006 トイさんの家で
置き時計を確認すると、既に十九時を回っていた。トイさんはキッチンの方から戻ってきて、お茶をテーブルの上に並べる。
「えーと、それじゃ、他の街はどういう感じなのか分からないんですけど、まずは生活サイクルからでもお話ししますね!」
そう言って、トイさんはお茶を一口飲み、言葉を続ける。
「起きる時間は、大体は九時ぐらいです。私は神波高校に通っているんですけど、始まる時刻が午前十一時からで、下校が大体午後十九時半とかになります。寝る時間は午前二時ぐらいですね。くれは先輩の街もそのぐらいでした?」
「そうだね。私の街はそれより一時間早く進んでいたぐらいかな。」
ふと窓の外を眺めると、もう十九時過ぎのようで、空は暗くなっていたけど、街灯などの光は私の街よりも沢山照らされていた。そろそろシュレクはいない頃だろう。
「そうなんですね。昔は六時、七時起床とかだったらしいです。早いですよね……。あ、次に門の開閉時間のこと話しますね!これは結構街ごとに差があるかなと思います。この神波市では、大体夜の八時から朝の四時あたりまでは門は開いているんですが、それ以外の時間になると、見張りがついて、出入りに規制があって、シュレクの侵入を防いでいるんです。」
それで、あの見張りがいたわけか。
私の街は開閉時間の制限はかなり緩く、その時その時の感覚で開閉されていた。もしかしたら、それも原因なのかもしれない。
「うーん、大体こんな感じかなと思います。今日会ったグレイさんのところに、明日、明後日頃に行って、その時にまた話をしてもらいましょう!し……あ、う……えっと、それで、明らかに早すぎんですが、夕食とお風呂、もう済ましちゃいましょうか!私ご飯作るので、お風呂入ってきてください。」
そう言ってトイさんは別の部屋へ移動し、数分ほどの物音が続いた後、段ボールを持って私の前に来てガムテープを剥がし、中のものを取り出す。
中からはまだ袋に包まれている洋服やパジャマ──などいくつか入れられていた。トイさんは今、全体的にピンク色の服を着ているが、中に入っているものは白を基調とした服ばかりだった。
「これ、くれは先輩使ってください!もちろん遠慮せずにどうぞ!」
──え?
唐突すぎてぽかんとしてしまう。それでも尚、トイさんは止まることなく私の膝の上に開封した洋服を積み上げていく。
「あ、ありがとう……良いの……?」
「勿論ですよ!!私が自分の意思でやってますし!!」
「そう……そうだ。私、夕食作るよ。ここまでしてもらって何もしないのは悪いし。私、料理まあまあできるよ。」
そう言うと、トイさんはしばしフィルムを止めた映画のように固まる。作業の手もピタリと止まる。そして、少し焦るような表情で口を開く。
「あ、えっと、つ、疲れているでしょうし……。ん、あ、いや……お願い……しま……す。」
トイさんは噛み噛みになりながら、言葉を一つ一つ絞り出すように話す。トイさんは冷蔵庫にあるものは何でも使って良いと言葉を残して、奥の部屋の方向にあるであろうお風呂へと向かった。
──よし、作るか。
私は普段から自分で料理を作っているので、そこそこ料理はできる方。私は、冷蔵庫から卵やゴウヤ、みかん、魚、レバーなどの様々な食材を取り出し、それらを使って丁寧に調理していく。ゴウヤを細かく切り、みかんやレバー、魚と一緒に炒めて皿に盛り付け、ニンニクと胡椒を添える。
ちょうど夕食が出来上がり、食卓へと運んで行った時、トイさんがお風呂から上がってきた。私はトイさんに夕食ができたことを告げる。トイさんは慎重に歩いて、食卓の方へと足を運び、しかし、不思議なことに私が作った自信作の夕食を見て、トイさんは愕然とした表情を浮かべて、言葉を失っているようだった。