第九話 ロッカー内は百合の花園?
爆発音と怒号が遠くから響くけれど、
ロッカーの中の空気は不思議と静かだった。
私――イリーナ・フォン・ヴァレンタインは、
変装もごまかしも効かないこの密室で、エミリアと肩を寄せ合っている。
エミリアはじっと私の顔を見つめている。
頬がほんのり赤く、呼吸が少し荒い。
そして、ふいにそっと背中に手をまわし、ぎゅっと私を抱きしめてきた。
「イリーナ様……」
その声はかすかに震えていて、どこか不安げで――
でも、はっきりとした意志がこもっている。
「私、なんだか……ずっと変な夢を見ていたような気がするんです」
「怖くて、苦しくて……気づいたら、全部が終わっていて――」
私は、ドキリとする。
「でも、その夢の中でも、イリーナ様だけは絶対に味方で……」
「私、もしかして一度――」
エミリアが言いかけて、言葉を止める。
外ではまた誰かがロッカーの扉を激しく開ける音がする。
でも、この狭い空間の中では、私とエミリアだけしかいないような気がした。
「――でも、今は……怖くありません」
エミリアが、ほんの少し泣きそうな笑顔で私を見つめてくる。
「イリーナ様がいてくれるから、私、平気なんです」
「……イリーナ様、私も好きです」
私は言葉を失いながらも、そっとエミリアの手を握り返す。
エミリアの体温と鼓動が、じかに伝わってきて、
それが現実かどうかさえ曖昧になってくる。
ロッカーの外は爆音と怒号、
でも二人だけの空間には、やさしい静けさが満ちていた。
(――本当にこの子は、どこまで気づいているんだろう?
私が必死で守ってきたことも、あの“バグ死”の運命も。
それとも――エミリアはもう、何度も死んでいないのかもしれない)
私はそっと、エミリアの背中に手を回し、
そっと抱きしめ返した。




