第79話 普段のごはんになってほしい
翌日から、さっそく精米機の開発に向けての話し合いがスタートした。
とは言っても、僕がすることは前世で見た家庭用精米機をできる限り詳細に思い出し、それを絵やら文字やらを駆使して開発担当者に伝えることくらいだけど。
相手は精米機なんて見たことも聞いたこともないだろうに、僕の話に真剣に耳を傾けてくれる。
「――それでは、試作品ができあがりましたらまた参ります」
「よろしくお願いいたします」
応接室から戻ると、アリアとシャロ、ミアがおにぎりを食べながら談笑していた。
アリアがメイドになって以降、3人はとても仲良しだ。
「フェリク様、おかえりなさいませ!」
「おかえりフェリク。これ、すっごくおいしいのよ! フェリクも食べてみて!」
「ただいま。へえ、僕ももらっていい?」
「メイド用のまかないで作ったものですけど、それでもよければぜひ!」
手を洗って、大皿に残っていたおにぎりを一つもらってみることにした。
頬張ると、程よく塩を効かせてあるごはんの中には、キャベツと豚肉を塩コショウとにんにくで炒めたものが入っている。うまい。
「……これおいしいね。ごはんと一緒におかずを食べてるような満足感」
「き、今日のまかないとして出たおかずです」
「本当はフェリク様にお出しするようなものではないんですけど……」
シャロとミアは恥ずかしそうに伏し目がちになり、小声でそうつぶやく。
ちなみにごはんは常時炊いたものを用意していて、いつでも好きなときに食べていいと伝えてある。
「いや、こうして自然な形でごはんを取り入れてくれるのが一番嬉しいよ。お米は、日々の食事に当たり前に出てくる身近な食べ物であってほしいと思ってるからね」
もちろん、たまにはライスケーキみたいな凝ったものもいいけど。
「……フェリクって、お米の話してるとき本当に楽しそうよね」
「そ、そうかな」
まあ実際、めちゃくちゃ楽しいからな!
米の本当の魅力は、こんな短期間では到底伝えきれないし。
これから精米機ができれば、もっともっと普及して、そして――
――なんて思っていたその時。
「フェリク君! ようやくできたよ!」
バンッとドアが開けられたと思ったら、何やら目を輝かせているアリア父がキッチンへと入ってきた。
「パパ!?」
「!? え、お、おじさん!? どうしたの、できたって何が?」
「君の工場だよ」
――――は?
「え、ええと? 工場?」
「そう、工場。この工房だけでは手狭すぎるだろう? 今度のはすごいぞ! 設備もしっかり整ってるし、広さも申し分ない。従業員を住まわせられるよう、社宅も完備したよ」
え、ええと。
ちょっと何言ってるのか分からないんだが!?
「え、そんな大きな工場、いつから……?」
「君が麹がどうこうって言いだして、醤油を作り始めたころかな?」
「だいぶ前だね!?」
「そりゃあだって、大規模な工事が必要だからね。一朝一夕でできるものではないし、早めに着手しないと」
ずっと言いたくてうずうずしていたのか、それともそこから発生するビジネスにワクワクが止まらないのか、アリア父は今までにないくらいに生き生きとしていた。




