルンよりも、主にふさわしい人間の手に渡ることができるかもしれない。
下級魔法しか使えないホルンが主なのが、そもそも間違いなのだ。ホルンのように冒険者を引退したような人間には手に余る代物だ。
もし売れたら依頼のお金を払っても十分余るぐらいのお金が手に入る。予定を早めることが出来るかもしれない。
「だが断る」
だがホルンの思いとは裏腹に、非情な通達が脳裏に響いたのであった。




