2. ニュースを見る漆紀
午後9時頃。
東京都武蔵村山市の住宅街にて。
『次のニュースです。昨夜、横浜市みなとみらいにて発砲事件がありました』
テレビ画面には昨夜撮影したであろう現場の映像が流れていた。
「神奈川もドンパチやってんだな……」
少年が気だるげに低い声色でそう呟いた。彼の名前は辰上漆紀。武蔵村山市で便利屋タツガミを営む辰上宗一の息子であり、彼は様々な事情を抱えていた。
『この事件で、現場に駆け付けた警察官は暴走族と思われる男4名を射殺しました。その際、暴走族の男の発砲で警察官が2名死亡、1名が重傷を負って病院に搬送されました』
「どーせ味方もろとも撃ったんだろうな」
椅子に腰かけながら少年は再び呟く。テレビ画面の映像はニュースキャスターの説明から神奈川県警の記者会見の映像が映る。
『えー、警視庁は今回の事件での警察官の発砲は適正な判断だとしています。また、この件に関連する事件として同時刻に横浜市みなとみらいで暴走行為をする集団に向けて白バイ隊員が発砲した件があります。こちらも暴走族と思われる犯人が銃火器を所持していたため、警視庁は白バイ隊員の発砲が適正な判断であるとしています』
「ほんと殺しちまうの好きだよな、警察」
テレビ画面は再びニュースキャスターの説明に戻る。
『また現場に居た目撃者たちは、警察が撃ったことで暴走族と思われる男がバイクのバランスを崩して歩道や一般車に突っ込んだと証言しており、警察の発砲による一般への被害について警視庁への問い合わせが相次いでいます』
「ま、問い合わせなんていつもの事だしな……逮捕より犯人を殺すほうが楽だしな。俺が警察の世話になった時も、凶器を持っていると想定しますよとか言ってたっけ……」
漆紀は夜露死苦隊という暴走族と戦った際に、警察署に行ったことがある。その際、頭のおかしい警察官に「凶器を持っていると想定しますよ」と言われて銃口を向けられた経験がある。
「あいつら本当は一般人の命とかどうでもいいんだよな……犯人を野放しにすると余計に被害者が出るから犯人を射殺なんて、撃ち殺したいがための方便だよなぁ」
そんな小言を漏らすと、漆紀はテレビの電源を消して冷蔵庫の方へを歩く。
冷蔵庫に入っている食品のほとんどは賞味期限が切れていた。
無理もない。漆紀はつい先日まで佐渡流竜理教というカルト宗教に拉致されていた上、佐渡島から本土に渡る際に意識を失って一週間ほど病院に入院していたのだ。
惣菜も生鮮食品もすべて賞味期限が切れていた。
「缶詰だけか」
まともな食品が残っておらず、漆紀はとりあえず舌打ちしてみる。その缶詰は桃の缶詰であったが、とりあえず食べるものがあればよかった。缶切りを出して桃の缶詰を開けようとしたとき、ふと思い出す。
『おいおい、桃缶は真紀のだし、あいつ怒るぞ? 寝起きに蹴飛ばされても知らんぞ。と言うより夕食が果物って……』
今は亡き父・宗一が何気ない日常で言った言葉を、唐突に思い出した。あれは夜露死苦隊に最初に絡まれた日に聞いた言葉だっただろうか。
「……やめとくか」
以前の漆紀ならば平気で食べていただろうが、妹の辰上真紀が退院するまでは桃の缶詰はとっておこう。桃は真紀の好物の一つだ。些細な事だがこのとき漆紀はそう強く思った。
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神奈川県警の記者会見会場
会見を終えた警察署長は、控室にて発砲事件の関係者である白バイ隊員の葉月と近藤、その他の警官達を集めて話をしていた。
「よくやった。今後もゴミを掃除しろ、全てにおいて我々の発砲は適正である。その結果二次被害として市民に被害が及ぼうが些細な犠牲である」
「もちろんです署長」
「今後も凶器を持っていると想定し、冷静に射殺による対処をしていきます」
葉月と近藤は敬礼しながら署長にそう答えると、他の警官達も同様に頷く。
署長は一息吐いてから、さわやかな笑顔を浮かべて言い放った。
「もっと崩した言い方をするとな……五月蝿いガキどもなどどんどん殺せ。公共の利益のためヨシとするッ!! それを邪魔する一般人も逃亡幇助からの犯人の仲間の可能性があるとし、凶器を持っていると想定し射殺してよし! 将来のガキどもの事とかガキの更生などどうでも良い!! 記者会見で我々が適正な発砲であると口にするだけで済むのだ。今後も容赦なく射殺せよ」
「はい!」
逮捕よりも出来るだけ射殺をする。これが理由で国民は警察を頼りづらいのだ。