第二話 攻略対象と会わせなければなんとかなる…そう思っていた時期が私にもありました。
――あれから一週間。
私は悪役令嬢イリーナ・フォン・ヴァレンタイン。
ヒロイン・エミリアを“バグ死”から救うため、この学園で“他人の恋路をぶっ壊すこと”に全力を注いでいた。
朝の登校イベントは、牛との鉄壁タッグで撃退。
翌日は図書館イベントを未然に防ぐため、開館前に「工事中」札を貼って全館封鎖。
放課後の「落し物でイケメンと目が合う」王道フラグも、先回りして落し物をすべて回収し、ついでに廊下は徹底ワックスがけでピカピカに。
「突然の雨→同じ傘で相合い傘」フラグの日には、校舎の傘をすべて没収し、天気予報士を買収して晴天を死守。
イケメンたちに出会わせないためなら手段は選ばない。
私は、妨害工作の鬼と化していた。
(ここまでやれば、さすがに大丈夫だろ……!)
一週間後の朝――
エミリアは平和に朝食。
パンも食べていないし、牛も裏牧場でおとなしくしている。
今日こそ完璧だ。私は内心ガッツポーズだった。
……だが、運命はあまりにも理不尽だった。
その時なぜか、攻略対象イケメンたちが全員そろってエミリアの元へ現れた。
「話がある」
そう言って、彼らはエミリアを囲む。
――全員の手には、なぜか鋭い刃物や凶器が。
その瞬間、
私はただ――
目の前で、エミリアがめった刺しにされるのを、呆然と見ていることしかできなかった。
自分の声も動きも、まるで出なかった。
次の瞬間、私はベッドの上で飛び起きた。
視界が歪み、胃の奥がぐらりと揺れる。
「うっ――」
込み上げる吐き気に、慌てて洗面器を探す。
……夢じゃなかった。
あの光景が、頭から離れない。出会わせていないはずなのに、なぜ――。
(まさか……出会う前から好感度上昇カウントが始まっていたっていうのか……!?)
初めて味わう、バグゲー世界の“理不尽な現実”。
この悪夢から、まだ私は抜け出せそうになかった――。