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第十一話 このルートは実装されておりません。

 ロッカー内で抱き合っているところをイケメン全員に目撃されてからというもの、学園は完全に“何か”が壊れた。


 まず、イケメンたち。

 生徒会長、美術部の王子、メガネ野郎、演劇部の色男――

 誰も彼も、魂が抜け落ちたみたいにぼんやりと廊下をさまよい、話しかけても「ああ……」「うん……」「(遠い目)」しか返ってこない。


 かつて私の胃を焼いた嫉妬の眼差しも爆弾も、今や遠い昔の幻のようだ。


 教室の窓際で、生徒会長が虚ろな目で空を見上げている。

 美術部の王子はキャンバスに「虚無」だけを描き続け、メガネ野郎は図書室で本のページをパタパタめくりながら「現実……現実ってなんだ……」とつぶやき、演劇部の色男は「舞台に立つ意味を見失った」と舞台袖に正座していた。


 女子生徒たちも、なぜか私とエミリアに近づこうとしない。

 廊下ですれ違えばサッと避けられ、小声で「今はそっとしておいてあげよう……」と噂される始末。


 そしてエミリア。


 なぜかあの日以来、私の腕をがっしりホールドしたまま離れない。

 教室に行くにも、昼食に行くにも、トイレの前ですら「外で待ってますから!」と笑顔で見送られる。


「イリーナ様、今日も一緒にお昼ごはん食べませんか?」

「イリーナ様、明日の授業の予習、一緒にやりましょう!」

「イリーナ様、これからもずっと一緒ですよね……?」


 その顔、目がハートマークになっているのが見えるレベル。

 私の逃げ道は、どんどん塞がれていく。


 そしてあのロッカー事件以降、爆発音も嫉妬も修羅場も、

 まるで何もなかったかのようにピタリと消え失せた。

 静かな学園生活――いや、静かすぎて逆に怖い。


 そんな時だった。


 ふいに頭の中に、システム音声が響き渡る。


『これ以上は当社サポート外です。予期せぬ挙動が生じても……私のせいじゃないし勝手にしてくださいね』


 どこまでも無責任な声。

 (いや、最初からサポートなんてなかっただろ!?とツッコむ暇すらない……)


 この世界は、もはや誰も進んだことのない“未実装ルート”に突入してしまった。

 乙女ゲームのバグも爆発も、どこか遠くに吹き飛んだ。

 残されたのは、魂が抜けたイケメンと、ベッタリエミリア、そして現実逃避に走る私――


 もしかして、これ、

 “悪役令嬢ルート”ですらなく、“悪役令嬢とヒロインの百合エンド”なのでは?


 気づけば今日も、エミリアは私の隣にピッタリとくっつき、

 お昼休みの教室で膝枕を要求してくる始末。


「イリーナ様~、眠くなっちゃいました……」

「(え、私もそろそろ現実逃避していいですか……?)」


 ふと廊下を見ると、遠くの窓際で生徒会長が幽霊みたいにフラフラ歩いている。

 その向こうで、美術部の王子が『虚無』の文字を百枚目のスケッチブックに書き込んでいた。


 ここにきて、

 システムも学園も、登場人物の心も、全部が“想定外”でフリーズしたまま――


 私は、エミリアに腕を組まれたまま、

「……こんなルート、誰も実装してないでしょ……」と心の中でそっと叫ぶことしかできなかった。



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