第六話 嫉妬を煽るのは高等技能です
作戦はシンプルだったはずだ。
エミリアに“特定の誰か”と仲良くしてもらい、他のイケメン共に思いっきり嫉妬させる。
しかも、ちゃんと“見られている”ところで――これが大事。
このクソゲー、隠れてこそこそやっても嫉妬ポイントは1ミリも溜まらない仕様なのだ。
露骨な「見せつけ」こそ正義。いや、倫理観どこ行った。
「エミリア、今日は“生徒会長”とだけ、みんなの前で仲良くしててほしいの」
「えっ?でも、せっかくみなさん来てくれたら、みんなと――」
「ダメ!“たしなみ”よ、“品格”よ!特定の相手ときちんと関係を深めるのが、良家の令嬢の嗜みなの!」
「は、はい……イリーナ様がそこまで言うなら、頑張ってみます!」
こうして、エミリアは生徒会長バカへのロックオンを誓った――はずだった。
「こんにちは、生徒会長さん。今日はいいお天気ですね」
「エミリアさん、今日も爽やかですね」
(よしよし、ここまでは計画通り……!)
タイミングを計ったように、美術部のナルシスト王子とメガネ野郎も通りかかる。
(いいぞ、今こそ見せつけるタイミング! 他の攻略対象ども、しかと見届けよ!)
「エミリアさん、パンが落ちそうですよ」
「あっ、ありがとうございます!」
(そこで生徒会長にだけ礼を言え!他のやつに気を使うな!)
「そういえば、この間の花壇の件、お疲れさまでした」
「はい、生徒会長さんと一緒に植えました!」
「美術部の方も手伝ってくれて……」
「だから違う、今は生徒会長だけ見てろって言ってるだろうがあああ!!」
エミリアは本当に頑張っている――“つもり”なのだろう。
だが結果として、パンを分けたり花壇を語ったりするたびに、他のイケメンにも満遍なく声をかけてしまい、
気がつけばその輪に全員集合して、パン・花・本・壺・談笑の五重奏が始まる始末。
「イリーナ様……やっぱり難しいです。みなさん話しかけてきてくださるし……」
「エミリア、君はもうちょっと“空気を読まない力”が必要なのよ。…って、空気読めないからこうなってるのか!」
「え?」
「なんでもないわ。今日は絶対、他の人と話さないで!生徒会長だけ見てて!」
「は、はい!」
しかし、次の瞬間には――
「図書室の先輩もパン食べますか?」
――気がついたらみんなでピクニックが始まっていた。
(こいつ、すごいぞ……!)
「イリーナ様、今日もみなさんと仲良くできました!」
「違う、そうじゃないってば!!!」
こうして、「見せつけ作戦」はエミリアの全方位天然パワーによって秒速で粉砕された。
結局、誰一人として嫉妬爆弾は爆発せず、
イケメン共は「エミリアさん、また明日も楽しみですね!」と爽やかに去っていく。
(……ダメだ、違う、何か抜け道が、他に……。)
もう普通の手じゃ無理だ。どんなフラグ管理も全方位天然外交に崩される。
しかも今日は好感度下げもできていない。かなり危機的な状況だ。
これをどうにかするなら、もう逆に発想をぶっ壊すしか――
思考回路も胃袋もぶっ壊れた頭の中、一つの考えが頭の中に浮かんだ。
「……こうなったら、私自身が攻略対象になるしかないじゃないのよおおおおお!!」
自分で言っておきながら、何言ってんだ私は!?と内心で絶叫。
――そして気づけば、心の友マーベリックに心の中でツッコミを求めていた。
(いや、なんで牛にツッコミを求めてるの!?)
「えっ、イリーナ様が!?なんの話ですか?」
エミリアの天然リアクションだけが、私の最後の理性を粉砕していくのだった――。