第四話 とある周回のヒロインの話
こんにちは、エミリア・リュミエールです。
学園生活にも慣れてきて、毎日いろんな人と関わるようになりました。
でも、どうしても分からないことが一つ――
イリーナ様の行動が、時々ものすごく変なのです。
たとえば今朝――
「エミリアさん、こっちです!」と突然手を引かれて、
普段は通らない裏門の小道を歩かされました。
理由を聞いたら「たまには新鮮な空気もいいですわ」と笑うイリーナ様。
でもその直後、偶然通りかかった生徒会長のレオなんとかさんの制服に、私が泥水を跳ねかけてしまうハプニングが発生。
お昼休み、図書室で静かに本を読んでいたら――
「エミリアさん、その本、気になるなら広げてみては?」とイリーナ様がにっこり。
言われるがままにページを開いた瞬間、力加減を誤って“ビリッ”と音がしてしまい、文学メガネの先輩が本気で怒るはめに。
また別の日は、美術部の王子様と廊下で鉢合わせ。
「エミリアさん、一緒に手伝いましょう」とイリーナ様に肩を押されて、花瓶を二人がかりで持ち上げたところ、案の定私の手が滑って花瓶が床で見事に真っ二つ。
放課後の廊下では、イリーナ様が突然「こっちに隠れましょう」と言い出し、なぜか物陰からイケメンたちの動きを見張る羽目に。
その途中で私、ジュースを落としてしまい、近くにいた生徒会の人たちにしっかり怒られました。
(イリーナ様って、なぜか毎回“誰かが私に話しかけそうな瞬間”に、絶妙すぎるタイミングで現れるんです。
もしかして私、ずっと見張られてる……? でも、イリーナ様は毎回「あなたの味方ですわ」と言ってくれるし……)
怒られるたび、イリーナ様はすぐフォローしてくれて、
「大丈夫ですわ、エミリアさん」
「誰にでも失敗はあります」
と優しい声で慰めてくれるのです。
イケメンの人たちも最初はものすごく怒るけれど、なぜか数日するとみんな何事もなかったかのように話しかけてきて、私はまたイケメンの方たちの中心に――
みなさん、心の広い方たちばかりです。
(だけど、どうして毎日こんなに同じようなことばっかり起きるんでしょう……)
そんなある日、しばらく顔を見ていなかった演劇部のエドワードさんが、静かに私の前に現れました。
ふっと微笑んで、私の目をまっすぐ見つめてくるエドワードさん――
なぜか、その瞬間だけイリーナ様の姿がどこにも見当たらなくて。
(なんだろう……今日は、いつもより胸がざわざわする)
この不思議な日々は、
いつまでも続くわけじゃない――
そんな気がして、私は少しだけ足を止めて空を見上げたのでした。