1. 殺伐。ガンギマリな警察達
神奈川県横浜市みなとみらい
「ぶぅぁあああ~かwww」
高らかに嘲笑いながら7人の暴走族の男達が夜のみなとみらいの大道を改造バイクで走り抜けていく。彼らは蛇行運転や信号無視、交差点内で輪を描くような走行を行っており、耐えかねた市民が警察に通報した。
そうして暴走族の一団を追うのは、神奈川県警の交通機動隊に所属する警察官である。通称は白バイ隊員だが、民衆は彼らを殺し屋と呼んだり白バイそのものを霊柩車と呼んでいる。
夜闇の中で白いバイクで獲物を追う彼らは、さながら白狼のようであった。
だが白狼はただの比喩ではなく、彼らの実態を表すのに最適の言葉であった。2名の白バイ隊員が一気に加速して、改造バイクで逃げ回る暴走族の男達に近付く。
通常の白バイ隊員とは異なり、政令指定都市に指定されている神奈川県の白バイ隊員は一味違った。
「馬鹿は貴様らだ」
白バイ隊員の一人が右手で腰の拳銃を引き抜くと、逃げ回る暴走族の男の一人へと発砲した。
「ぎっ!?」
白バイ隊員はたった一発の発砲で見事にも最後尾の男の背へ銃弾を当てた。最後尾の男は痛みでバランスを崩し、ガードレールへと突っ込んでそのまま顔面を街路樹にぶつけた。
「次だ、行くぞ葉月」
白バイ隊員の一人が首に提げた通信機で葉月にそう告げる。
「了解であります近藤隊長」
満面の笑みで葉月と呼ばれた隊員も拳銃を引き抜き、前方を走る暴走族達を狙って発砲していく。
「うげっ!?」
「ごふっ!!」
葉月が暴走族二人に見事銃弾を当て、暴走族二人はバランスを崩して他の車の後部へと突っ込んで衝突する。白バイ隊員は一般車への巻き添えなどお構い無しである。
「よくやった葉月。この調子で暴走族を狩り続ければエリートまっしぐらだな。残りも早く駆逐するぞ」
「了解」
残りの暴走族は4人。後続の3人が呆気なく撃たれて事故を起こし、急に恐れをなし始めた。
「おいヤバいって、あれマジで殺す気だぞ!」
「クソ、なんか! なんか武器出せ!」
「これ食らえや!!」
暴走族の一人がとっておきとばかりに拳銃を取り出し、葉月と近藤へと発砲する。
「葉月、銃持ちだ。一般車を盾にしろ」
「了解!」
葉月と近藤はバイクの機動力を余すことなく活かして一般車の陰を掻い潜っていき、暴走族の男が持つ拳銃の射程に入らないように進んで行く。
「クソ、狙えねぇ!」
「前見ろ!」
「あぁ!?」
拳銃を持った男は、先頭を行く仲間の一声を聞いて前を見る。前方からパトカーが二台、反対車線走行しつつこちらに向かっている。一般車はパトカーを避けるべく次々に道の端へと移りガードレールや歩道ギリギリで走っている。
『そこの暴走車、止まりなさい!!』
パトカーの拡声器での声が辺り一帯に反響する。前方からのパトカー二台と、それを避ける一般車によって前方に抜け道がなくなる。
そして後ろからは白バイ隊員である葉月と近藤がいる。
暴走族達は流石に無理だと思ったのかブレーキでバイクを止めてすぐさま降りて両手を上げる。
「おい本気かよリーダー! このまま降参すんのか!?」
「逃げ場がねえんだ、仕方ねえだろ!」
「サツどもが銃構えたままだぞっ!」
暴走族の男達が止まるとパトカーも止まり、制服姿の警官6名がパトカーから降りるなり拳銃を構えながら暴走族の男達へと近付き包囲していく。
当然この包囲には後方から迫っていた葉月と近藤の二名の白バイ隊員も加わる。
警察に包囲され、もはや逃げ場がない。
「動くな!」
警官達の言う通りに暴走族の男達は微動だにしない。警官達が男達に近付き、膝を地べたに着かせる。
「膝をつけ、そのまま動くな! 両手を頭の後ろにつけろ!!」
「ついてるだろうが! わっぱかけんならかけろよポリ公!」
暴走族の一人がそう啖呵を切ると、葉月がその男の背後まで回ると。
「手錠は必要ない」
そう言い切ると右手に持った自動拳銃の銃口を男の後頭部に押し当てたまま、躊躇いなく引き金を引いた。
バァンという発砲音と、男の頭と銃弾が奏でた死音が周囲一帯に響き渡った。
「あの白バイ隊員、撃ちやがった!?」
歩道で一部始終を目撃する一般人たちがスマホに内蔵されたカメラで動画を撮り始めるが。
「はいみなさん離れて離れて! 一般人の方は離れてください! 危険です!!」
警官の一人が歩道の一般人達を制止し始める。男の脳天を撃ち抜いて殺した当の葉月はというと、その男の死体を蹴り飛ばして路上に倒した。
「よくやった葉月。そいつらの一人は拳銃を持っていた。今もこのうちの誰かが隠し持っている可能性がある。なら撃って殺してヨシ!!」
近藤が葉月の射殺行為を褒め称えると、暴走族の男達は降伏したところでどの道自分達が殺されるのは変わらないと理解した。
「……けんなっ」
「おい! 動くなと言っただろ! お前も死にたいか!!」
警官の一人が小声で何か言った暴走族の男の後頭部へと拳銃を突き付けつつ警告するが。
「ッ!!」
暴走族の男は黙って殺されてたまるかと決心し、頭を真横に逸らした。警官が拳銃を撃つが、一動作遅かった。一発の弾丸を避けた暴走族はそのまま警官の首に左腕を回しつつ、警官の手を叩いて拳銃を奪い取る。
「動くなサツども!!」
暴走族の男が拳銃を警官の頭に突き付け、他の警官達や葉月と近藤を牽制する。
「ふざけんじゃねえよ、降参したのに逮捕すらすっ飛ばしてそのまま処刑かよ!! クソ野郎が、クズが!!」
「おい、待て! 落ち着け! わかった、撃たない。撃たないからソイツを解放……」
血走った目の男を警官の一人が説得しようとするが、男は瞬時に拳銃をその警官に向け一発撃った。
「がほッ! く、このクズがっ……」
弾は警官の腹部に当たり、警官は悶絶しながら腹を両手で押さえて倒れ込む。
「動くんじゃねえって言っただろサツが!」
その男に気を取られているのをチャンスを思ったのか、残りの暴走族の男二人も立ち上がって警官に飛び掛かった。
「やめろ、貴様!」
そう言った警官は、警官仲間を人質に取る男に背中を見せてしまったがために撃たれてしまう。
「ぐあッ!?」
「銃よこせああぁぁ!!」
死に物狂いで警官から拳銃を奪おうと暴走族の男二人が警官と取っ組み合いを始める。内一人の男は警官から拳銃を奪い、あとは警官に拳銃を向けるだけというところまできたが。
「馬鹿じゃないか?」
葉月は依然として冷めた目のまま銃口を向けて男二人を自動拳銃で撃っていく。取っ組み合いをしている以上、仲間の警官にも銃弾が当たる可能性があるにも関わらず葉月は撃ったのだ。
「がっ!?」
「ぐぶっ……て、てめぇ……仲間に当たるかもしれねぇのに」
男二人は葉月を信じられないものを見る目で見つつ倒れた。葉月は冷静なまま今度は警官を盾にする暴走族の男へと銃口を移すが。
葉月の異常じみた行動に警官を人質に取った男も呆気に取られていた。
「なんだよ、なんなんだよお前! 今撃ったら、コイツに当たるぞ! えぇ!?」
男が警官を盾にしたまま一歩一歩後ろにたじろぐ。
「我々警察は公共の利益の為に使われる道具である。よって、命より公共の利益を優先する……いいね?」
葉月が楽しそうに口元を緩めると、仲間の警官が盾にされているというのにも関わらず暴走族の男へと発砲した。
「ごふっ、痛っ! は、葉月さん、当職にも弾当たって、ウっ!?」
五発目の弾が人質に取られた警官の頭部に当たり、警官は絶命する。
「いいぞ葉月、それでいい。その男を逃がせば拳銃で一般人が何人殺されるかわからん。必ず射殺しろ」
近藤も酷く冷静な様子で葉月にそう声をかける。
「ふざけんなよ、頭おかしいのサツの方じゃねぇかああぁぁ!!」
「騒ぐなよ、公害だぞ」
先程の五発目の位置から軌道修正して葉月は六発目を撃った。
「ぶぎっ!?」
見事弾丸は男の鼻っ面を貫き、そのまま男は絶命して倒れた。
「近藤隊長、射殺完了しました」
口元を大きく歪ませたまま葉月がそう報告すると、近藤は「よし!」とガッツポーズをとった。