プロローグ とんでもないクソゲーに転生しました。
目を覚ますと、そこは薔薇色のカーテンが揺れる、見知らぬ豪奢な部屋だった。
……そして、鏡の中で私を見返していたのは、艶やかな巻き髪に翠玉の瞳――どう見ても自分じゃない美少女だった。
落ち着いて深呼吸。
まあ、これはあれだな。
よく小説サイトで見かける“アレ”だ。
己の身に降りかかった現実。
それでも私は冷静を維持していた――
――その瞬間までは。
ってえ、これイリーナ・フォン・ヴァレンタインじゃねえか、ふっっざけんなああああ!!!
てめえやって良い転生と悪い転生が有るだろうが!!
何考えてこんなクソゲーに転生させた!
答えろ!!どこかの誰か!!!
自分の姿をまじまじ見てその事実に気づいたとき、私の冷静は木っ端みじんに砕け散っていた。
だが、それは仕方のないことだと思う。
誰だって、あのクソゲーの中に放り込まれたことに気づいたらそうなるはずだ。
ここは、かつて“地獄の周回”をした伝説のクソゲー――
『ローゼリアの仮面舞踏会』の世界。
当然のように仮面舞踏会のシーンなんて一回も出てこないが、そんなことはどうでもいい。
悪役令嬢イリーナ・フォン・ヴァレンタインになっているのもまあいい。
性別がどうとか、悪役がどうとかで騒いでる場合じゃない。
本当に頭がおかしいのは、このゲームの仕様だからだ。
このゲームには、致命的なバグが存在している。
ヒロインが攻略対象キャラの好感度をMAXまで上げると、なぜか攻略対象から突然刺されて死ぬという、意味不明すぎる即死バグが実装されているのだ。
恋愛ゲームで恋が実ったら即死? 開発者、正気か?
……プレイしたからわかる、正気じゃなかったわ。
まあ、それだけならガチゲーマーにかかれば対処は可能だ。
このゲームをクソゲーオブクソゲーたらしめているのは、もう一つのバグだ。
なんとこのクソゲー、好感度はイベントだけじゃなく、なんと時間経過でも勝手に上昇していく。
もう一度言うが、時間経過で勝手に好感度が上がっていく!!
画面に出ていないキャラも含めて、すべての攻略対象がだ。
恋愛ゲームにタイムアタック要素をなぜ突っ込んだ!言え!!
こうして生まれた、プレイヤーが何もしてなくても、気が付けば“好感度MAX→バグ死”の黄金コンボ。
本当に何考えてんの開発者……。
好感度を調整するのにメッセージスキップのタイミングまで管理する必要があるのだ。
バグでコンボ決めてんじゃねえよ、って何度コントローラーをぶん投げたことか。
それでも、私がこのゲームを死ぬ気でプレイしていたのは――
……ただ、あのヒロインがなんだか放っておけなかったからだ。
ヒロインがどんなに健気に頑張っても、
相手が「好き」になってくれた瞬間、理不尽に命を落とす。
あまりに不憫すぎるその境遇に腹が立ってしょうがなかった――。
……いや、でも。
この世界で、このまま何もしなければ、原作通りヒロインはまたバグ死エンド一直線。
このリアルのような世界でも、「好き」ってだけで奈落に突き落とされるのは、さすがに……許すわけにはいかない。
それにヒロインが死んだら、この世界ごとどうなるのか――考えるだけで背筋が寒くなる。
――でも、希望はある。攻略対象の好感度を下げられる唯一の存在、それが私、悪役令嬢イリーナ・フォン・ヴァレンタイン。
だったら、私がやるしかないじゃないか。
ヒロインがアホみたいなバグ死を遂げないよう、
この身を賭して全力でフラグを破壊し、恋路を徹底的に邪魔し続けてやる!