第76話 味も見た目も妥協しないメニューを
午後はアリアの挨拶を兼ねて、グラムスの屋台やレストラン、お米関連商品を卸している小売店などを巡った。
無邪気で明るく評判のいいアリアが一員になったことは、クライスカンパニーにとっても大きなプラスになりそうだ。
「なんかたくさんもらっちゃったね♪」
「あはは、そうだね。お菓子類は、帰ったら工房のみんなにも分けてあげよう」
グラムスを巡っている途中、野菜や肉、魚、果物、お菓子などたくさんもらってしまい、帰りの馬車は荷物でいっぱいになった。
馬車に冷却庫が積んであって助かった!
――コンセントなしで使えるって、本当に便利だよな。
まあ定期的な魔導士のメンテナンスがいるのは大変だけど。
「帰ったら、アリアが考えてくれたライスケーキについて話し合おう」
「えっ、い、いいの?」
「もちろん。実は領主様に、今度の食事会で出すメニューにごはん料理を加えたいって言われててさ。おいしさだけじゃなくて見栄えもいい料理を探してたんだ」
「り、領主様に!? それって、貴族が顔つなぎのために集まるっていうあれ!? そんな場に私が考えた料理なんて無理よ! 貴族は怒らせたら怖いのよ!?」
アリアは驚き、慌てて首を横にふる。
というかこいつ、顔つなぎとか意味分かるんだ……。
9歳の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
おじさんが家で言ってるんだろうな、ってどストレートな言い方が面白いけど。
前の席では、シャロとミアが必死で笑いをこらえている。
「大丈夫だよ。食事会って言っても、常日頃から親しくしてる相手との少人数な会らしいし。相手方の奥様もいらっしゃるみたいだから、きっと喜ぶと思うよ」
「そうかなあ……」
「元々方向性としては、そういう感じにしようと思ってたんだ。だから任せてよ」
工房へ戻り、グラムスでの購入品やもらい物をキッチンのテーブルへ並べる。
どれも新鮮そのもので、魚は丁寧な下処理が施されている。
「せっかく新鮮な鮭があるから、生のままお刺身にしてケーキに使おうか」
「生で食べるの!?」
「捕れたてをそのまま冷凍したものだって言ってたから大丈夫だよ。魚屋さんは、たまに生で食べてるんだって」
もらった鮭の赤みがかったオレンジ色の断面は、程よく脂が乗ってツヤツヤと輝いている。
「まずは少し味見してみる? はいこれ、醤油をつけて食べてみて」
「醤油!? お魚って、塩コショウふってバター焼きにするイメージだったわ」
アリアは戸惑いながらも、刺身に醤油をつけて口へと運ぶ。
そして驚いたように目を見開いた。
「な、何これすっごくおいしい! 焼いたお魚と全然違う……」
「だろ? 醤油を作っておいて本当によかったよ。アリアが考えてくれた、この鮭と青じそのライスケーキ、これはこのお刺身を使って作ろう」
「すごい! そんなの絶対おいしいに決まってるわ!」
先ほどまで不安そうだったアリアだが、今は目をキラキラと輝かせ、これから作られるライスケーキに思いを馳せている。
アリアのこういう素直なとこ、本当に好きだな。
僕も9歳児として見習わないと。
鮭の刺身はねっとり濃厚で、口に入れると舌の温度で程よくとろけていく。
それでいて全体の弾力は損なわれず、魚好きにはたまらない噛みごたえもしっかりと残されている。
これをごはんと合わせることを考えると、それだけでもうワクワクが止まらない。
「あとは……このお肉のもいいね! 塩コショウもいいけど、玉ねぎを使った和風ソースをかけるともっと合うかも」
「ええ、玉ねぎ……」
ああ、そうだった。アリアは玉ねぎ嫌いなんだっけ……。
ファルムにいたころ、たまに食事に呼ばれて夕飯をご馳走になっていたのだが。
そのときもよく玉ねぎを残して怒られていた。
「みじん切りにして炒めてソースにすれば、辛みもなくなっておいしいよ。コーンを混ぜ込むのはいいね、このままいこう。マッシュポテトも乗せたらいいかも」
「チーズは?」
こいつ本当チーズ好きだな!
まあ僕もお米好きですけど!!
「チーズは……うーん、マッシュポテトに混ぜ込むって手もあるけど、今回は肉のうまみを引き立たせたいしシンプルにいこうかな」
「ええー」
「チーズは、アリア用のライスケーキを考えるときに入れようか」
「やったあ!」
こうして僕は、アリアの案を基に、2つのライスケーキレシピを完成させた。
あとは実際に作って、味見しながら調整しよう。




