第83話 もっと領内のことを知るために
「――なるほど、これは素晴らしいな。エイダン、精米機に関する書類の届け出はしっかりできているね?」
「ええ、もちろん。こんな画期的な魔導具開発の権利、絶対に逃しませんよ」
アリア父と領主様は、互いの目を見て企み顔でニヤリと笑う。怖い。
「――ああ、心配しなくても、フェリク君にもしっかりお金が入るようにしてあるからね。この歳でこれだけ稼げれば、もう一生遊んで暮らせるなあ君は」
「はっはっは。将来はエイダンを超すやり手になるかもしれないな。私も領の管理者として、負けていられないよ」
「いやー、ははは。恐れ多いです……」
僕が二人を見ていたのを「心配している」と受け取ったのか、アリア父は笑いながら僕に目線を合わせ、頭を撫でてくる。
領主様も、複雑な顔をしているであろう僕を見ておかしそうに笑った。
「――そういえばフェリク君、君は今や、我が領の繁栄に欠かせない存在だ」
「えっ? そ、そんな身に余るお言葉」
「そこでだ、このアリスティア領のことを知ってもらうためにも、君の知名度を上げるためにも、挨拶がてら領内を回ってもらいたい」
……な、なるほど。
たしかに僕は、生まれ育ったこのアリスティア領内のことをあまり知らない。
いや、9歳にしてはそれなりに把握してる方だと思うけど。
でも、お米で領内を活性化させるためには、もっと実際に目で見て知る必要があるだろう。
「私は同行できないが、エイダンがうまく取り持ってくれるはずだ。君の目で見て、感じて、何か思い浮かんだことがあれば遠慮なく教えてほしい」
「……分かりました」
「ついでと言っては何だが、君の両親も連れて行くといい。せっかくだし、堅苦しく考えずに楽しい時間を過ごしておいで。最近、あまり会えてないだろうからね」
「ありがとうございます!」
そうか、これはなかなか両親と会えない僕への、領主様の計らいでもあるんだ。
そういえば僕、クライス農園ってまだ一度も行ったことないな。
どんな感じになってるんだろう?
――でも、それなら。
「あ、あの……シャロとミア、それからアリアも連れて行っていいですか?」
「ああ、メイドに関してはもちろん構わないよ。そこそこ長旅になるだろうし、アリアの同行にはエイダンの許可が必要だろうがね」
「……そうだなあ、フェリク君が面倒を見てくれるなら、連れていかないこともない。置いて行くと拗ねそうだし。ただし、仕事の邪魔にならないよう頼むよ」
その役割を僕に託すのは、父親としてどうなんだろう?
まあいいけど。
「分かった。アリアのことは僕が責任を持つよ」
「あはは、頼もしいなフェリク君は。出発は明後日の朝で、恐らく一週間から十日ほどの旅になる。メイドさんに聞きながら、しっかり準備するんだよ」
「はーい!」




