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第95話 アリアへのこの複雑な気持ちは

 アリスティア領の辺境の村を回り始めて、半月ほどが経過した。

 あと2つほど巡れば、予定はすべてクリアとなる。

 今日これから訪問するのは、旧ファルム、現クライス農場とも比較的近い場所にある集落。

 アリア父やうちの両親は何度も訪れている場所らしく、休憩中に「今日は気持ちがラクだ」と話していた。


「梅シロップが完成したから、集落に着いたらみんなで飲もう」

「やったあ! 楽しみにしてるわ」


 僕とアリアは、あのあと馬車の中で2人変な空気になる――なんてこともなく、普通に楽しい時間を過ごしていた。

 そもそも互いに9歳じゃ間違いなんて起こりようがないし、生まれたときから一緒で家が近く、昼寝もお風呂も経験済みの仲だ。むしろ一緒にいる方が自然だった。


 ――でも、アリアは僕のことどう思ってるんだろう?

 そして僕は――僕はアリアのこと、どう思ってるんだろう?


 僕は、以前メイドが話していた言葉、そしてライスプディングを食べながら交わしたアリアとの会話が忘れられずにいた。


 今の僕は、見た目はアリアと同じ9歳の子どもだが、30代の男としての側面も持ち合わせている。というか、記憶が戻ったのだから実質中身はそっちだ。

 だから、アリアとの恋愛なんてありえないと思っていた。

 でも、僕には記憶が戻るまでの8年間、純粋に「フェリク」という子どもとして過ごした時間もある。


 ――そしてこの「フェリク」は、たぶんアリアのことが好きだったんだよな。


 貧しい米農家の息子だった僕に、アリアはとても優しくしてくれた。

 ほかの子からいじめられたときも、必死で守ってくれた。

 自身の家庭が裕福であることを鼻にかけることもなく、当たり前であるかのように、いつも無邪気な笑顔を向けてくれた。

 米農家の息子であることが嫌でたまらなかった当時の僕は、そんなアリアにとても救われていたのだ。


 そして今の僕は、そのときの「フェリク」の延長線上にある。

 記憶が戻ったとはいえ別人になったわけじゃないし、それまであった感情が急に消えるわけでもない。

 とはいえ、相手は9歳の少女だ。

 幼さが残るどころかほとんどが幼さと無邪気さで構成されている彼女と、同じ目線で生きることはできない。


 ああもう! ややこしいなくそっ!

 きっとあれだ、身長が同じなのがいけないんだ……。


「……フェリク? どうかしたの?」

「うん!? あ、ああ、ごめん何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」

「もしかして、またお米のこと?」

「え――。あー、まあ、そんな感じかな?」

「まったく、フェリクは賢いのに、そのへん本当お子さまなんだからっ」


 アリアはそう、ため息をつく。


 正真正銘の子どもにお子さま呼ばわりされてしまった……。

 いや、そもそもお米ってのは奥深い食べ物で、内に秘めたポテンシャルの高さは研究してもし尽くせない、というかだな!?


 ――ってそうじゃなくて!!!


「じ、じゃあ、アリアは普段、何考えてるの?」

「へっ? え、えっと……それは……べ、べつに普通よっ!」

「ええ……普通じゃ分かんないよ……」

「お、女の子の心の中を覗こうなんて、そんなのダメ!」

「さっき僕の心は覗いたのに!?」


 まあ、外れてるから正確には覗けてないけどな!


「フェリクは女の子じゃないでしょっ。もうこの話はおしまい! それよりほら、集落が見えてきたわ。パパは何度も行ってるらしいけど、私は初めてなの。楽しみー」

「う、うん。うちも両親は行ったことあるらしいけど、僕も初めてだよ」


 差別がひどい、とか、集落まだ全然見えてないんだが?、とか、話の切り替え下手くそか、とか、言いたいことはいろいろあるけど。


 ――まあいいか。

 今はとりあえず、アリアが楽しそうならそれで満足、かな。

 集落までは、最低でもあと3~4時間はかかるけど!

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