第87話 炒めごはんの卵包み(という名のオムライス!)
リビングへ降りると、すでにうちの両親、アリア、アリア父が集まっていた。
「お、クライスカンパニーの社長がご到着だぞ」
「え。はあっ!? ちょ、恥ずかしいからやめてよっ」
「はっはっは。米農家の救世主、の方がよかったかな?」
「おじさんまで!?」
恥ずかしさに慌てる僕を見て、みんな楽しげに笑っている。
まったく本当、こいつらは!
「フェリク様、どうぞこちらへお座りください」
「そこ!? え、ええと……普通の席でいいのに……」
その場にいた執事に誕生日席に座るよう促され、僕は渋々席に着く。
それと同時に、次々と料理が運ばれてきた。
スープにサラダ、肉料理、それから――
「こ、これは……オムライス!?」
「オム……? 我々は『炒めごはんの卵包み』と呼んでおりましたが、オムライスという料理なのですか?」
「あ――え、ええと」
しまった、あまりに予想外かつ見慣れたものが飛び出したから、うっかり口に出してしまった……。
執事をはじめ、周囲の全員がぽかんとして僕を見る。
「え、ええと。なんかそんな感じかなーって……思っただけ、というか……」
「よく分からねえが、せっかくフェリクが名付けてくれたんだ。今日からこれを『オムライス』と呼ぶことにしよう」
「あらいいわね。なんか可愛くて好きだわ~」
い、いいのかそれで……。
「それじゃあいただこう。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
オムライスは、しっかりめに焼かれた卵でごはんが包まれているタイプ。
かかっているソースはトマトソースに見える。
スプーンでそっと端っこを崩すと、中にはごはん、それから小さく切ったベーコンときのこ、アスパラが入っていた。
――へえ。こういうオムライスにアスパラは珍しいな。
そんなことを考えながらソース、卵、ごはんを一緒に口に含むと、ここで再び驚きがあった。
「――このトマトソース、三つ葉と醤油が入ってる!?」
「ふふ、さすがフェリクね。そうなの。醤油って本当、何にでも合ってすごいわね。三つ葉が爽やかでしょ?」
「うん、とってもおいしいよ。さすが母さん!」
我が母ながら、彼女の食材活用術は本当にすごいと思う。
もう醤油の特性を理解して使いこなしているなんて。
でも、それだけ苦労してきたってことなんだろうな……。
「いやあ、本当においしいですね。これはぜひうちの妻にも伝授してほしいところです。レシピ、お聞きしても?」
「もちろん! アリアちゃんも気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」
「これ、私もすごく好きだわ」
気付くと、アリアはオムライスを完食していた。
三つ葉は、元々は恐らくうちでしか食べられていなかった野草だったが。
今や本格的に野菜として生産されている人気商品となっている。
こうしたおいしい野草を見つけては商品化する、という事業に、母のスキル【鑑定・植物】が大いに役立っているらしかった。
――にしても、まさか僕がいないところでオムライスが誕生してるなんて。
なんだろう、このそわそわする嬉しさは。
みんなが自由にお米を活用し、普段使いの食材の1つとして認識し始めている。
ああ、これはやばいな。
嬉しくて泣きそうだ……。




