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第96話 梅シロップの梅

「わあ、これが梅シロップ?」

「うん、これを水や炭酸水で割って飲むんだよ。梅はそろそろ出した方がいいかな……。アリアも食べる?」

「え、梅も食べられるの!? 食べてみたいっ!」


 旧ファルム、現クライス農場から少し奥地へと進んだ先にある「カントル」。

 カントルは、人口が20人ほどしかいない小さな集落だ。

 しかし旧ファルムから比較的近くにあるため、昔から住民同士交流があり、うちの両親もアリア父も、住民とは顔なじみらしい。


「――にしても話が長すぎるわ。もう5時間くらい喋ってない!?」


 アリアは不満げに口を膨らませ、荷馬車の後ろに腰かけ足をぶらぶらさせている。

 先ほどまで、僕たちも一緒に住民に挨拶をして回っていたのだが。

 大人たちの話が弾んでその場から動かなくなったため、僕とアリアは馬車に退散してきたところだ。


「いや、さすがにそれは……まだ1時間も経ってないと思うよ?」

「ええ、絶対うそよ。ああもうおなかすいた! 早くごはん食べたいーーーー!」

「いろいろあったし仕方ないよ。久々だしね。梅、先に開けて食べちゃおうか。シャロとミアも食べるよね?」

「「食べます!」」


 アリアがしびれを切らして大人たちのところへ突撃する前に、と、僕は梅シロップのビンを開けることにした。

 実の毒が消えていることは、先ほど母が確認済みだ。

 ビンの蓋を開けると、ふわっと甘酸っぱい梅の香りが漂ってくる。


「いい匂いっ」

「――はいこれ、アリアの分。おかわりもあるから。シャロとミアもはい。ほかの人たちにも配ってくるよ」


 僕は3人に梅の実を渡し、その場に待機しているメイドさんやフローレス商会の従業員、御者さんにも配ることにした。

 梅は大量に採ってきたため、梅シロップの梅だけでも100個近くはある。


「――何これ、おいしいっ!」

「お、よかった。シャロとミアはどう?」

「おいしいですね、これっ! 酸味があって、でも甘くて、ちょうどいいです」

「初めて食べる味ですが、私も好きです」

「あんなにお砂糖入れてたのに、思ったほどは甘くないのね。私これのケーキが食べたいわ。ママに行ったら焼いてくれるかな」

「ケーキもいいね。刻んでジャムにして、ライスプディングにかけてもおいしそう」


 ケーキといえば、そういや米粉を作ってなかったな。

 米粉ができれば、お米の活用方法も今よりずっと広がるよな。帰ったら作るか。


 梅シロップの実は、アリアとシャロ、ミアをはじめ、ほとんどの人が気に入ってくれたようだ。


「――お、みんなお楽しみ中だな。父さんにも分けてくれ」

「いい香りね~。あの木の実、こんなふうになるのね。知らなかったわ」

「もちろんみんなの分もあるよ!」


 話が一段落したのか、うちの両親とアリア父が馬車の方へと戻ってきた。


「パパ、これ、フローレス商会でも売ってよ! 絶対売れるわ」

「お、アリアも気に入ったのかい?」

「うんっ! やっぱりフェリクは天才だわ」


 アリアはキラキラとした目で、アリア父が梅を食べるのを見つめている。


「――うん、たしかにおいしい。これはお酒にも合いそうだね?」

「今回は作ってないけど、お酒に浸けると梅酒ができるよ」

「ほう? でも、フェリク君はお酒は飲めないだろう? どうしてそんなことが分かるんだい?」


 ――あ。しまった。


「え、ええと……ゆ、夢に出てきて……」


 我ながら苦しすぎる言い訳だ。

 さすがに違和感を覚えるか? ――と思ったが。


「はっはっは。フェリク君は本当に面白いね。なるほど、夢かあ」

「もう、びっくりしたわ~」

「酒は大人になってからだぞ、フェリク」


 案外あっさり誤魔化せてしまった。

 ――うん。僕、どんな子に見えてるんだろうな?

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