第78話 目指せ米の全国デビュー!
領主様主催の食事会が無事終わりを迎えた翌日。
その件で、僕とアリアは執務室に呼ばれ、領主様直々にお礼を言われた。
「君たちが考案してくれたあのライスケーキ、とても気に入ってもらえてね。相手方にお米についてあれこれ聞かれたよ」
食事会に来ていたのは、隣の領を治めているディアモンド侯爵とその家族。
恐らく自身の息子とフィーユを対面させたい、という意図を持ってきたのだろうが、あいにくフィーユは既に寮生活を始めていてここにはいない。
だからライスケーキがあって本当に助かった、と話していた。
「気に入っていただけて光栄です」
「いやあ、はるばる遠くからやってきたのに、フィーユ不在と知ったときのあの顔。まったく、悪い人ではないんだが、彼もまだまだだな」
半ば呆れたように笑いつつも、特に不快に思っている様子ではなかった。
この感じだと、領主様自身もディアモンド家の子息とフィーユ様の結婚を考えているのかもしれない。
貴族にとって、結婚は本人だけの問題ではない。
というより、ほぼ家の都合で決められるのが一般的だと聞いている。
いわゆる政略結婚だ。
……フィーユ様も、いつかそういうのに巻き込まれていくんだろうな。
そう思うと、何となく気の毒な気もしてくる。
もしかしたら、僕に執着し、アリアに嫉妬心を抱いてしまったのには、そうした未来も関係していたのかもしれない。
まあでも、平民である僕がどうこうできる話ではないし。
考えたところで仕方ないんだけど。
「……それで、ディアモンド領でもおいしいお米を広めたいそうなんだ」
「本当ですか!?」
「ああ。保存もきくから、備蓄品としてもとてもいいと絶賛していたよ。それで、フェリク君にどうしたらいいか相談しようと思ってね」
お米の魅力が広まってくれるのは嬉しいし、とても喜ばしいこと。
全力で協力したいし、できることなら何だってする。
でも……
――精米できるのが僕だけってのがな!!!
正直、今でも手が足りていない。
たまたま米と周囲に助けられて、チートスキル持ちのような扱いを受けてるけど。
僕自身はただの米農家の息子でしかない。
体力にもスキルの使用にも、当然限界がある。
何か策はないものか……。
――――そうだ!
「現状、僕のスキルだけではアリスティア領内のお米で手一杯です」
「やはりそうか……。いや、当然のことだ。無理を言ってすまなかった」
「いえ、そうではなく。そこで領主様にお願いがあるんです。精米ができる魔導具の開発をしていただけませんか?」
「精米ができる魔導具だって……!? たしかに、そんなものが作れたとしたらそれは素晴らしい財源に――いや、お米の普及に大きく貢献できるだろうね」
今本音が出てましたね!?
まあいいけど!
「それで、何か案はあるのかい?」
「うーん……」
いくら米愛なら誰にも負けないとはいえ、前世の僕の米活は完全なる消費者側だった。さすがに精米機の仕組みまでは分からない。
が、要は玄米の糠部分を削り取れればいいのだから、方法はあるはず――。
――いや、待てよ。
たしか家庭用精米機は、炊飯器の釜みたいなザルの中心に刃がついてて、そこに米を入れて攪拌するんだったよな?
普段は近所のコイン精米機を愛用していたが、ふと家庭用精米機が気になってネットで検索したことがあった。
僕は理系ではないし、機械の仕組みはよく分からないけど……。
でも、あれくらいならこの世界の魔導具技術でも作れる気がする。
「研究と改良を重ねる必要はあると思いますが、実現は可能だと思います」
「本当か! よし、それなら明日にでも魔導具製造会社の開発担当を呼ぼう。エイダンならすぐに連れて来られるだろう」
「あ、ありがとうございますっ!」
こうして精米機開発の許可を得て、それに向けて話をすることになった。
これが成功して精米機が誕生すれば、お米全国デビューも夢じゃない。
伝われ日本の精米技術!!!!!




