第2話 ヤキモチやくよりも応援するぞっ! と自分に言い聞かせてみる
大学の最寄駅は、渋谷と表参道になる。
どっちも有名な駅だけど、かなり趣が違う。
渋谷は日本でも有数のゴチャゴチャした繁華街だけど、表参道はオシャレな街。
表参道は、その名の通り「参道」で、明治神宮へお参りする道ってこと。
だから表参道から明治神宮までは、歩けるぐらいの距離。
明治神宮といえば最寄駅が原宿駅。
原宿っていえば、竹下通りが有名だけど、裏ハラのキャットストリートとか、表参道から明治神宮までの表通りも良い。
大学の帰り道に、素敵な道を散策できるのは、ちょっとしたご褒美。
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今日は授業の帰りに、高校の友達と原宿でお茶をしてた。
大学は違うけど、似たような学部なのでお互いに情報交換。
大学の友達とは違うノリで、楽しく過ごせた。
友達と原宿駅でバイバイして、私は定期が使える表参道まで歩き。
原宿の街も、クリスマスの雰囲気に徐々に彩られてる。
六本木とも渋谷とも雰囲気が違って、それが訪れる客層の違いになってる。
逆かな、客層が違うから街の雰囲気が違うのかな。
卵と鶏は、どちらが先なんだっけと考えながら街を歩く。
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私が華やいだ街並みと、着飾った人通りを眺めながら表通りの歩道を歩いてると、飾り立てられた店舗から、見知った顔が歩道へ出てきた。
慎哉だ。
私との間には、人混みがあって距離もある。だからまだ、彼は私に気づいてない。
慎哉が出てきた店は女の子好みするグッズショップで、そんな店に何の用があるのかなぁと考えながら、近づいて声をかけようと思う。
でも、私は突然に立ち尽くす。後ろを歩いてる人には、迷惑をかけたかもしれない。
慎哉の後ろから、女の人が一緒に出てきた。相当にキレイな人だ。
女の人はその店で買い物した袋を持ってて、慎哉に声をかける。すごく機嫌がいい。彼から何か買ってもらったのかな。
慎哉も女の人に笑顔で返事をする。すごくリラックスした笑顔で、私が見たことのない彼の表情だ。
私は咄嗟に人混みに紛れる。
2人に対して見失わない程度に距離をあける。
2人が表参道の駅の方へ歩き始めるので、私も後ろからついてく。
女の人は美人系でスタイルも良くて、ヘアやメイクも普通じゃない。
身長も高くて、手入れされてるロングヘアで、丁寧なメイク。
年齢は同じくらいだから大学生だと思うんだけど、特別な華やかさがある。
ファッションも、オシャレな人が多いこの街の中で、洗練されたセンスを感じさせる。
女の人は、表参道という街にすごく馴染んでる。
この街だから誰も振り返らないけど、もし他の街なら振り返られるレベルの人。
2人は表参道の、地下鉄の入り口のところで立ち止まる。
私は2人の視界に入らないように移動する。
後ろから歩いててわかりにくかったけど、やっぱり2人の表情は特別な関係に見える。
私はスマホのカメラで、めいっぱい拡大させて女の人を写す。
あまりはっきり写らなかったけれど、バレないためには仕方がない。
2人はそこで2、3分ほど立ち話をする。それから名残惜しそうに別れる。
女の人は地下鉄の入り口へ向かい、慎哉は大学へと向かう。
確か慎哉は、このあと授業があったはずだ。
私は、どちらを追うか悩む。
でも心を落ち着けるために、ひとまず大人しく自分の家に帰ることにする。
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その女の人が誰かは、あっけなくわかった。
私たちと同じ学部で、同学年の星奈っていう子。
慎哉との繋がりは1年の英語のクラスが同じ。でも2人が、付き合ってるとか、特別に仲が良いなんて話題になったことはない。
家に帰るまでの電車の中で、コミュ力とメッセージアプリとSNSを駆使して、ここまで調べられた。
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星奈って子は、ウチの学部の中で、派手な女の子のグループに所属してる。リア充グループ、ハイカースト、そんな感じ。
私はそういう子たちと距離があるから、すぐにわからなかった。
その子はアナウンサーが目標で、そのための専門へダブルスクールで通ってるらしい。
芸能事務所から声をかけられていて、来年のミスコンを狙ってるなんて噂もある。
ウチの学部には、私が知ってるだけでも、芸能界に関わってる人が何人もいる。
高校の頃までなら考えられなかった環境。
卒業生には多くの女子アナがいるから、夢物語でもなさそう。
あの容姿なら当然の目標かな。
ヘアやメイクの雰囲気が、人と違うのも当たり前。ファッションにも気を遣ってるはず。
仲の良い友達とかは、派手な女の子が多くて、特に彼氏とかっていないらしい。
慎哉との接点は、1年の英語のクラスだけで、他にはなさそう。
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この情報から、2人の関係を推理。
1年の英語の授業って、毎日あるから仲良くなりやすい。
大学へ入学してすぐだし、外国人の先生だから、こっちの連帯感も強まる。普通の授業と違って、授業中の会話やグループワークも多い。
だから2人が仲良くなったのは、英語の授業で間違いない、はず。
英語きっかけで付き合い始めたカップルって、いっぱいいるから不思議じゃない。
不思議なのは、なんで隠してるの、ってこと。
でも、相手の子がアナウンサーになりたくて、芸能事務所に所属してるのなら、それが理由かも。
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これが1番しっくりくる推理。これ以外に考えられない。
それなら今日のことは、周りに内緒で付き合ってる2人が、秘密で一緒にいるところを、偶然に私が見かけてしまった、で説明がつく。
でもそうすると、こないだ彼の言ってたことは嘘になっちゃうから悲しいけど、彼女を守るためなら嘘ぐらいつくか。
悲しいけどね。
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一通り考えを整理して、ベッドの上にひっくり返る。
仲のいい男の子に他の女の子がいたなんて、お姉ちゃんの恋愛を見てきて、何度も見たパターン。
いや、私の場合は付き合ってるわけじゃないから、文句が言える義理もない。
うーん。
慎哉は、いいやつだ。
私の方は乗り気だった。でも彼の方は、その気があるそぶりを見せたりしてない。
ここはジタバタしてもしょうがない。
慎哉と彼女を応援しつつ、自分の心が他の男の子に向かうのを待つ、しかないか。
これが、恋愛のたびにジタバタしてる、お姉ちゃんから学んだ教訓。
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翌週、2人で話すため、私から慎哉を誘った。
口実は、このあいだ調査にでかけた発表の準備。
場所は大学の図書館のミーティングルーム。3人以上ならグループワーク用に、個室が利用できる。今回も智也と朋子の名前を使わせてもらう。
平日の授業が空いてる時間を、2人で擦り合わせた。
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「六本木で撮影した写真なんだけど……」
慎哉が自分のタブレットで写真を表示して、発表に使う素材について説明する。
ミーティングルームには、私が先に部屋へ来て待ってた。
後から慎哉が来て、席に着くとすぐに発表の準備をはじめた。
「ちょっと待って、ごめん、他の話してもいいかな」
私が彼の話を遮る。
気になることがあるのに、授業の準備するなんてムリ。
「ん? どした? もちろんいいけど」
慎哉が不思議そうな顔をする。
私は率直に疑問をぶつける。
「先週の木曜日にね、原宿で高校の友達とお茶してたんだ。そうしたら慎哉と、星奈さんていう子が一緒に歩いてるの見かけたんだよね」
私は準備してきた言葉を一気に口にする。
慎哉の表情が、あからさまにバツの悪そうな顔に変化する。
「見られちゃってたか……。それ、内緒にしてくれないかな?」
やっぱり。
思ってた通り、2人はそういう関係なんだ……。
「いつから仲良くしてるの?」
「1年の英語のクラスが一緒で、その頃から」
「いつも2人で会ったりしてるの?」
「学校の帰りに会うのは珍しいけど、ネットでは週に何回か話してる感じかな」
2人の関係は、私が思ってたより親密そう。
「意外だった。私にくらい話してくれてもいいのに」
「ごめん。他の友達には言うなって口止めされてて……」
下手に嘘をついたりせず、あっさり認めるのが慎哉らしい。
「仲良くなった、きっかけって?」
「ちょうど他に話題が合う相手がいなくて、お互い助け合えるっていうのもあったり」
「どんな話してるの?」
「ゲーム以外だと、就職のこと考えてお互い相談したりかな」
なんかもう将来のことまで考えてるみたいだ。
こりゃ私の出る幕はないな。
「ほんと、仲良いんだね」
「仲良いかな? まぁ、他の友達とは違う関係かな」
うん、考えてた通り。
恋愛って、なかなかうまくいかないな。
「私は2人の仲、応援するからね!」
「あ、ありがとう」
「そうならそうと、言ってくれればよかったのに……」
「いや言うほどのことじゃないから……」
「そんなことない。大事なことだよ」
私は自分の気持ちに区切りをつけるために、あえて口にする。
「私ってばプログラミングの授業で一緒になってから、慎哉のこと好きになってたんだから。そういう人がいるんなら先に教えてくれなきゃ。でも、わかったからには2人のこと応援するか、ら、ね……?」
あれ、慎哉の反応がおかしい。
顔が真っ赤になってソワソワしてる。
「どしたの?」
慎哉は、バッグの中からペットボトルを取り出してゴクリと飲む。
「ちょ、ちょっと待って! 真心なんか誤解してるって!」
慎哉の声が裏返っていて、明らかに動揺してる。
中学生じゃあるまいし、付き合ってるのがバレたからって動揺しすぎだって。
慎哉は、スマホを取り出す。
「えーと、許可? なのかな、取るからちょっと待ってね」
彼がメッセージアプリで連絡を取る。
画面の相手の名前を見ると、やっぱり星奈さんだ。
付き合ってることを話すのに、相手の許可取るなんてさすが律儀な慎哉だな。
星奈さんから、すぐに返信がある。
やり取りの内容までは、こちらから見えない。
慎哉はもう一度ペットボトルの飲み物を飲んで、一息ついてから喋り出す。
「あのね、俺と星奈の関係って"オタ友"なの! オタク友達!」
顔を真っ赤にしながら慎哉が、若干キレぎみに言う。
「へ?」
私の口から意図せず間抜けな声が出る。
「何から話したらいいのかなぁ……」
慎哉が照れながら困ってる。
「まず、このあいだ原宿で買い物をしてたのは、一緒にアニメのキャラクターグッズ買いに行ってたの。あの店って1階で女子高生受けするグッズ売ってるけど、上の階でオタク受けするアニメグッズも売ってるんだよ」
真哉が、いつもよりちょっと早口で、言い訳を口にする。
「原宿にはアニメショップとかないから、学校から1番近いオタクスポットでさ。原宿へオタクなもの買いに来る客が少ないから、あそこって、他じゃ売り切れのものが残ってたりする穴場なんだよ」
私は追求の手を緩めない。
「そうなんだ。でも、こないだ何か買ってあげてたでしょ?」
「なんで、俺が星奈に何か買わなきゃいけないの? あれは星奈が、自分で推しのグッズ買ってただけ。俺は星奈がお店に詳しくないから、こういういい店があるよって一緒に行っただけだよ」
「え、でも、あれは恋するオトメの表情だった。テンション高かったし、やたらニコニコしてたし……」
「そうだろうねぇ。でも、それは俺に対する感情じゃなくて、やっと買えた推しのキャラに対する感情だろうねぇ」
「さっき、週に何度も話すって言ってた」
「それは、同じMMORPG……ってわかるかな? ネトゲのRPGやってるから、ゲームの中でのことね。真心も前に誘ったよね?」
そういえば、誘われた気がする。
でも、私はパソコンでゲームするほどのガチゲーマーじゃないので、尻込みしてた。
「さっき、2人で助け合ってるって言ってた」
「うん、ゲームの中でね。この学部がリア充すぎて、リア友でそのゲームやっているのが、俺たちだけだから」
「でも、星奈さんてアナウンサー目指してる人なんでしょ? それなのに、そんなにオタクなの?」
「俺はアナウンサーがオタクでもいいと思うけどね。でも、そのアナウンサー目指してるっていうのが半分は間違い。星奈って東京から離れた県の出身だけど、あいつが東京へ出てきた理由っていうのは、本当は声優を目指してたんだ」
へぇ?
「ウチの大学に合格できる学力あるのに、大学へ行かないで東京で声優の専門へ通いたいって言ったら、親にも学校の先生にも反対されて、仕方なくうちの大学へ受験したっていう変わったやつなの」
はぁ?
「それで入学してすぐの1年の頃から、声優の専門にダブルスクールしてたわけ。たださぁ……。俺も聞いたことないからわからないんだけど、演技が下手らしいんだよ」
はい?
「でも、声とか見た目とかがいいからアナウンサー目指してみたらって勧められて、2年目の今はその専門のアナウンサー科へ通っているんだって」
ほぉ?
「それで、なぜかそっちはとんとん拍子でうまくいちゃってね。見た目もいいし、大学も女子アナが多く出てるウチだからかな。専門へ講師で来てた芸能事務所の人から声かけられて、所属事務所まで決まっちゃったの」
ふぅん。
「事務所から、周りにオタバレしない方がいいって言われてるみたい。あと、来年のミスコンに出場した方がいいっていうのもね」
へー。
「だから星奈的には、声優になりたいオタクが、演技が下手でナレーターやアナウンサー目指してるだけなの!」
ほー。
「あと、さっきからその間抜けな返事、どうにかならないかな? 真面目な話しているのにイラつくかも」
「あ、ごめん」
いや、別にわざとじゃない。心の声がダダ漏れになってただけ。
私は自分のペットボトルから飲み物を飲む。
⭐︎
こんな機会だから、もうちょっと、自分の中にある疑問を解消したい。
まずは星奈さんのことから。
「でも、星奈さんって見た目とかオタクっぽくないよね? ファッションとかヘアとかメイクとか」
SNSに上がってる写真を見ても、明らかにリア充の友達に囲まれてるオシャレな子だ。
「あぁ、それね。入学してすぐの頃に比べて、見た目別人になったよね。中身変わらないけど。1番影響が大きいのは、友達の美麗の影響だね」
美麗っていうのは、ウチの学部のリア充の中でも女王様みたいな存在。
いつも周りにオシャレな子達を連れて歩いてる。
「1年の英語、美麗も同じクラスでさ。美麗って、あれで面倒見がいいんだよ。東京へ出てきて、オシャレさが全くなかった星奈に、着るものとか見た目とか教え込んでたんだよね」
1年の英語って、15人くらいの超少人数。
入学して、まずはそこで仲の良い友達を作るのが普通。
「映画とかで、田舎から出てきた女の子を変身させるっていう物語あるじゃない? なんかああいう感じ。美麗もそれを楽しんでたっぽい。それで見た目も交友関係も美麗の影響受けたんだよね。美麗からオタバレするなって言われてたんじゃないかな」
「でも、星奈さんて派手な服着こなしてるっていうか楽しんでるよね。メイクとかもバッチリでさ」
「あぁ、それね。ある種のコスプレって考えてるみたい。東京のリア充女子大生のコスプレをしてる感覚、って前に言ってた」
そうかコスプレなのか。
なんか妙に納得できる。
⭐︎
星奈さんがどんな人かっていうのは、大体わかってきた。
次は、真哉との関係が気になる。
「星奈さんのことわかったけど、慎哉との関係はどうなの?」
「英語のコミュの授業って1対1でフリートークも結構あったじゃん? それで自然にオタクな話題になってさ」
「英語でオタク話してたの?」
「うん、してたしてた。ゲームとか、アニメとか、声優さんとかの話題でね。すぐに、お互いの趣味が似てるのがわかって仲良くなった。ちょうど、同じMMORPGやってたりっていうのもあってさ」
なるほど。
「ただ意外だったのが、他にオタクな趣味が共有できる友達がみつからなくてね。俺も星奈も、自分たちがオタクだからエンタメのコンテンツが勉強できそうで、この学部に来たんだけど、そういうオタクいないんだよね」
そうなんだ。
「うん。ウチの学生って、真面目に芸術系の大学と迷って選んだとか、その逆に、もっとチャラくてアナウンサーや業界人になりたいとかね。そういうの多いよね。あんまりオタクいない」
ふうん、そうだね。
「俺と星奈って、この学部で珍しくオタ友ができたんで、今に至るまで仲良いんだよ。俺もゲームの専門へ通うか迷ってるから、ダブルスクールどう、なんて聞いたりね。オタク業界人を目指すオタ友だよ。恋愛感情的なのは一切ないって」
そうなの?
「うん。こないだも言った通り。どうやって能力を身につけられるか、って考えてるこの状況じゃ、それどころじゃないって」
なるほどね。
でも、仲良いの隠さなくてもよかったんじゃない?
「うーん。仲良くしているのが周りにわかると、まず付き合ってるのって聞かれそうだったけど、そうじゃないし。それで関係の説明したら、星奈のオタクがバレそうだったからね。俺はオタクなの開き直ってるからいいんだけどさ。星奈の立ち位置って、友達との関係的にも、事務所的にもオタバレまずい空気あるからね」
そんなもんかな。
「気にする人は気にするからね」
真哉の顔がさっぱりしてる。
なんか、やることやったぜ! みたいな達成感出してる。
「これで説明したいことは全部言った。他に、なんか聞きたいことある?」
私も一息ついて、頭を巡らせる。
ふぅ。
「ううん、ないと思う」
だいたい聞いてて納得できて、慎哉の性格からも嘘はついてないはず。
えーと、よかったよかった……、でいいのかな?
慎哉が急にモジモジする。
ん? どうしたのかな。
「それ……でさぁ……」
慎哉が言いづらそうにする。
なんか、すごく照れてる。
「星奈さんて美人だけどさ、仲良くしてるからって、そんなに照れなくてもいいじゃない」
「そうじゃないよ! さっきお前、俺のこと好きって……」
あ!
「言ってない!」
「いや言った!」
「……言ったね、確かに……」
急に思い出して恥ずかしくなってくる。
「ねぇ、聞かなかったことにしてくれない?」
一応きいてみる。
「いやムリ!」
「だよねぇ……」
ふぅ。
星奈さんのことは私の誤解だったみたい。
そこは、よかった。
でも、私の恋愛には、まだ問題が残ってる。
真哉は、なぜ恋愛に乗り気になれないのか。
いい機会だから、本気で話す気になる。
好きバレからの開き直りだ。
「うん、好きよ。慎哉のこと」
思い切ってもう一度、言葉にする。
慎哉が顔をめっちゃ赤くして照れてる。
「慎哉は、やっぱりまだ恋愛なんて、って気持ちなんでしょ?」
「う、うん」
「一応聞くけど、他に気になる人がいる、ってわけじゃないのよね?」
「それは、もちろんそう」
「なんで、まだ恋愛する気になれないの?」
「こないだも言ったけど、自分が好きなゲーム業界にどう関われるか、って悩みがあるから……」
ここまでは、わかっていての確認。
ここから、先に踏み込んでみる。
「就職が決まってから恋愛なの? 職業の悩みが解決するまで、恋愛する気になれないの?」
「そうじゃないけど……。いや、そうなるのかな?」
真哉が、考え込んでいる表情を見せる。
「たとえばだけど、それってテレビゲームするのは先に宿題やってから、みたいな感じ?」
「……うん、そんな感じ、かな」
「ご飯とおかず先に食べてからデザート食べる、みたいな?」
「うん」
「宿題や食事と、恋愛を一緒にするのムリくない?」
真哉が、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「そうかなあ? 主人公がヒロインの愛を手に入れるために、スポーツへ打ち込むとか勉強するとかって、ありがちだけどな」
「どこで?」
「マンガとか、アニメとかで」
私は少し考える。
「それ、少年マンガだからじゃない? 少女マンガなら、そうならないって」
「そうなの?」
「少女マンガの恋愛もので、主人公がスポーツや勉強で結果だすのにこだわりはじめたら、それ違うジャンルだって」
「少女マンガって読んだことないからなぁ。少年マンガと、どう違うの?」
私は頭の中で、お気に入りの少女マンガのストーリーを、いくつか思い浮かべてみる。
「少女マンガは、もっと恋愛に積極的かな。少年マンガは恋愛を特別視してて、かえって避けてるみたいに見える。少女マンガだと、くっつくかどうかはともかく、恋愛は日常の生活の中心になってるのが普通じゃない?」
「ふーん。そうなんだ。少女マンガだと、恋愛はご褒美じゃなくて、日常なんだ」
「ねぇ、少女マンガ貸してあげるから、読んでみる?」
「いや、作品名だけ教えてよ。マンガはサブスクリプションの契約してるから、それで読むよ」
「わかった。家帰ったら教えるね」
私は、お気に入りの少女マンガの中から、どれを教えようかなと考え始める。
真哉が、ちょっと躊躇を見せつつ口を開く。
「ねぇ、参考までに聞きたいんだけど、なんで俺のこと好きなの?」
「言葉にするのは難しいよね。相性が良いと思うから、っていうのじゃ漠然としすぎてるもんね」
好きだから好きなの、では真哉にとっては十分でない気がする。
オタクな彼に上手く説明できたらいいんだけど。
「えーとね、コミュニケーションが上手くいくから、両方向で最も上手くとれる異性の相手だから、っていうのが1番の理由かな」
「コミュニケーション?」
「私ね、恋愛で1番大事なのはコミュニケーションだと思うの。お姉ちゃんの恋愛を見てる影響かな」
⭐︎
前も言ったけど、お姉ちゃんて美人でコミュ力あるハイカーストな人なんだよね。
そのせいか付き合う相手も、見た目が良くてカースト上位の人たちばっかりだったの。
だから、周りには羨ましがられてた。
でも、妹から見てたら内情わかるから、いつもうまくいってなくてね。
能力とか立場があっても、忙しすぎてお姉ちゃんがほっぽって置かれてたり。見た目が良くてコミュも上手いんだけど、お姉ちゃん以外の人とも仲良くしてたり。
それで別れ話する頃になって、初めて本音で話し込むんだけど、そうすると相手の本性が見えて、こんな相手のはずじゃなかった、とかなるの。
それ何度も繰り返すの見てて、コミュニケーションが取れる相手っていうのが、ほんと大事だなって思って。
それで私も高校生とかになって、この人いいなあとか、気になる人ができてくるんだけど、コミュニケーションとってみると、うまくいかないんだよね。
まず、うまくコミュできない相手が結構いて、うまくコミュができたらできたで、なんか相性良くないなあってなってね。
⭐︎
「だから慎哉が、はじめてなんだ。コミュがうまく取れて、それでいて居心地が良いって感じられるのが。だから、もっと仲良くなってみたい、付き合いたいって思ってるの」
私は好きバレした勢いで本音で話す。
真哉は、うんうんと頷きながら聞いてくれる。
「そうなんだ。なんか、ありがとうな」
慎哉が、そう返事して優しい笑みを見せる。
「俺も、ほんと一度よく考えてみるよ」
「うん。考えてみて」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
そんなわけで、私たちの関係は、好きバレした片思いになった。
特別な告白イベントとかじゃなくて、会話してるうちにそうなったのが私たちらしい。
話題が、ちょうどひと段落ついて、照れるような恥ずかしいような、いたたまれない気持ちになる。
さすがに発表の準備をする気にはなれず、ミーティングから帰る。
⭐︎
さぁて、真哉には、どの少女マンガを紹介しようかな。