第3話 人ってなかなか変わらないけど、きっかけがあれば変わったりもする
約束通り、家に帰ってから慎哉に、おすすめの恋愛ものの少女マンガをいくつか教えた。
恋愛に前向きで、あまり刺激が強くなくて人気があるものばっかり選んだ。
作品名、作家名、そして簡単なあらすじと、おすすめポイントも添えた。
確認のため聞いてみたら、真哉はこれまで少女マンガも、少女マンガ原作の恋愛アニメも見たことがないと返事が返ってきてた。
それから毎日のように、彼がマンガを読むたびに、簡単な感想が届いた。
アニメ化されてるものは、アニメの感想が届いた。
少女マンガを、新鮮に楽しんでるのが伝わってくる。
好きバレして、どう接していいか困ってたから、少女マンガの話題で盛り上がれるのはちょうどよかった。
他のおすすめマンガも教えてって言われて、追加で教えた。
真哉は自分でもマンガを探して、これ読んだって報告がくる。
彼が少女マンガを気に入ってるのがわかる。
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12月になって、『街づくり概論』の授業で発表の順番がきた。
授業の発表は、智也や朋子も一緒に準備をして無難に乗り切った。
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発表の後に、4人で表参道の駅に近いレストランで食事をした。
お疲れさま、みたいな意味合いで。
大学生っていうと、飲み会が多そうだけど、そうでもない。
やろうって話題がよく出る割に、本当に飲み会が実現することって少ない気がする。
ゆっくり食事した後に、朋子は授業のため大学へ戻った。智也はバイトが入っていて渋谷へ向かった。
私と真哉は2人で原宿をのんびりとそぞろ歩く。
好きバレしてから、直接で会って2人だけで話すのは初めてになる。
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再来週はいよいよクリスマス本番で、街の雰囲気も最高潮に盛り上がってきてる。
原宿の街も、ファッションレーベルやカフェや個性的な店まで、様々に装いが施されてて目に楽しい。
ウィンドウショッピングだけでも満足度は高い。
5時すぎて既に日が暮れていて、街が煌めいてる。
2人で歩いてるだけで、幸せな気持ちに浸れる。
食事会の流れなので、話題も自然に街のことになる。
真哉が、原宿の街を褒めてから、六本木の話題を出す。
「もう一度、六本木へ出かけたくない? この間は11月になってすぐで時期はずれだったけど、クリスマス直前でどうなってるか見てみたい」
「これから行く? 六本木ならそれほど遠くないよね」
「今日だと、もう遅いから違う日がいいな。来週はどう?」
「うん、いいよ」
私も、来週また一緒に出かけられたら嬉しい。
真哉がちょっとモジモジしたそぶりを見せる。
「それでさぁ……、制服ってまだ持ってる?」
「高校の制服? もちろん持ってるけど」
「少女マンガ読んでたら、制服いいなあって思ってさ」
「でしょ! 制服いいよねぇ」
「真心が制服着てるとこ、見てみたいなぁ……」
「それって、着て来て欲しいってこと?」
「……うん」
「家帰って試してみるね」
「期待してる」
「無理だったらごめんね」
そんなわけで真哉から制服をリクエストされた。
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クローゼットの奥の方から、高校の制服を引っ張り出す。
当たり前だけど、卒業してから袖を通してない。
お気に入りのブレザータイプの制服。
白のブラウスに、チェックのフレアスカート。
ウチの高校は、リボンがセットじゃない分だけ制服っぽさが少し減ってる。
クリーニング屋さんのタグを外して、制服を着てみる。
12月で、朝は寒くなってるけど、日中ならまだそれほどじゃない。
コートを上に着たいとこだけど、それじゃ制服ぽさが出ないので、セーターとマフラーだけにする。
鏡を見ると女子高生の私がいる、と言いたいけどちょっと違和感がある。
大学生になって、髪を明るめに染めるようになったから、そのせいだと気づく。
メイクがいつもの通りだと、コスプレっぽくなっちゃいそう。
元からそんなに濃いメイクじゃないけど、なるべくスッピンぽい方が合うはず。
生足に膝上のスカートがやけにスースーするけど、去年の3月まではこの制服着てたんだな。
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当日になって、待ち合わせてる六本木のカフェに向かう。
午後3時過ぎで、もうかなり太陽が傾いてる。
真哉からは、少し遅れるって連絡が来てる。
待ち合わせに遅れるなんて珍しいけど、先に連絡があるのは慎哉らしい。
来週がクリスマスになって、雰囲気が盛り上がってる。
この間は11月の上旬だったから、まだクリスマスには時期はずれだった。
カフェのこの間と同じ席に、慎哉の名前で予約が入れてある。
やっぱりこの場所いいなあ。
発表のために調べたせいもあって、この街へ愛着が湧いてきてる。
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慎哉が少し遅れて来る。珍しく全身が覆われるコートを着てる。
確かにテラス席なのでその方がいい。この間はちょうど良い気温だったけど、今日だとテラス席は少し寒い。
でも眺めは最高だから仕方がない。
「待たせてごめん」
慎哉がそう言って、コートを脱がずに席に座る。
「ううん」
「制服、かわいいね」
「そう」
「うん。今まで制服にこだわりなかったんだけど、少女マンガ見てたら女子高生の制服っていいなって思うようになった」
「そうでしょ! やっぱ制服いいんだって」
制服好きの私は頷く。
慎哉が店員さんに飲み物を注文する。
「少女マンガ気に入ったみたいね」
「すげえ気に入った! なんか世界が広がった感じする。男のキャラとか違和感あったりするんだけど、女の子ってこんなこと考えてるのかぁ、っていうのすごく面白かった」
真哉が素直な笑顔になる。
「少女マンガもそうなんだけど、これまでの真心との会話っていうの全てが、違う価値観に触れて世界が広がるっていうことなんだなって気がする」
私も素直に頷く。
「真心がこないだ言ってたコミュニケーションが大事っていうのがわかった。相手が異性で違うからこそコミュニケーションが必要で、でもそれが上手くいけば、すごくいい影響が与え合えるんだなってね」
真哉が真っ直ぐに私を見つめてる。
「それでさ……」
慎哉が言い淀む。
私が彼の顔を覗き込む。
「ん?」
慎哉が頬を赤くしてる。
「俺も恋愛したくなった」
掠れるような声で言う。
「それって……」
「うん、真心よかったら俺と付き合ってほしい」
私も頬が熱を帯びるのを感じる。
「うん、私も付き合いたい」
慎哉がコートを脱ぐとブレザーを着てる。
「それ……」
「うん。制服」
真哉の制服もブレザータイプで、周りから見てると普通なんだけど、本人はすごく恥ずかしがってる。
私が制服デートをしたいって言ったのを、覚えていてくれたんだ。
私が慎哉に聞く。
「ねぇ、これってデートなの?」
慎哉は照れながら頷いた。
FIN
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