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第2話 ヤキモチやくよりも応援するぞっ! と自分に言い聞かせてみる

 大学の最寄駅は、渋谷と表参道になる。

 どっちも有名な駅だけど、かなりおもむきが違う。


 渋谷は日本でも有数のゴチャゴチャした繁華街はんかがいだけど、表参道はオシャレな街。


 表参道は、その名の通り「参道さんどう」で、明治神宮へお参りする道ってこと。

 だから表参道から明治神宮までは、歩けるぐらいの距離。


 明治神宮といえば最寄駅が原宿駅。

 原宿っていえば、竹下通りが有名だけど、裏ハラ(裏原宿)のキャットストリートとか、表参道から明治神宮までの表通おもてどおりも良い。


 大学の帰り道に、素敵な道を散策できるのは、ちょっとしたご褒美。



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 今日は授業の帰りに、高校の友達と原宿でお茶をしてた。

 大学は違うけど、似たような学部なのでお互いに情報交換。

 大学の友達とは違うノリで、楽しく過ごせた。


 友達と原宿駅でバイバイして、私は定期が使える表参道まで歩き。

 原宿の街も、クリスマスの雰囲気に徐々にいろどられてる。


 六本木とも渋谷とも雰囲気が違って、それが訪れる客層の違いになってる。

 逆かな、客層が違うから街の雰囲気が違うのかな。

 卵とにわとりは、どちらが先なんだっけと考えながら街を歩く。



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 私が華やいだ街並みと、着飾った人通りを眺めながら表通りの歩道を歩いてると、飾り立てられた店舗から、見知った顔が歩道へ出てきた。


 慎哉だ。

 私との間には、人混みがあって距離もある。だからまだ、彼は私に気づいてない。

 慎哉が出てきた店は女の子(ごの)みするグッズショップで、そんな店に何の用があるのかなぁと考えながら、近づいて声をかけようと思う。


 でも、私は突然に立ち尽くす。後ろを歩いてる人には、迷惑をかけたかもしれない。


 慎哉の後ろから、女の人が一緒に出てきた。相当にキレイな人だ。


 女の人はその店で買い物した袋を持ってて、慎哉に声をかける。すごく機嫌がいい。彼から何か買ってもらったのかな。

 慎哉も女の人に笑顔で返事をする。すごくリラックスした笑顔で、私が見たことのない彼の表情だ。


 私は咄嗟とっさに人混みにまぎれる。

 2人に対して見失わない程度に距離をあける。


 2人が表参道の駅の方へ歩き始めるので、私も後ろからついてく。


 女の人は美人系でスタイルも良くて、ヘアやメイクも普通じゃない。

 身長も高くて、手入れされてるロングヘアで、丁寧なメイク。


 年齢は同じくらいだから大学生だと思うんだけど、特別な華やかさがある。

 ファッションも、オシャレな人が多いこの街の中で、洗練されたセンスを感じさせる。


 女の人は、表参道という街にすごく馴染なじんでる。

 この街だから誰も振り返らないけど、もし他の街なら振り返られるレベルの人。


 2人は表参道の、地下鉄の入り口のところで立ち止まる。

 私は2人の視界に入らないように移動する。


 後ろから歩いててわかりにくかったけど、やっぱり2人の表情は特別な関係に見える。

 私はスマホのカメラで、めいっぱい拡大させて女の人を写す。

 あまりはっきり写らなかったけれど、バレないためには仕方がない。


 2人はそこで2、3分ほど立ち話をする。それから名残なごりしそうに別れる。

 女の人は地下鉄の入り口へ向かい、慎哉は大学へと向かう。

 確か慎哉は、このあと授業があったはずだ。


 私は、どちらを追うか悩む。

 でも心を落ち着けるために、ひとまず大人しく自分の家に帰ることにする。



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 その女の人が誰かは、あっけなくわかった。

 私たちと同じ学部で、同学年の星奈せいなっていう子。

 慎哉とのつながりは1年の英語のクラスが同じ。でも2人が、付き合ってるとか、特別に仲が良いなんて話題になったことはない。


 家に帰るまでの電車の中で、コミュりょくとメッセージアプリとSNSを駆使くしして、ここまで調べられた。


⭐︎


 星奈せいなって子は、ウチの学部の中で、派手な女の子のグループに所属してる。リア充グループ、ハイカースト、そんな感じ。

 私はそういう子たちと距離があるから、すぐにわからなかった。


 その子はアナウンサーが目標で、そのための専門へダブルスクールで通ってるらしい。

 芸能事務所から声をかけられていて、来年のミスコンを狙ってるなんて噂もある。


 ウチの学部には、私が知ってるだけでも、芸能界に関わってる人が何人もいる。

 高校の頃までなら考えられなかった環境。

 卒業生には多くの女子アナがいるから、夢物語でもなさそう。


 あの容姿なら当然の目標かな。

 ヘアやメイクの雰囲気が、人と違うのも当たり前。ファッションにも気をつかってるはず。


 仲の良い友達とかは、派手な女の子が多くて、特に彼氏とかっていないらしい。

 慎哉との接点は、1年の英語のクラスだけで、他にはなさそう。


⭐︎


 この情報から、2人の関係を推理。


 1年の英語の授業って、毎日あるから仲良くなりやすい。

 大学へ入学してすぐだし、外国人の先生だから、こっちの連帯感も強まる。普通の授業と違って、授業中の会話やグループワークも多い。


 だから2人が仲良くなったのは、英語の授業で間違いない、はず。

 英語きっかけで付き合い始めたカップルって、いっぱいいるから不思議じゃない。


 不思議なのは、なんで隠してるの、ってこと。

 でも、相手の子がアナウンサーになりたくて、芸能事務所に所属してるのなら、それが理由かも。


⭐︎


 これが1番しっくりくる推理。これ以外に考えられない。


 それなら今日のことは、周りに内緒で付き合ってる2人が、秘密で一緒にいるところを、偶然に私が見かけてしまった、で説明がつく。


 でもそうすると、こないだ彼の言ってたことは嘘になっちゃうから悲しいけど、彼女を守るためなら嘘ぐらいつくか。

 悲しいけどね。


⭐︎


 一通り考えを整理して、ベッドの上にひっくり返る。


 仲のいい男の子に他の女の子がいたなんて、お姉ちゃんの恋愛を見てきて、何度も見たパターン。

 いや、私の場合は付き合ってるわけじゃないから、文句が言える義理もない。


 うーん。


 慎哉は、いいやつだ。

 私の方は乗り気だった。でも彼の方は、その気があるそぶりを見せたりしてない。


 ここはジタバタしてもしょうがない。

 慎哉と彼女を応援しつつ、自分の心が他の男の子に向かうのを待つ、しかないか。


 これが、恋愛のたびにジタバタしてる、お姉ちゃんから学んだ教訓。



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 翌週、2人で話すため、私から慎哉を誘った。


 口実は、このあいだ調査にでかけた発表の準備。


 場所は大学の図書館のミーティングルーム。3人以上ならグループワーク用に、個室が利用できる。今回も智也ともや朋子ともこの名前を使わせてもらう。

 平日の授業がいてる時間を、2人でり合わせた。



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



「六本木で撮影した写真なんだけど……」



 慎哉が自分のタブレットで写真を表示して、発表に使う素材について説明する。


 ミーティングルームには、私が先に部屋へ来て待ってた。

 後から慎哉が来て、席に着くとすぐに発表の準備をはじめた。



「ちょっと待って、ごめん、他の話してもいいかな」



 私が彼の話をさえぎる。

 気になることがあるのに、授業の準備するなんてムリ。



「ん? どした? もちろんいいけど」



 慎哉が不思議そうな顔をする。

 私は率直そっちょくに疑問をぶつける。



「先週の木曜日にね、原宿で高校の友達とお茶してたんだ。そうしたら慎哉と、星奈せいなさんていう子が一緒に歩いてるの見かけたんだよね」



 私は準備してきた言葉を一気に口にする。

 慎哉の表情が、あからさまにバツの悪そうな顔に変化する。



「見られちゃってたか……。それ、内緒にしてくれないかな?」



 やっぱり。

 思ってた通り、2人はそういう関係なんだ……。



「いつから仲良くしてるの?」


「1年の英語のクラスが一緒で、その頃から」


「いつも2人で会ったりしてるの?」


「学校の帰りに会うのは珍しいけど、ネットでは週に何回か話してる感じかな」



 2人の関係は、私が思ってたより親密そう。



「意外だった。私にくらい話してくれてもいいのに」


「ごめん。他の友達には言うなって口止めされてて……」



 下手に嘘をついたりせず、あっさり認めるのが慎哉らしい。



「仲良くなった、きっかけって?」


「ちょうど他に話題が合う相手がいなくて、お互い助け合えるっていうのもあったり」


「どんな話してるの?」


「ゲーム以外だと、就職のこと考えてお互い相談したりかな」



 なんかもう将来のことまで考えてるみたいだ。

 こりゃ私の出る幕はないな。



「ほんと、仲良いんだね」


「仲良いかな? まぁ、他の友達とは違う関係かな」



 うん、考えてた通り。

 恋愛って、なかなかうまくいかないな。



「私は2人の仲、応援するからね!」


「あ、ありがとう」


「そうならそうと、言ってくれればよかったのに……」


「いや言うほどのことじゃないから……」


「そんなことない。大事なことだよ」



 私は自分の気持ちに区切りをつけるために、あえて口にする。



「私ってばプログラミングの授業で一緒になってから、慎哉のこと好きになってたんだから。そういう人がいるんなら先に教えてくれなきゃ。でも、わかったからには2人のこと応援するか、ら、ね……?」



 あれ、慎哉の反応がおかしい。

 顔が真っ赤になってソワソワしてる。



「どしたの?」



 慎哉は、バッグの中からペットボトルを取り出してゴクリと飲む。



「ちょ、ちょっと待って! 真心こころなんか誤解してるって!」



 慎哉の声が裏返っていて、明らかに動揺してる。

 中学生じゃあるまいし、付き合ってるのがバレたからって動揺しすぎだって。


 慎哉は、スマホを取り出す。



「えーと、許可? なのかな、取るからちょっと待ってね」



 彼がメッセージアプリで連絡を取る。

 画面の相手の名前を見ると、やっぱり星奈せいなさんだ。


 付き合ってることを話すのに、相手の許可取るなんてさすが律儀りちぎな慎哉だな。


 星奈せいなさんから、すぐに返信がある。

 やり取りの内容までは、こちらから見えない。


 慎哉はもう一度ペットボトルの飲み物を飲んで、一息ついてからしゃべり出す。



「あのね、俺と星奈せいなの関係って"オタ友"なの! オタク友達!」



 顔を真っ赤にしながら慎哉が、若干キレぎみに言う。



「へ?」



 私の口から意図せず間抜けな声が出る。



「何から話したらいいのかなぁ……」



 慎哉が照れながら困ってる。



「まず、このあいだ原宿で買い物をしてたのは、一緒にアニメのキャラクターグッズ買いに行ってたの。あの店って1階で女子高生受けするグッズ売ってるけど、上の階でオタク受けするアニメグッズも売ってるんだよ」



 真哉しんやが、いつもよりちょっと早口で、言い訳を口にする。



「原宿にはアニメショップとかないから、学校から1番近いオタクスポットでさ。原宿へオタクなもの買いに来る客が少ないから、あそこって、他じゃ売り切れのものが残ってたりする穴場なんだよ」



 私は追求の手をゆるめない。



「そうなんだ。でも、こないだ何か買ってあげてたでしょ?」


「なんで、俺が星奈せいなに何か買わなきゃいけないの? あれは星奈せいなが、自分でしのグッズ買ってただけ。俺は星奈せいながお店に詳しくないから、こういういい店があるよって一緒に行っただけだよ」


「え、でも、あれは恋するオトメの表情だった。テンション高かったし、やたらニコニコしてたし……」


「そうだろうねぇ。でも、それは俺に対する感情じゃなくて、やっと買えたしのキャラに対する感情だろうねぇ」


「さっき、週に何度も話すって言ってた」


「それは、同じMMORPG……ってわかるかな? ネトゲのRPGやってるから、ゲームの中でのことね。真心こころも前に誘ったよね?」



 そういえば、誘われた気がする。

 でも、私はパソコンでゲームするほどのガチゲーマーじゃないので、尻込みしてた。



「さっき、2人で助け合ってるって言ってた」


「うん、ゲームの中でね。この学部がリア充すぎて、リア友でそのゲームやっているのが、俺たちだけだから」


「でも、星奈せいなさんてアナウンサー目指してる人なんでしょ? それなのに、そんなにオタクなの?」


「俺はアナウンサーがオタクでもいいと思うけどね。でも、そのアナウンサー目指してるっていうのが半分は間違い。星奈せいなって東京から離れた県の出身だけど、あいつが東京へ出てきた理由っていうのは、本当は声優を目指してたんだ」



 へぇ?



「ウチの大学に合格できる学力あるのに、大学へ行かないで東京で声優の専門へ通いたいって言ったら、親にも学校の先生にも反対されて、仕方なくうちの大学へ受験したっていう変わったやつなの」



 はぁ?



「それで入学してすぐの1年の頃から、声優の専門にダブルスクールしてたわけ。たださぁ……。俺も聞いたことないからわからないんだけど、演技が下手らしいんだよ」



 はい?



「でも、声とか見た目とかがいいからアナウンサー目指してみたらって勧められて、2年目の今はその専門のアナウンサー科へ通っているんだって」



 ほぉ?



「それで、なぜかそっちはとんとん拍子でうまくいちゃってね。見た目もいいし、大学も女子アナが多く出てるウチだからかな。専門へ講師で来てた芸能事務所の人から声かけられて、所属事務所まで決まっちゃったの」



 ふぅん。



「事務所から、周りにオタバレしない方がいいって言われてるみたい。あと、来年のミスコンに出場した方がいいっていうのもね」



 へー。



「だから星奈せいな的には、声優になりたいオタクが、演技が下手でナレーターやアナウンサー目指してるだけなの!」



 ほー。



「あと、さっきからその間抜けな返事、どうにかならないかな? 真面目な話しているのにイラつくかも」


「あ、ごめん」



 いや、別にわざとじゃない。心の声がダダれになってただけ。

 私は自分のペットボトルから飲み物を飲む。


⭐︎


 こんな機会だから、もうちょっと、自分の中にある疑問を解消したい。

 まずは星奈せいなさんのことから。



「でも、星奈せいなさんって見た目とかオタクっぽくないよね? ファッションとかヘアとかメイクとか」



 SNSに上がってる写真を見ても、明らかにリア充の友達に囲まれてるオシャレな子だ。



「あぁ、それね。入学してすぐの頃に比べて、見た目別人になったよね。中身変わらないけど。1番影響が大きいのは、友達の美麗みれいの影響だね」



 美麗みれいっていうのは、ウチの学部のリア充の中でも女王様みたいな存在。

 いつも周りにオシャレな子達を連れて歩いてる。



「1年の英語、美麗みれいも同じクラスでさ。美麗みれいって、あれで面倒見がいいんだよ。東京へ出てきて、オシャレさが全くなかった星奈せいなに、着るものとか見た目とか教え込んでたんだよね」



 1年の英語って、15人くらいの超少人数。

 入学して、まずはそこで仲の良い友達を作るのが普通。



「映画とかで、田舎から出てきた女の子を変身させるっていう物語あるじゃない? なんかああいう感じ。美麗みれいもそれを楽しんでたっぽい。それで見た目も交友関係も美麗みれいの影響受けたんだよね。美麗みれいからオタバレするなって言われてたんじゃないかな」


「でも、星奈せいなさんて派手な服着こなしてるっていうか楽しんでるよね。メイクとかもバッチリでさ」


「あぁ、それね。ある種のコスプレって考えてるみたい。東京のリア充女子大生のコスプレをしてる感覚、って前に言ってた」



 そうかコスプレなのか。

 なんか妙に納得できる。


⭐︎


 星奈せいなさんがどんな人かっていうのは、大体わかってきた。

 次は、真哉しんやとの関係が気になる。



星奈せいなさんのことわかったけど、慎哉との関係はどうなの?」


「英語のコミュの授業って1対1でフリートークも結構あったじゃん? それで自然にオタクな話題になってさ」


「英語でオタクばなししてたの?」


「うん、してたしてた。ゲームとか、アニメとか、声優さんとかの話題でね。すぐに、お互いの趣味が似てるのがわかって仲良くなった。ちょうど、同じMMORPGやってたりっていうのもあってさ」



 なるほど。



「ただ意外だったのが、他にオタクな趣味が共有できる友達がみつからなくてね。俺も星奈せいなも、自分たちがオタクだからエンタメのコンテンツが勉強できそうで、この学部に来たんだけど、そういうオタクいないんだよね」



 そうなんだ。



「うん。ウチの学生って、真面目に芸術系の大学と迷って選んだとか、その逆に、もっとチャラくてアナウンサーや業界人になりたいとかね。そういうの多いよね。あんまりオタクいない」



 ふうん、そうだね。



「俺と星奈せいなって、この学部で珍しくオタ友ができたんで、今に至るまで仲良いんだよ。俺もゲームの専門へ通うか迷ってるから、ダブルスクールどう、なんて聞いたりね。オタク業界人を目指すオタ友だよ。恋愛感情的なのは一切ないって」



 そうなの?



「うん。こないだも言った通り。どうやって能力を身につけられるか、って考えてるこの状況じゃ、それどころじゃないって」



 なるほどね。

 でも、仲良いの隠さなくてもよかったんじゃない?



「うーん。仲良くしているのが周りにわかると、まず付き合ってるのって聞かれそうだったけど、そうじゃないし。それで関係の説明したら、星奈せいなのオタクがバレそうだったからね。俺はオタクなの開き直ってるからいいんだけどさ。星奈せいなの立ち位置って、友達との関係的にも、事務所的にもオタバレまずい空気あるからね」



 そんなもんかな。



「気にする人は気にするからね」



 真哉しんやの顔がさっぱりしてる。

 なんか、やることやったぜ! みたいな達成感出してる。



「これで説明したいことは全部言った。他に、なんか聞きたいことある?」



 私も一息ついて、頭をめぐらせる。

 ふぅ。



「ううん、ないと思う」



 だいたい聞いてて納得できて、慎哉の性格からも嘘はついてないはず。

 えーと、よかったよかった……、でいいのかな?


 慎哉が急にモジモジする。

 ん? どうしたのかな。



「それ……でさぁ……」



 慎哉が言いづらそうにする。

 なんか、すごく照れてる。



星奈せいなさんて美人だけどさ、仲良くしてるからって、そんなに照れなくてもいいじゃない」


「そうじゃないよ! さっきお前、俺のこと好きって……」



 あ!



「言ってない!」


「いや言った!」


「……言ったね、確かに……」



 急に思い出して恥ずかしくなってくる。



「ねぇ、聞かなかったことにしてくれない?」



 一応きいてみる。



「いやムリ!」


「だよねぇ……」



 ふぅ。

 星奈せいなさんのことは私の誤解だったみたい。

 そこは、よかった。


 でも、私の恋愛には、まだ問題が残ってる。

 真哉しんやは、なぜ恋愛に乗り気になれないのか。


 いい機会だから、本気で話す気になる。

 好きバレからの開き直りだ。



「うん、好きよ。慎哉のこと」



 思い切ってもう一度、言葉にする。

 慎哉が顔をめっちゃ赤くして照れてる。



「慎哉は、やっぱりまだ恋愛なんて、って気持ちなんでしょ?」


「う、うん」


「一応聞くけど、他に気になる人がいる、ってわけじゃないのよね?」


「それは、もちろんそう」


「なんで、まだ恋愛する気になれないの?」


「こないだも言ったけど、自分が好きなゲーム業界にどう関われるか、って悩みがあるから……」



 ここまでは、わかっていての確認。

 ここから、先に踏み込んでみる。



「就職が決まってから恋愛なの? 職業の悩みが解決するまで、恋愛する気になれないの?」


「そうじゃないけど……。いや、そうなるのかな?」



 真哉しんやが、考え込んでいる表情を見せる。



「たとえばだけど、それってテレビゲームするのは先に宿題やってから、みたいな感じ?」


「……うん、そんな感じ、かな」


「ご飯とおかず先に食べてからデザート食べる、みたいな?」


「うん」


「宿題や食事と、恋愛を一緒にするのムリくない?」



 真哉しんやが、ゆっくりと言葉を選ぶ。



「そうかなあ? 主人公がヒロインの愛を手に入れるために、スポーツへ打ち込むとか勉強するとかって、ありがちだけどな」


「どこで?」


「マンガとか、アニメとかで」



 私は少し考える。



「それ、少年マンガだからじゃない? 少女マンガなら、そうならないって」


「そうなの?」


「少女マンガの恋愛もので、主人公がスポーツや勉強で結果だすのにこだわりはじめたら、それ違うジャンルだって」


「少女マンガって読んだことないからなぁ。少年マンガと、どう違うの?」



 私は頭の中で、お気に入りの少女マンガのストーリーを、いくつか思い浮かべてみる。



「少女マンガは、もっと恋愛に積極的かな。少年マンガは恋愛を特別視してて、かえって避けてるみたいに見える。少女マンガだと、くっつくかどうかはともかく、恋愛は日常の生活の中心になってるのが普通じゃない?」


「ふーん。そうなんだ。少女マンガだと、恋愛はご褒美ほうびじゃなくて、日常なんだ」


「ねぇ、少女マンガ貸してあげるから、読んでみる?」


「いや、作品名だけ教えてよ。マンガはサブスクリプションの契約してるから、それで読むよ」


「わかった。家帰ったら教えるね」



 私は、お気に入りの少女マンガの中から、どれを教えようかなと考え始める。


 真哉しんやが、ちょっと躊躇ちゅうちょを見せつつ口を開く。



「ねぇ、参考までに聞きたいんだけど、なんで俺のこと好きなの?」


「言葉にするのは難しいよね。相性が良いと思うから、っていうのじゃ漠然としすぎてるもんね」



 好きだから好きなの、では真哉しんやにとっては十分でない気がする。

 オタクな彼に上手く説明できたらいいんだけど。



「えーとね、コミュニケーションが上手くいくから、両方向で最も上手くとれる異性の相手だから、っていうのが1番の理由かな」


「コミュニケーション?」


「私ね、恋愛で1番大事なのはコミュニケーションだと思うの。お姉ちゃんの恋愛を見てる影響かな」


⭐︎


 前も言ったけど、お姉ちゃんて美人でコミュ力あるハイカーストな人なんだよね。

 そのせいか付き合う相手も、見た目が良くてカースト上位の人たちばっかりだったの。


 だから、周りにはうらやましがられてた。

 でも、妹から見てたら内情わかるから、いつもうまくいってなくてね。


 能力とか立場があっても、忙しすぎてお姉ちゃんがほっぽって置かれてたり。見た目が良くてコミュも上手いんだけど、お姉ちゃん以外の人とも仲良くしてたり。

 それで別れ話する頃になって、初めて本音で話し込むんだけど、そうすると相手の本性が見えて、こんな相手のはずじゃなかった、とかなるの。


 それ何度も繰り返すの見てて、コミュニケーションが取れる相手っていうのが、ほんと大事だなって思って。


 それで私も高校生とかになって、この人いいなあとか、気になる人ができてくるんだけど、コミュニケーションとってみると、うまくいかないんだよね。


 まず、うまくコミュできない相手が結構いて、うまくコミュができたらできたで、なんか相性良くないなあってなってね。


⭐︎


「だから慎哉が、はじめてなんだ。コミュがうまく取れて、それでいて居心地が良いって感じられるのが。だから、もっと仲良くなってみたい、付き合いたいって思ってるの」



 私は好きバレした勢いで本音で話す。

 真哉しんやは、うんうんと頷きながら聞いてくれる。



「そうなんだ。なんか、ありがとうな」



 慎哉が、そう返事して優しい笑みを見せる。



「俺も、ほんと一度よく考えてみるよ」


「うん。考えてみて」



⭐︎ ⭐︎ ⭐︎



 そんなわけで、私たちの関係は、好きバレした片思いになった。

 特別な告白イベントとかじゃなくて、会話してるうちにそうなったのが私たちらしい。


 話題が、ちょうどひと段落ついて、照れるような恥ずかしいような、いたたまれない気持ちになる。

 さすがに発表の準備をする気にはなれず、ミーティングから帰る。


⭐︎


 さぁて、真哉しんやには、どの少女マンガを紹介しようかな。

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