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ガンギマリズム3 日常編  作者: 九空のべる(旧:ジョブfree)
第一章「警察の姿勢、それと漆紀の日常」
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5. 修行開始! 課題だらけの漆紀

放課後、漆紀(ななき)はある場所に来ていた。

行く先は、武蔵村山市北部の小高い場所にコンクリート製の大きめな廃墟がある。

漆紀が戦った夜露死苦隊という暴走族がアジトに使っていた場所だが、夜露死苦隊が崩壊した今はもぬけの殻である。

「やあ、ちゃんと来たんだね漆紀君」

世理架(せりか)さん、放課後って言っても7時までで頼む」

廃墟の入口には父・宗一の協力者であり古い縁の新南部世理架(しんなんぶ せりか)が居た。

「わたしが呼んだ理由は簡単なコトだよ……提案だ、君に修行をつけてやる」

「え?」

「正直言おう、君は滅茶苦茶弱い。竜王の力についても全くそのままを振るばかりではダメだし、普通の魔法も恐らくちゃんと使いこなせてない。最近なんだろう、魔法が使える様になったこと自体が」

「それはそうだけど」

「君は竜理教に恨みを持っているのだろう? そしてやり返す気もある」

漆紀の中でこれだけは必ずやってやるという目的がある。宗一を殺した宮田という男、その男の首を刎ねること。

「……そうだよ。父さんを殺したヤツを、この手でやらなくちゃならない」

「じゃ、現時点での君の魔法を使ってみろ。とりあえず出来るだけをやってみろ。私が相手になってやるから」

そう言うと世理架は綺麗な金色の棒状の仏具を出す。

「それは?」

金剛杵(こんごうしょ)……私の武器はこれだ。さあ、今の出来るだけを私にぶつけてみろ」

「ぶつけるって……本気でかかれってコトなのかよ世理架さん」

「わたしが何年生きてると思ってる。君より充分強い、竜王としてもね。荷物を置いて、身軽な状態でかかってきな」

そう言われ、漆紀は荷物をその場に置くと。

「ムラサメ」

そう言うと、漆紀が首に提げた鉄塊の首飾りが鈍く仄かに光る。それと同時に漆紀の右手を中心に濃霧が生じ、その濃霧の中から一振りの刀・村雨が現れる。

漆紀の使える魔法は精霊術だ。物に宿る小さき神から力を引き出す、それが精霊術である。

「それが君の精霊術による得物か。棟打ちなどしなくて良い、刃の方でかかってきなよ」

「おいおい……切れたらどうするんだよ」

「いいから、ほら。良いって言ってるだろう、さっさとかかって来るんだ、糞餓鬼」

言う通りにせず遠慮をする漆紀に発破をかけるためか、世理架は糞餓鬼と口にする。

「そんなに言うならやってやるよ」

漆紀が村雨を斜め下に向けながら世理架へと走る。

「さあ来い」

斜め下に向けた村雨を世理架へと向けつつ上段へと切り上げた。

真剣だというのに世理架は冷静な様子のまま金剛杵で受け流す。

「らっ!」

村雨を受け流された事から、おそらくマトモに斬りかかっても無駄だと思った漆紀はそのまま世理架に体当たりして押し飛ばす。

「切り換えが早いな」

「うるせぇ」

体当たりによって1mほど距離を取った漆紀は、村雨の切っ先を世理架に向けると大量の水を放出する。

「この勢いの水なら身動き取れねえだろ! これで窒息、勝負アリだ。余裕かましやがって」

漆紀がそう吐き捨てる間、7秒ほど。ふいに水の勢いに逆らって世理架が宙に飛び上がった。そのまま後方に着地して真横へと駆けていく。

「は? 抜け出せるのかよこの水圧で!?」

「やっぱりダメだね。弱い。応用できてない」

「かかれって言ったのあんただろ! 逃げんな!」

漆紀は世理架を追い、背中から斬りかかるも金剛杵でいなされる。

「ここ!」

「うわっ!?」

いなされただけでなく、その勢いのまま腕を世理架に掴まれると地べたに投げつけられた。

「はい、おしまい」

倒れた漆紀の頭に世理架は金剛杵を突き付けてそう言い放つ。

「で、一本取られたって事で終わりかよ世理架さん」

「いや、もう一本やろう。もう少しで君の問題点がはっきりしそうだ。魔法や小手先なんでもやってみな」

そう言うと世理架は漆紀に手を貸して立ち上がらせる。少し世理架が離れると、彼女は「始めていいよ」と声をかけた。

「じゃあもう一回!」

漆紀はもう一戦目を開始するなり、村雨を逆手に持って肩の上辺りまで構えて振りかぶる。漆紀がやろうとしているのは、ムラサメの無茶ぶりで送られた戦国時代の戦場で学び得意になった技。

「なにを」

「おらッ!」

漆紀が世理架目掛けて村雨を真っ直ぐ投擲する。槍投げの要領で投げたそれは、的確に世理架の身に迫るが。

「得物を投げるなんて不用意な……」

世理架が金剛杵で村雨を弾き落とすのも束の間、その間に走って世理架へと向かう漆紀は右手を口に突っ込む。

「おおうぅぅぅううぶうぅぅぇぇえええええぇぇぇえッ!!」

漆紀が夜露死苦隊との戦いで編み出した技・レインボーブレス。もとい、嘔吐攻撃である。

吐瀉物を相手の顔目掛けて大きく吐き散らす外道技。この技は見た目こそ最低だが、対人戦において非常に有効である事は漆紀自身がよく知っていた。

この技でどれほど夜露死苦隊に打撃を与えたことか。

「汚なっ!?」

漆紀同様、世理架は竜王の力を持つ者である。ゆえに世理架は常人ではない脚力も有しており、後方へと5mほど飛び退いて漆紀の吐瀉物を難なく避ける。

「避けられるの初めてだ。世理架さん」

吐いたばかりだが漆紀は平然とそう言う。

「もう得物は持ってな」

「持ってる」

漆紀は右手に村雨を呼び出し、それを握った。先程世理架が弾き落として地べたにあった村雨は霧となって掻き消えた。

「直接武器回収しなくても良いのか。なるほどねぇ……よし、もう一回かかってきな」

漆紀は再び世理架へと駆けて行き、刀で斬れる間合いにまで入ると漆紀は左手を口の奥に突っ込み。

(この距離からのゲロなら避けれない!)

そう確信して漆紀はすぐさま吐瀉物を世理架の顔面目掛けて吐き散らそうとするが。

「くどいッ!!」

吐瀉物がかかることには抵抗があったのか、世理架が腰を落として姿勢を低くするとそのまま漆紀の腹部へ右拳をねじ込む。

「うぐっ!?」

あらぬ方向に吐瀉物を吐き、漆紀はそのまま後方に倒れ込み身悶えする。

「手練れ相手に効く小手先は1回きりと思え。もういい、今度は刀の使い方を見たい。小手先抜きで、ひたすら私に斬りかかれ」

再び世理架が漆紀に手を貸して立ち上がらせると、彼女は漆紀から少し離れる。

「よし、斬りかかって来るんだ。私は全て攻撃をいなすから。とにかく何度も打ち込んで来るんだ」

「わかった……ふんっ!!」

漆紀はまた真っ直ぐ世理架へと駆け出して、背も真っ直ぐ伸ばして力一杯世理架に斬りかかる。何度も何度も縦、斜め、横と斬り込んでは世理架が危なげなく金剛杵で受け流してしまう。

「余裕ってか、クソ!!」

「よし、もういい。大体わかった。手を止めて」

「戻れムラサメ」

漆紀が手を止めて、二歩下がって村雨を霧にして消す。世理架が咳払いをすると、淡々と説明を始めた。

「ムラサメに戦国時代あたりの戦場に送られたとか言ってたが、その結果が今の状態か……問題点だらけだけど、刀の持ち方や振り方だな。漆紀君、君は今までに剣道なり武道などの経験は?」

「ない」

「多分剣道の動きを見よう見真似でやってるんだろうけど、これじゃダメだ。敵を斬る時は、中腰の姿勢じゃなきゃダメ。剣道は直立状態でやってるけど、あの体勢で刀を振るのは違う」

「あれじゃダメなのか……」

「そもそも刀の持ち方も違う、正しくない。斬る時は両手で強く握っているだろう? それじゃだめだ。右手でまず強く握る。左手も握るが、こちらは力を入れない。左手は添えるように握るんだ。他にも……」

世理架が漆紀の戦い方に関して、問題点を次々列挙していく。これには漆紀は苦笑いを浮かべるしかなかった。

(こりゃ、なかなか強くなるのは大変そうだ)

______________________________


「刀の話については以上かな。まあ小手先に関しては嘔吐で攻撃というのは斬新だしかなり意表を突くだろうし、相手への心理的攻撃にもなるから良い手だ。さて、今日はこのぐらいにしよう、帰るよ」

世理架が一通り話を終えると、漆紀は荷物を手に取る。

「あの、世理架さん。今後から俺に修行つけてくってコトで良いのか?」

「そうだ。それは君が竜王だからというのもある。それに宗一君が死んだ以上、君には面倒を見てくれる大人がいないだろう」

「……次はいつ?」

「明後日またやろう。そして土曜か日曜日のどちらかの休日もだ」

「じゃあ、帰るんで」

漆紀がそそくさと一人帰ろうとすると、世理架が漆紀の腕を掴む。

「待て待て。一緒に帰ろう。どうせ家には一人だろう? なら、ちょっと君ん家に寄らせてくれ。宗一君の部屋に用がある」

「父さんの部屋に?」

「貸したものとかの回収だから」

「はぁ。じゃあ、帰りますか」

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