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第90話 お茶がある。おにぎりがある。なら――

 クライス農場を出発してしばらくすると、だだっ広い草原が続く道へと出た。

 周囲にあるのは木や湖、森といった自然ばかりだ。

 時折現れる小屋のような家は、どうやって暮らしているのか不思議なくらいに孤立している。


「……旧ファルムも相当田舎だと思ってたけど、こんな場所があったんだ」

「そりゃあるさ。ファルムは小さな貧しい村ではあったけど、一応アリスティア領の中心に近い場所だからな」

「お母さんの実家もこんな感じだったけど、それなりに楽しく暮らしてたわね~。うちは薬草を扱っていて、遠くからもお客さんが来てたから……ほとんど物々交換で生きてたのよ」


 母は懐かしそうに思いを馳せる。

 母は幼いころに父を亡くし、母親と2人暮らしだったらしく。

 薬草採取の途中に事故で母親を亡くして以降1人だった、とは聞いていた。

 が、まさかこんな人里離れた場所に住んでいたなんて初耳だ。


「父さんと母さんが出会ったのも、父さんが山で怪我してたのを母さんが手当してくれた時だったな。あの時は本当、天使に会ったかと思ったよ」

「懐かしいわね~。それからしょっちゅう来るようになって、この人どれだけ暇なのかしらって心配に思ってたわ。ふふ」


 母さんの思考回路!

 父さんも、母さんと結ばれるために苦労したんだろうな。


 ◆◆◆


「皆さま、着きましたよ」


 ひとしきり景色を楽しんで眠りこけていると、馬車が止まって御者さんにドアを開けられた。


「ようこそおいでくださいました。ロカル村の村長、レグと申します」


 外に出ると初老の男が1人、それから中年の男女が1人ずつ立っていた。

 どうやら出迎えてくれたらしい。


「初めまして。フローレス商会のエイダン・フローレスと申します。こちらが例の少年、フェリク・クライス君と、そのご両親です」


 ちなみにアリアは眠ってしまったらしく、シャロと馬車の中だ。

 アリア父も、そのままの方が都合がいいと判断したらしい。


「おお、あなた様が! まだ幼いのに素晴らしい功績を上げているとか」

「い、いえそんな。周囲の方々のお力添えあってのことですよ」

「はっはっは。本当にしっかりしとりますなあ。この度はご足労くださり誠にありがとうございます。さあさ、どうぞこちらに」


 レグ村長に案内された先は、村長宅の客室だった。

 村の中で見ると大きな家ではあるが、ファルムにあったフローレス家よりもだいぶ庶民的な造りをしている。


「こんなものしかございませんが」


 先ほど出迎えてくれた男女がお茶を運んできた。

 どうやら僕たちをアリスティア家からの使者だと認識しているらしく、目の奥には緊張が滲んでいる。


 こういう扱いにも慣れてきたとはいえ、こっちまで緊張で喉が渇いてきたな。

 せっかくだしお茶を――って、えっ?

 この匂いはもしかして――?


「――これ、玄米茶ですか?」

「さすがフェリク様、よくお分かりで。茶葉は高くてなかなか買えませんので、お米を炒ったもののみで作っております。こんなものをお出しするのは失礼かとは思いましたが、フローレス様がありのままの文化をと……」


 村長は僕の反応が気になるようで、そわそわしている。

 僕が子どもなだけに、どう出るか分からないと思っているのかもしれない。


「僕、これとても好きです。お米だけってすごいですね」


 玄米茶は好きだし、グラムスでは既に広まりつつあるが、玄米単体で淹れる発想はなかった。

 玄米だけでも、こんなに味わい深いお茶ができるのか。

 この世界の玄米特有のクセはあるけど、カユーほど気にならないし全然いける。


「……あの、このお茶、作り方教えていただけませんか?」

「もちろんです。お米を洗って乾燥させて、フライパンで香ばしく炒るだけです。あとはそれを煮出せばこのように」

「ありがとうございます。素晴らしいアイデアですね」

「恐縮です。ロカルは8割が米農家で、貧しい人が多いのが現状です。しかしお米だけは余っていましてね、都市の方では玄米茶なるお茶が流行っていると聞いて、玄米だけでもいけるのではと」


 なるほど、貧しさゆえの工夫から生まれたのか。すごいな。


「そうだ、お茶も出していただいたことだし、持ってきたおにぎりを食べてもらうのはどうだい? 彼らはきっと、白米は食べたことがないだろうからね」


 ――そういえば、おなかもすいてきたな。

 でも移動中に食べるにはいいけど、わざわざ今冷えたおにぎりを食べるのもなあ。

 でも、貧しいこの村の食材を消費させるのも気が引ける。

 ……そうだ! せっかく玄米茶があるんだし!


「なら、持ってきたおにぎりで『焼きおにぎり茶漬け』を作りましょう!」

「焼きおにぎりちゃづけ……? ってまさか」

「焼きおにぎりにして、それに玄米茶をかけるんだよ」

「いやそれは……せっかく焼いたおにぎりが台無しにならないかな」


 アリア父は、やんわり「普通のメニューにしてくれ」と圧をかけてくる。

 が、思いついてしまったものは止められない。

 僕は今、『焼きおにぎり茶漬け』が食べたい!!

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