7. 射撃練習 新南部M60
次の日。
青梅市山中、山小屋にて。
漆紀の言った山小屋は山に入ってから少々歩いた箇所にあった。近くにはそうそう人はおらず、山小屋の周囲は木々がなく少し開けている。
「世理架さん、案内した通りだけど。ここなら廃墟より目立たないけど……こんな場所には平日じゃ無理だ。暗くてマトモに来れない」
「ここは休日だけに来ればいい。さて、わざわざこんな所にまで案内させたのはね、コレの練習の為さ」
世理架は懐から、黒くメタリックな光沢を放つ非日常極まる一品を出した。
「拳銃? 世理架さん、どこでそれを」
「こいつは回転式拳銃でね。私が世話になっている家から融通して貰った。弾もたくさんある」
「世理架さんの家って一体……」
「私と血の繋がってる実家ではないよ。当然赤の他人だけど、私の苗字である新南部に聞き覚えはない?」
「新南部?」
新南部という言葉の響き・字面を意識して漆紀は記憶の中をさまようが、これといってピンと来るものはない。
「あれ、知らないか。若い子は知らないのかなぁ。新南部重工、日本では限られている銃火器を製造する会社の一つだよ。警察官の拳銃にも採用されてる新南部M60って聞いたことない? 名銃なんだけど」
「ミリオタじゃないんで知らない」
「まあいっか。とりあえず、君には拳銃の扱いも練習してもらう。この拳銃こそ、先程言った名銃・新南部M60さ。とりあえず構え方や撃ち方を教えよう。まずは両手で……両手に慣れて来たら片手で撃てるよう練習しようか」
世理架が漆紀に新南部M60を手渡すと、世理架が漆紀の背後に立って構え方を教え始める。
「まず、両手で拳銃を持ち、真っ直ぐ構えるんだ」
「こう?」
「そう、両腕をぴんとね。そこから少しだけ肘を曲げて余裕をもって」
「こう?」
「そうそう。それくらいでいい。銃の反動があるから、それくらいの腕の構え方で良いんだ。じゃあまず、あの木に当ててみようか。これを撃つときは、撃鉄・トリガー……二つの動作がいる」
世理架が撃鉄の部分を指差しつつ、漆紀の右手に自分の右手を重ねて撃鉄を引かせる。
「撃鉄を引いたあと、トリガーを引くと撃てる。よく狙ってトリガーを引け」
漆紀は銃口を世理架が指定した樹皮の剥げている木に向け、拳銃の引き金を引く。
だぁん、と軽快な爆発音が静寂な山の自然音を掻き消し、どこかで鳥たちが羽ばたき飛び立つ音が遅れて聞こえてくる。
「お、あの剥げてる木の部分に当たってるね。いいね、その調子。今の様に自分で撃ってみるんだ」
漆紀は続けざまに撃鉄を引いて、それから引き金を引いて発弾、この動作を4回繰り返す。
弾はバラバラに当たるが、確かに木には当たっている。
「まあ、大きな的を外すほど下手ではないようだね。よし、次は弾の装填だ。弾の装填は小屋の中でやろう」
漆紀と世理架は山小屋の中に入ると、椅子に座る。
「薬莢は全部回収させて貰うよ。この部分を引くとね……弾薬を入れるシリンダーという部分が出せるようになる」
世理架の説明通りに拳銃を動かし、シリンダーを引き出す。
「この袋に全部薬莢を入れてくれ。こう、拳銃を傾ければいい」
漆紀が握ったままの拳銃を、世理架も右手握ると拳銃の角度を傾けさせて薬莢を大きな袋の中へと落とさせる。
「おー、簡単……んで、弾の装填は?」
「これが弾だ。いいか、新南部M60は9mm口径の弾じゃなきゃ装填出来ない。他の口径の弾は入らない。銃はその銃に合った口径でないと」
「ハイハイ知ってる知ってる。口径が合わないとまず弾が入らないし、そもそも入ったとしても撃ったら壊れるだろ? そんなのは父さんと猟銃の話をした時に聞いてる」
「なら良いんだ。じゃあ、シリンダーを回しつつ弾を一発一発込めるんだ」
「……よし、弾込めた。また外で射撃練習だな」
「少しずつ狙う木を遠くのものにしていくんだ。しっかり見させてもらうぞ」
漆紀と世理架は再び小屋の外へと出た。
__________________________
「あー耳がビリビリする……」
「何度も銃声を聞けばそうなるぞ。よし、両手でこれだけ撃てるのなら片手もやってみるか?」
漆紀は両手での射撃を何度か繰り返し、徐々に慣れて来た。今度は片手での射撃練習を始めようとするが。
「あのー、世理架さん。昼飯は……」
「……今日はこれまでにするか。わたしも腹が減った。山を降りるぞ」
「え? 良いのか?」
「はぁ? 腹が減ったんだろう。無理してそのまま続けたって精度が悪くなるし、食べなきゃ頭が回らない。まあ、時間的には今日またここに来て練習は無理だけど」
「メシ食いに行こう、世理架さん」