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第85話 旧ファルム着、そしてそれぞれの思い

「――え。こ、ここがあのファルム!?」

「…………」


 旧ファルムに着くと、以前の寂れた農村の面影はなく。

 そこには大きな屋敷のような建物、それから整備された広大な農場が広がっていた。


「ああ、そうだよ。その一番大きな建物が、君の両親が住んでいる屋敷だ。その横にあるのが従業員用の居住棟。まあ寮のようなものだね。で、あっちは収穫したお米や農産物、農具やら何やらを管理している倉庫兼工場だ」


「え、ちょっと思った以上に規模がすごくて、頭が追いつかないんだけど……」

「…………ねえ、これ、どういうこと? パパやママ、フェリクと過ごしたあの家は、なくしちゃったの?」


 ファルムの変化に一番ショックを受けたのは、アリアだった。

 当時8歳だったアリアには、あのあと何があったのか、なぜ引っ越すことになったのかも伝えられていないのかもしれない。

 彼女の目には、じんわり涙がにじんでいる。


 ……そっか。アリアにとって、あそこは生まれ育った家だもんな。

 いやまあ僕もそうだったけど。

 でも僕は前世の記憶があるから……。


 訳も分からず呆然と涙を流すアリアに、アリア父がハッとした様子で焦りを見せる。


「あー、いや……ええと。あの村はもうないんだよ、アリア。ここはもう、クライス農場なんだ」

「どうして!? こんなに広いんだから、あの家くらい残してくれてもよかったじゃないっ!」

「それを決めるのは、領主であるアリスティア様だ。うちは住む家を手配してもらえただけマシなんだよ」


 ――ああ、そうか。

 アリアたちも、あの一件の被害者なんだ。


 僕がうまくやらなかったから。

 米に没頭して周囲を見てなかったから、あんな事件が起こって、何も悪くないフローレス家まで……。


「…………ごめんなさい」

「いや、フェリク君のせいじゃない。いいかい、自分が悪いなんて思っちゃいけない。君は頭がいいから、たぶん周囲を見られなかった自分を悔いているんだと思うけどね。それとこれとは別の話だし、スキルを磨くのは悪いことじゃないだろう?」

「でも……」

「あれは完全にやった側のひがみだよ。彼らは、自分より下だと思っていたクライス家が、アリスティア家に気に入られたことに耐えられなかったんだ。……私は、彼らがそう思っていることに気づいてたのに」


 アリア父は目頭を押さえ、深いため息をつく。

 その表情から、彼がどれだけ後悔や罪悪感を背負っていたのかが感じ取れた。

 こうして積極的に力を貸してくれるのは、もしかしたら罪滅ぼしの意味もあるのかもしれない。


「私もこういう仕事をしていると、いち平民の分際で、とよく言われるからね。でも、君なら乗り越えてくれると思って手を貸さなかった。けどまさか、家や田んぼに火をつけるなんて……。アリスティア様を紹介した私が、もっと責任を持って見ておくべきだった。私の計算ミスだよ」


 馬車の中に、暗く重い空気が流れる。

 悪いのが誰であれ、どういう事情であれ、少なくともアリアには何の非もない。


「あの、アリア……」

「……そう、なんだ。じゃあ、あの火事はうちの責任でもあったってことなのね」

「え、いやあの」

「それなら仕方ないわねっ。家がなくなっちゃったのは悲しいけど、今もこうしてフェリクと一緒にいられるし、私、我慢するわ」


 アリアは涙を拭き、そう、唐突にすべてを吹っ切るような勢いで宣言した。

 僕はもちろん、アリア父も、我が子のそんな様子にぽかんとしている。


「あ、アリア……」

「だってそれって、フェリクとうちと領主様がすごいってことよね?」

「え。あ、ああ。まあ……そう、だね?」

「大きなことをするには、リスクがつきものなんでしょ? フェリクはこれから、もっともっとすごくなるし。私だってフローレス家の娘として負けないわ。だから、家のことはあきらめる!」


 アリアは、決意のこもった瞳でそう言い切った。


 ――ああ、アリアはやっぱりすごいな。


そう思った途端、無性に嬉しくなり、アリアを抱きしめたい衝動に駆られた。

まあもちろん、親の前でそんなことはしないけど!


「いつか僕が、アリアに大きな家をプレゼントするよ!」

「本当!? 楽しみにしてるねっ!」

「――――ふ、ははっ。なら私も楽しみにしてるよ。どうせなら、貴族の屋敷みたいなのがいいなあ」


 おまえにじゃねえよ!

 いやまあ、いてもいいけども!!!

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