第86話 久々に会う家族のあたたかさ
「フェリクっ! それにアリアちゃんも!」
クライス農場に着くと、父と母が屋敷の前まで出てきていた。
「こんにちは!」
「久しぶり。2人とも元気にしてた?」
「お母さんもお父さんも、変わらず元気よ。フェリクこそ働きすぎてない? ちゃんと食べて寝てる?」
母は僕を強く抱きしめ、涙目で再会の喜びをかみしめている。
その横では、父まで涙をにじませていた。
「ち、ちょっと母さん落ち着いて……。大丈夫だよ。それよりクライス農場すごいね。おじさんから話は聞いてたけど、こんな大規模な農場だとは思わなかった」
「フローレスさんからお話があって、よく分からなかったけど面白そう!ってOKしたらこうなってたの。お母さんたちもびっくりよ」
よく分からなかったけど面白そう!ってあたりが母さんらしいな!
そしてそんな状態のまま計画を続行するおじさんもさすがすぎる!!!
「父さんもびっくりしたよ。元ファルムに作るっていうから、てっきりうちの家や田んぼがあった場所に作るんだと思ってたら、まさかのファルム全部がうちの農場になってたんだからな……」
「それは衝撃的だね……」
「いやあ、説明不足だったみたいで申し訳ない。はっはっは」
呑気に笑うアリア父だが、これがうっかりなのか確信犯なのかは怪しいところだ。
「それはそうとクライスさん、今日は泊めていただいても? フェリク君やアリアも長旅で疲れているでしょうし、出発は明日にしようと思ってるんですが」
「ああ、もちろんです。部屋はたくさんありますし、好きに使ってください」
「フローレス様、フェリク様、アリア様、お部屋の準備が整っております。ご案内いたします。お荷物はこちらでお運びします」
クライス農場のメイドの1人が、そう屋敷の中へと案内してくれた。
屋敷は、平民の家とは到底思えない豪華な造りで、部屋数もいくつあるのか分からないくらいに多い。
「フェリク様は専用のお部屋がありますのでこちらに。フローレス様とアリア様は、そこのメイドが客室にご案内いたします」
「じゃあアリア、またあとでね!」
「うんっ。またあとで!」
僕はアリアたちと分かれ、僕用に作られたらしい部屋へ向かうことになった。
「専用の部屋、作ってくれてたんだ」
「はい。ここが自宅になるなら、フェリク様がいつでも来られるよう部屋も作っておきたいと奥様が」
か、母さん……。
もっと時間を作って顔を出そう。
会うたびにそう思いはするものの、忙しくてつい後回しにしてしまう。
1人暮らし歴の長かった大人の悪いクセだな。はあ。
「……でも、2人とももっと工房に来てくれてもいいのに」
「フェリク様は、普段は領主様のお屋敷の敷地内にいらっしゃいます。親とはいえ、気軽に会いに行くのは難しいのではないでしょうか……」
「そういうことなの!? 言ってくれればよかったのに」
「ふふ。旦那様が、『フェリクが困ったときは全力で助けに行く。でも今は見守ろう』と奥様を宥めてらっしゃいましたよ。――こちらがフェリク様のお部屋です」
着いた先には、きちんと手入れされた、シンプルながら広々とした部屋があった。
そこには、生活していけるよう家具も整っていて。
改めて、自分があの2人の子どもなのだと、家族の一員なのだと実感させられる。
「一息つかれましたら、お食事をご用意いたしますので、1階のリビングまでお越しください」
メイドはそう一礼し、部屋を出ていった。
――人が作った料理を食べるのって、久しぶりだな。
いったい何が出てくるんだろう?
農家なわけだし、と考えると、やっぱりお米を期待してしまう。
今はまだ難しいだろうけど、そのうちこの世界の人が考えたオリジナル米料理も出てくるんだろうか?
何にせよ楽しみだな!




