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第91話 お米のお茶で「醤油と鰹節の焼きおにぎり茶漬け」

「村長さん、キッチンをお借りしてもいいですか?」

「は、はい。もちろんです」


 キッチンであれこれ説明を受けていると、アリア父の部下たちがおにぎりの入った冷却庫を持ってきてくれた。


「ほほう、立派な冷却庫ですな。さすがはアリスティア家からの使者」

「アリスティア様は今、地域格差をなくして、誰もがこうした魔導具を使える世の中にしたいと積極的に動いてらっしゃいます。フローレス商会とクライスカンパニーは、そのお手伝いをしているんですよ」

「本当に皆さま素晴らしいお方です。これは期待が高まりますな。はっはっは」


 アリア父が村長と何やかんや話している間に、冷却庫からおにぎりを取り出す。

 ここでみんなの視線が一気に集まるが――しかし。


「……こ、これは? 噂では白いお米と伺いましたが」

「なるほど……もしかして醤油かい?」

「なんつーか、地味だな……。フェリク、大丈夫なのか?」

「そうねえ……」


 アリア父は何かあると察している様子だが、村長、それからうちの両親は不安そうにしている。

 でも大丈夫。これは、今回のおにぎりはとっておきなのだ。


「お米は、ちゃんと僕が品種改良と精米を施した白米ですよ。醤油とごま油、それから鰹節を混ぜ込んであるんです。ちなみに中には焼いた鮭も入ってます」

「鰹節って、君がずっと大事に育てていたあれかい? いったいどこに……」

「あれは削って使うものなんだ。ほら、この細かいのがそうだよ」


 説明しても、みなピンとこない様子で不思議そうにしている。

 まあこの世界にはない食べ物みたいだし、そりゃそうか。

 お茶漬けにするなら、なおのこと鰹節が生きるな。ちょうどよかった!


「私も見学させていただいてもよろしいですかな?」

「もちろんです! ――って言っても、やることはすごく簡単なんですけどね」


 まずは油を塗ったフライパンにおにぎりを並べ、こんがりと焼き上げる。

 その間に、村長宅にあった玄米のお茶をさっと煮だしておいて……。


「これを器に入れて、このお米ごとお茶をかければ、『醤油と鰹節の焼きおにぎり茶漬け』の完成です。おにぎりを崩しながら食べてください」

「こ、これはなんとも……。最近グラムス周辺ではおにぎりというお米の食べ方が流行っている、とは聞きましたが……まさかお茶を、しかもお米ごとかけるとは……」

「ま、まあ、フェリク君が作る料理はいつも奇抜ながらもおいしいからね。食べてみようじゃないか」


 まずは僕とうちの両親、アリア父、それから村長と側近2人で席に着き、この焼きおにぎり茶漬けを試食することになった。


「そ、それでは……」


 それぞれスプーンでおにぎりを崩し、そっと口へと運ぶ。そして。

 みんな目を見開き、しばらく無言の時が流れた。

 じんわり染みわたるうまさを堪能しているのかもしれない。うん、分かるよ!


「――お、おいしい! これは驚いた。焦げた部分の香ばしさも出汁になっている。それにとんでもなく奥深い味わいだ」

「こ、これは――素晴らしいね。これが鰹節とやらの力なのかい?」

「これすっごくおいしいわ~。ごま油や鮭との相性もいいわね」

「おいフェリク、おかわりはないのか?」


 一同、香ばしく焼き上げた焼きおにぎりをお茶漬けにするという初体験に夢中になっている。

 村長さんいわく、これまでお茶に使ったお米は堆肥づくりに使用してたらしい。

 つまり、食べるという発想はなかったのだろう。もったいない……。


「うん、おいしい! お米のお茶の香ばしさが合うーっ。うんうん、絶対合うと思ったんだ! 大正解だったね! あ、ほかの人にも食べてほしいから、おかわりはまた今度ね。父さんはいつでも食べられるでしょ」

「そ、そうか。そうだな……」


 一瞬で食べきりおかわりを要求してきた父は、とても残念そうにしている。

 もっとたくさん作ってくればよかった。

 追加で作りたいけど、鰹節は置いてきたんだよな……。


 その後、一緒に来てくれたメイドさんやフローレス商会の従業員、それから村長の家を訪れた人々にも焼きおにぎり茶漬けを振る舞い、大絶賛を得た。

 どこかのタイミングで、アリアとシャロにも作ってやろう。

 自分たちだけ食べてないって知ったら泣きそうだし。

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