第七話 令嬢、イケメンになる(計画始動)
次の日の朝――
私は頭を抱えていた。胃薬の残量はあと二錠。心のスタミナはすでにゼロだ。
「こうなったら、私が自分で“攻略対象”になるしかない!!」
昨夜の脳内会議の結果、私は史上最も突飛な作戦――“自分がイケメンになってエミリアの恋路を妨害する”――を採用した。
とはいえ、いきなり性別を変える魔法はこの世界にも存在しない。
でも、顔や姿を変える程度の魔道具なら、ヴァレンタイン家の資金力をもってすれば簡単に調達できる。
でっち上げた「腹違いの弟」設定でなんとか誤魔化し、魔道具で自分をイケメン男子に“変身”だ。
「イリーナ様、本当にやるんですか……?」
「やるわよ、メイド長。ここまで来たら後戻りできないわ!」
「せめて、お嬢様のお名前だけは――」
「もう考えてある。“イリオス”。カッコよさそうでしょ?」
計画はシンプル。
エミリアの前に“イケメン新キャラ”として現れ、攻略対象たちに嫉妬心を煽る。
ついでに、ヒロインの恋愛フラグも片っ端からへし折る。
放課後の学園――
いつものヒロイン追っかけイベントが発生しそうな廊下に、私は新キャラ“イリオス”として登場。
「こんにちは、エミリアさん」
「えっ……あの、どなたですか?」
「転校してきたばかりなんです。イリオス・フォン・ヴァレンタインです。ご縁があったら、仲良くしてくださいね」
(うわ~、自分で言ってて背中が痒い!!)
と、そこへ、攻略対象の生徒会長や美術部王子が登場。
エミリアのそばに“新イケメン”が現れたのを見て、あからさまに目を光らせている。
「エミリアさん、今日はどこに行くんですか?」(イリオス)
「図書室で本を返さないと……」
「よかったら、一緒に行きませんか?」
「は、はい……」
廊下の奥から、ギリギリと歯ぎしりする攻略対象たちの気配。
内心で(よし、いいぞ、この嫉妬ゲージの溜まり方!)とガッツポーズを決める私。
その後も、昼休みに二人でパンを分け合ったり、校庭で花壇の手入れを手伝ったりと、
“イケメン新キャラ”としてエミリアに猛烈アプローチを仕掛ける私。
おかげで、周囲のイケメンたちの視線がどんどん冷たく、どんどん鋭く、どんどんヤバくなっていくのが肌で分かる。
(これが……リアル修羅場フラグの立て方……!)
最後には、廊下の角で生徒会長と美術部王子がバチバチ火花を散らしていた。
おまけに、パンを食べていたエミリアがポロリと「イリオスさんって、優しいですね」と笑顔を向けてくれる。
(よし、作戦は順調……!次は、いよいよ“嫉妬爆弾”発動の瞬間だ!)
私は“イリオス”の姿のまま、学園の夕日に向かってガッツポーズを決めるのだった――。