【連載版始めました】このゲームをやり尽くした私を断罪する? どうぞどうぞ、やってみてくださいな。
「ルージュ様、あなたの横暴はもう見逃せません! みなさん! 私たちは彼女の悪事をここに告発し、相応の刑罰を求めます!」
一番前に立つ可憐な少女は周囲の貴族たちに聞こえるように強く声を上げた。悪を正そうと確かな決意を持って立ち向かうその姿ははたから見れば勇敢に映るのだろうが、これから何が起きるか知っている私にとっては滑稽極まりないものだった。
「あら、わたくしが悪事を行ったとは、聞こえが悪いですわね。是非、その詳細を教えてくださいませ」
一切動揺を見せず淡々と振る舞えば彼女たちは苛立ちを隠せずにこちらを睨んでくる。ここは王国の名誉ある学園の卒業パーティー。その晴れ舞台で、私、ルージュ・ド・ラリマーは一人の平民の少女と数人の貴族令嬢たちに断罪されようとしている。え? 断罪される筋合い? ないない。
「知らないフリをしても無駄です! こちらには証拠だってあるんですから!」
目の前の少女たちはそれぞれの手に持った紙を掲げ、そこに記された内容を高らかに読み上げていく。それは私が彼女に対して行ったとされる嫌がらせや横暴な態度、身分差別、果ては我が侯爵家の横領にまで及んでいた。読み上げられる内容にざわめく周囲を見て彼女は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ルージュ様、罪をお認めになってください!」
彼女が自分の置かれた状況を理解できていないことが私には滑稽で仕方なかった。込み上げてくる笑いを堪えながら私はただ一言、冷たく言い放つ。
「それで?」
このゲームをやり尽くした私を断罪するなんて、簡単にできると思います?
――
「ぎゃーッ!? って、いや誰これ、どえらい別嬪さんじゃないですかッ!?」
ある日、目が覚めて鏡を見た私はそこに映ったとんでもない美人に驚き、腹の底からの悲鳴を上げた。そしてすぐに気がついた。自分が最近やり込んでいた乙女ゲームの悪女、ルージュ・ド・ラリマーになっていると。
「婚約は破棄していただいて構いませんので、このような無礼をお許しください」
「別に破棄しないが?」
「え?」
異世界転生して侯爵令嬢、それも悪役になるなんてことが本当にあるんだなと思ったのが今から大体3年前。その時の私は何を思ったのか慌てて状況を婚約者である王太子アルバートに相談し婚約破棄の申し出をしたものの、転生者であることに興味を持った彼から婚約破棄を拒否されてしまったのだ。
「いや本当に良いんですか私で」
「その前世の話などが色々面白いから、良し」
「ええー……まさかリアルで『おもしれー女』認定される日が来るとは」
なってしまったものは仕方がない。それからは前世と今世の知識を駆使しながら王妃教育をこなし、領地の政治にも関わるなど充実した日々を送った。前世の知識はそこそこ役立ち、領地の発展にそれなりに貢献できた。まだ学生だと思えば上々だろう。学園に入学したのは転生した直後の時期であり、最初は間違えて前世のノリを周囲に発揮してしまいそうになったがギリギリで堪えていた。ちなみに今では努力を重ね続けて(外面は)才色兼備の完璧な侯爵令嬢だ。私、がんばったよね、うんうん。
そんなこんなで案外平和に転生生活を送ってきたのだが、去年、学園にとある平民の少女が転入してきた。彼女こそがゲームの主人公だ。学園の門をくぐったその瞬間からゲームのシナリオが動き出す。どうやら彼女は『精霊の姫君』という不思議な力を持ち、その能力を見込まれてこの学園にやってきたらしい。ゲームの中では彼女はこの力を磨き、周囲の問題を解決しながら一癖も二癖もある見目麗しい男性たちと恋に落ちていく。
だが彼女の転入から数日経たないうちに私は彼女が転生者であることに気づいた。というかアホ過ぎてバレバレだった。『クエスト』『好感度』『レベリング』『バグ』など、彼女が口にする単語はこのゲームをプレイしていた人間にしか使わないものだったのだ。さらに「サブイベントのスチルとか回収だるいわ~」「課金アイテム高すぎ」「授業とか攻略に必要ある?」など、普通の人が言わないようなことを堂々と口にする彼女はもはや隠す気ゼロであった。前世の知識を今世の文句として口に出しやりたい放題。少しは周囲に気を遣えと心の中でため息をつく。
そして案の定、彼女は次々と問題を起こしていった。身分差を一切気にせず婚約者がいる男性にまで擦り寄り、しかもゲーム攻略対象ですらない人物に対しても同様に振る舞った。それを注意されるなど気に入らないことがあるたびに「〇〇様が私に酷い事を……でもっ、身分が違うので……仕方がないのです……でも、私っ」と涙ながらに嫌がらせ行為をでっち上げる始末だった。彼女は一応、国に守られた存在であり、相手にすると周囲の者たちが不利益を被るため次第に誰も注意できなくなった。それどころか彼女に取り入ろうとする一部の貴族令嬢たちが取り巻きとなり、彼女の問題行動は徐々にエスカレートしていった。
このままでは学園生活に支障が出る。そう考えた私は侯爵令嬢として彼女の対応に乗り出した。私だけが彼女に注意することで彼女からの全てのヘイトを私に集め、他の人々への被害を減らすことにしたのだ。困っていた人たちには内密に話を通し、何かあれば私に彼女の相手を押し付けるよう促した。
もちろん、この件は両親や王族にも相談し同意を得ていた。さらに保身のため、私の後ろには王家の隠密が常に控えていた。つまり私の全ての行動は国に監視されているのだ。だから彼女がどれだけ精密に証拠を捏造し冤罪をふっかけようとも、王家の前での断罪は不可能だ。強力な後ろ盾を得た私は彼女に何か問題が起きれば率先して注意し、その様子を隠密に記録させた。彼女が私に対するあからさまな誹謗中傷や嘘を広めたときも密かにその証拠を集め続けた。あくまで彼女に正々堂々と立ち向かう形を取ったのだが、彼女はその状況に気づくことはなかったようだ。
そうして迎えた卒業式。彼女は取り巻きとともに私に対する告発劇を決行したのだ。
――
「え?」
皆の前で吊し上げられた私が哀れに狼狽える様を見れるとでも思っていたのか、ぽかんと間抜けな顔を晒している少女に対し、私は至って冷静に言葉を続ける。
「え? ではなく、それで、その証拠がなんなのかと訊いているのですわ。それが正しい情報だという保証はありまして?」
「なっ……! これはみんなが頑張って集めてくれたれっきとした証拠です! 馬鹿にしないでください!」
「みんな、ですか?」
周囲の貴族たちの前で私を断罪しようと意気込んでいるが、彼女が持っている『証拠』とやらはすべてが脚色され捏造されたものでしかない。私の反応が予想外であると悟ると、彼女は一瞬動揺したようだがそれでも強気を装っていた。
「ル、ルージュ様! あなたが行った数々の非道、ここに明らかにします!」
彼女は再度私を責め立てるが、私は冷静に、そしてゆっくりと彼女の目を見つめながら言葉を続けた。
「なるほど。ならばこちらにも言い分がありますわ。皆様の前ですべてを明らかにしましょう」
彼女の顔がさっと青ざめたのを見て私は内心でほくそ笑んだ。彼女は知らなかったのだ。この場には王家の隠密が潜んでおり、その報告が既に王に届いていることを。
断罪されるべきは私ではない――彼女だ。
「ルージュ様、こちらを」
「あら、ちょうどいいわね。ありがとう」
さっと背後に現れた隠密から差し出された紙束を受け取り、ざっと目を通す。紙束を返し内容を読み上げるように命じれば反撃の準備は整った。では、こちらも証拠を出していこうか。
私が彼女に行ったとされる嫌がらせ――教科書を破いたり、池に突き落としたり、頬を叩いたり――これはそもそもやっていない。どうやら色仕掛けや『精霊の姫君』の便宜をちらつかせて捕まえた証人たちに嘘の証言をさせたようだ。
横暴な態度や身分差別に関する告発も、単に注意されたことを大げさに膨らませたものだ。他人の容姿や趣味を馬鹿にする行為など、例え平民同士でも普通に無礼なレベルだ。注意するに決まっているだろう。
侯爵家の横領などもそんな事実はない。王族によって監視されていたので実態は把握されている。証拠は侯爵家をよく思っていない家が証人となっていたに過ぎない。
実を言えば、私はこのゲームの全ルート、全アイテム、全イベントを回収済みだ。そう、やり尽くしているのだ。ファンブックも読み込んでいる。当然、何度も何度も見ることになったルージュの断罪は、具体的な内容まで詳細に覚えている。だからこそそれを回避するために行動しているのは当然のことだろう。この証拠もこの日のために準備していた。抜かりはない。
ゲームの中で、主人公を引き立てるための舞台装置としての悪役であったルージュや侯爵家は実際にこれらをしていたが、それが現実にならないよう私は全力を尽くしたのだ。全部、最初から事細かに知っていたからこそ対応できた。
「違う、違う、違う……!」
一つ一つの捏造の証拠が出るたびに彼女の顔が徐々に引き攣ったものに変わっていく。先程の証拠が全てでっち上げだということは明らかだった。断罪などできるわけがないのだ。
皆は普段から私を見ているのだから、私と彼女、どちらを信用するかなんて明白だろう。先程の告発のざわめきも「いや、この人がそんなことするはずないよね」「何言ってんだこいつ」のざわめきだ。最初からこの断罪劇の成功を信じているのは、彼女とその取り巻きだけ。加えて彼女のやらかしを語ってやれば、彼女とつるむことで甘い汁を吸っていた後ろの取り巻きたちも状況が飲み込めずにオロオロしている。そんななか彼女は大きな声を上げた。
「み、みなさん騙されないでくださいっ! この人は嘘を吐いています。そんな証拠、全て捏造です! ルージュ様、罪を認めて真実をお話しになってくださいっ!」
「罪とはなんです? わたくしはさっきから真実しか話してませんわよ?」
「そんなわけないでしょ! だってあなたは!」
皆に仇を為す悪役のはずだと言いたいのだろう。先ほどの勝ち誇った笑みは消え、憎悪のこもった表情で睨みつけてくる。ここまで思い通りとは上手くいきすぎて愉快だ。
「なんだ、騒がしいな。何があった?」
「あら、アルバート様、ごきげんよう」
この騒ぎに気が付いた王太子アルバートがこちらに近づいてくると、彼女は目の色を変えて彼に駆け寄っていった。そして胸に飛び込むように縋り付き、上目づかいで見つめ、大きな目に涙を一杯にためてアルバートに訴えかける。
「ア、アルバート様っ! 私……ルージュ様が私に酷いことを! 私、ルージュ様の悪事を皆に知ってもらうためにここに……なのに、なのに……っ」
「なんだと? 悪事とはいただけないな。詳しく聞かせてくれ」
アルバートは前のめりになって彼女に話を促す。すると彼に聞いてもらえるとわかった彼女は逆転勝利を確信したのか、嬉々として先ほどの断罪の内容を語り始めた。
「ふむ……つまり、嫉妬で狂ったルージュがそのようなことをしたと。それは辛かったな」
「アルバート様……私は大丈夫、です。でも、ルージュ様は罪を認めてくださらなくて」
「そうか」
「私、本当に悲しくて、」
「そうか」
「いや、そうか、ではなくてっ」
話を聞いても頷くだけでなかなか私への断罪の言葉を言わないアルバートに対し、彼女はしびれを切らしたのか徐々に苛立ち始めた。そして、
「だ、だから……その、ルージュ様が酷いので、」
「そうだな、酷いな。それでどうしたい?」
「えーと、その……だから、この人に刑罰を……国外追放しちゃってくださいっ!」
「そして?」
アルバートに誘導されていることに気づかない彼女は、勢いに乗ってさらに突き進む。
「そして……こんな酷い人はアルバート様に相応しくありません。私と婚約しましょうアルバート様! 私が王妃になった方がこの国にとって絶対いいです!」
「そうか。そ、それは、ふふ……ふはは!」
堪え切れなかったのか、アルバートは声を上げて笑い出す。それを見た彼女は目を見開き驚いた表情を浮かべた。
「え、ちょっとなに!?」
「何って……ははは! これはまた大きく出たな」
「ちょっと笑い過ぎですわアルバート様。しかし変わった方とは思っていましたが、ここまでくると驚きですわね」
国外追放の要求から婚約の申し込みに至るのはさすがに飛躍が過ぎている。本来、婚約破棄や国外追放といった重大な宣言は、王太子であるアルバートが自ら言うからこそ意味を持つ。彼女が代わりに言ったところで自意識過剰な人間にしか見えないだろう。
アルバートは話は終わったとばかりに彼女の纏わりつく手をするりと振り払い、私の隣にやってきた。 私は彼の腕をそっと取り、二人で顔を見合わせて笑い合う。それを見た彼女は怒り狂い、下品にも歯を剥き出して噛みつくような表情を浮かべた。おっと、化けの皮が剥がれてますよ。
「は? な、なんでっ! 不仲のはずでしょ!?」
「別に不仲ではないが」
「ここもゲームと違うの!? そんな冷徹女のどこがいいのよ!?」
誰が冷徹女だ。
彼女は王太子にも日頃から擦り寄っていたが、そもそもアルバートに全く相手にされていなかったことに今まで気づいていなかったようだ。つくづくおめでたい頭だ。彼女はこの結末に納得できないのか必死に食い下がる。
「アルバート様っ! わ、私は『精霊の姫君』なんですよ!? 私のほうが婚約者に相応しいです!」
「あー、うん。本来ならばそうかもしれないな。だけど君は何もしていないのだろう? それなら普通の人となんら変わらない」
「そ、そんなこと……」
そんなことはないと言えるだろうか。自分の能力を国に認められて期待されて特別にこの学園にいることができたのに、何もしなかった彼女は一体何を考えていたのか。
「それに比べてルージュは努力家でな――」
何を思ったのかアルバートが私を褒め始めると、その内容に周囲の皆も『うんうん』とうなずく。やめて、ちょっと恥ずかしいんだけど。
彼女の顔を見れば怒りで真っ赤になっている。せっかくだから、もう一言、言っておこうか。
「ああそうそう、『精霊の姫君』は素晴らしい力を持つとは言いますけれど、高レベルにならないと重要なスキルを使えない……根気よくレベリングしないと全然役に立たないジョブですものね。何もしない状態なら、まだ『見習い兵士』のほうがずっと強いですわ。ねぇ、『お荷物の姫君』さん?」
『精霊の姫君』は味方にバフを撒いたりデバフを除去したりするのが役目だが、序盤は能力も低く、ほぼ役立たずのお荷物なので早急にレベルを上げていく必要があることはこのゲームのプレイヤーの間では常識なのだ。私の言葉に彼女は大きく目を見開く。
「は? ……おい、なんでそれを知ってっ! な、あ、お前、まさか……!」
「あ、そうそう、あなたが放っておいたクエストはわたくしが代わりに全部やっておきましたわ。感謝なさい?」
「こ、この……っ!」
元々、クエストは攻略対象のルートとは関係ない、乙女ゲームとしてはオマケのようなものだ。世界観の補完的な役割もあるが、実は攻略対象のルートに入ってからのものではデートイベントなども含まれている。当然、私は全部アルバートと行きました。婚約者ですし、こう見えてちゃんと仲良しですので。
「このクソ女っ! ふざけんな! 邪魔しやがってえええ!」
「おっと、そこまでだ」
「んぐえっ!?」
怒り狂った彼女が飛び掛かってきそうだったため、アルバートに命じられた隠密が素早く彼女を気絶させどこかに連行した。主役を失った取り巻きたちはすぐに居心地が悪そうにコソコソとどこかへ退場したが……まあ、処罰がないわけではないので、後で然るべきところへ呼び出されるだろう。
「では気を取り直して、卒業パーティーを楽しもうではないか!」
アルバートのその言葉に会場は沸き立つ。厄介な人間も消えたことだし楽しもうということだ。パーティーではたくさんの労いの言葉をかけてもらえて、悪役であったルージュがこんなにも皆に慕われるようになるとは思ってもいなかったので、思わず少し涙がにじんだ。
その後、彼女は厳格な教育と監視のもと、強制的にレベリングをさせられ、『精霊の姫君』としてそれなりに働かされているとかなんとか。
もちろん、私はお咎めなしだ。当たり前である。
――
「まさか本当にルージュが断罪されるとはな。しかも国外追放とまで!」
「だから言ったじゃないですか〜、このシーンは彼女にとって最高の見せ場なんだから、何としてでも絶対にやるって」
もう隠密はついていない。二人きりなので、私は素の口調で話す。別に侯爵令嬢としての振る舞いが疲れるわけではないが、アルバートがこっちの方が気楽でいいと言うので、そうしているのだ。
シナリオではどのルートでも私は悪役として『精霊の姫君』に悪事を暴かれ、断罪される運命。そして平民の彼女が王太子であるアルバートと結ばれるのが正史とされるハッピーエンドだ。他の攻略対象もいるが、目立ちたがりの彼女はきっと彼の攻略を狙うだろうと見越していたが、案の定そうだった。
私は転生したとき、この世界のことをアルバートに全て話した。だからどんなイベントが起き、どんなふうになるのか彼は知っているのだ。断罪のシーンも、自分の本来の登場タイミングまで柱の陰で様子を見ながら待っていたらしい。律儀か。遠くのほうでこちらをチラチラと窺っている彼の姿に気が付いたときは、思わず吹き出しそうになった。
ガチガチにレベリングした私とアルバートは、起きるはずだった問題も先回りして解決していたので本来やるべきことを姫君がサボっていても特に問題はなかった。レベリングしないと本当に何の役にも立たないジョブ故『お荷物の姫君』と言われていたが、まさか何もせずに本当のお荷物になろうとは。
「『精霊の姫君』が転入してきた時は、本当に心が弾んだものだよ! ああ、本当に来たんだって!」
「噂を聞いてからずっとそわそわしてましたもんね。しかも転生者だってわかってからは誰を攻略しに行くかを気にして」
「それは気になるものだろう!」
この王太子、私の話すゲームの内容が大層気に入ったようで、なんとハマり過ぎて専属の文官を雇い物語として自作の本にしたり、現実でもできる限りシナリオを再現しようとしたりするから困ったものだ。流石に私の断罪は再現しようとはしなかったし、大事件が起きるイベントは先回りして潰しているので特に問題はなかったのだが。
今回も最初は、転入してきた姫君を真面目に支えていこうと思っていたのだが、本人がアレ過ぎて私たちは早々に諦めた。無理なものは無理だ。
アルバートは彼女がどの攻略対象のルートに入るのか気にして観察していたようだが、
「だが、まさか役目を放棄して全員に粉をかけて回った挙句、俺のところに来るとは思わなかったな。面の皮が厚過ぎて腹が捩れるかと思ったぞ」
「でもアルバートも『これは王太子ルートだ、間違いない!』とか言ってノリノリで演技してたじゃないですか」
「せっかくだからな。面白そうだし」
悪いやつめ。いや、これ私のせいか? でも元からこういう性格だった気もする。というか、ゲームの設定でも『腹黒王太子』だったし、やっぱり元からだろう。
私が悪役としての行動をしないことで彼女は焦ったのだろう。だからただの注意を大袈裟に受け取ったり、冤罪を吹っかけたりして私を断罪しようとしたのだろうが、全部知っているアルバートを攻略するなど無理な話だ。自らに擦り寄る彼女を彼は内心面白がっていたことを私は知っている。私が嫉妬で嫌がらせをしたとか、ないない。アルバートはそんな簡単な相手ではない。あんなアホでは落とせないだろう。
(ちゃんと役割を果たしながら無難な攻略対象を狙えば良かったものを――ん?)
思い出した。このゲームは確か、
「あ……例のゲーム、実はハーレムエンドもあったんだった。もしかしてそれ狙いだったのかも」
「な、なんだと! そんな……そんな面白そうな話、なんで今まで教えてくれなかった!?」
「期間が空いてからの最後の追加コンテンツだったんで今の今まで完全に失念してましたって感じですね!」
私の言葉に愕然とした表情で頭を抱えるアルバート。
「追加コンテンツ……例の課金ってやつか。くっ、その知識があればもっと楽しめたかもしれなかったのに……! いや待て、今からでも遅くない! 脳内で補完するからすぐに聞かせてくれ!」
前のめりになる彼に、私は内心少し呆れつつも話し始める。
「あはは、仕方ないですね。あれは確か――」
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