第72話 領主様も娘には勝てない説
「お父さま、いったい何事ですか」
「……フィーユ、おまえがそこのメイドに、アリアをいじめるよう指示したというのは本当か?」
「!? 何の話です? わたくしはそのようなこと……」
領主様は、今この場で話された内容をフィーユに説明する。
フィーユはうつむいて耳まで真っ赤になり、ぷるぷると震え始めた。
こんな大勢の前で、しかも好きな人(?)の前でそれを明かされ、問い詰められるなんて。なんだこの羞恥プレイ……。
もし濡れ衣だったら可哀想がすぎる。
しかしその後、フィーユはキッと領主様を睨みつけ、声を震わせながらも反論を始めた。
「……た、たしかにわたくしは、フェリクのことが好きです。ずっと一緒にいたいですし、先日お話したように授業も一緒に受けたいです。そこのメイドのことを、妬ましいとも思っていました」
あの話、フィーユが僕のことを好きって、あれ本当だったのか。
というか、僕はいったいどんな顔をしてこの場にいればいいんだ……。
「ですがそんな命令をした覚えはありませんっ。そんなことをしても、フェリクが出ていってしまえば本末転倒ですもの。わたくし、2人の距離を見誤るほど愚かではありませんっ」
「そ、そんな、お嬢様あんまりです! 私に罪を被せようというのですか!?」
「……あなたいったい何なの? たしかに一度、フェリクたちを街で見かけた日の夜、たまたま出くわしたあなたに愚痴をこぼしたけど。でもいじめてなんて言ってないわ」
フィーユは、ごみを見るような目でメイジーを見下す。
「お、お嬢様は気が動転してらしたので、もしかしたらその場の勢いでおっしゃったのを、私が本気にしてしまったのかもしれません」
「……はあ。あなた本当に愚かなメイドね。主のスキルも知らないのかしら」
「――――へ?」
「お父さまは、スキル【記憶逆行・場所】の持ち主なのよ。あなたの言葉が嘘か本当かなんて、すぐに分かることだわ」
「…………」
メイジーは、言い訳できないと察したのだろう。
うなだれ、そのまま黙り込んでしまった。
「アリアに酷い仕打ちをしただけでなく、うちの娘に罪をなすりつけようとは。覚悟はできてるんだろうね? 君の家には追って話をする。――連れて行け」
「はっ」
いつの間にか部屋の外には、何人もの衛兵たちが集まっていた。
メイジーはあっさり捕らえられ、衛兵によって連れていかれる。
上位貴族の娘だし、さすがにこれで奴隷落ちということはないだろうが。
しかし雇い主である辺境伯の娘に罪をなすりつけたのだ。それなりの処分がくだることだろう。
「アリア、すまなかったね」
「い、いえ……」
「……お父さま、わたくしにも何か言うことがあるんじゃありませんか?」
一難去り、皆が落ち着きを取り戻し始めた今。
この場で一番怒りに震えているのはフィーユだった。
「あー、ええと、フィーユもすまなかったね」
「実の娘にあらぬ疑いをかけたうえ、わたくしのふぇ、フェリクへの思いまでこんな場で……。 いったいどうしてくれるのです!?」
「そ、それを言ったのはあのメイドであって、私では――。それにおまえも、あんな大声で断言しなくても」
「なっ――わたくしが悪いっていうのですか!?」
フィーユに半泣きで詰め寄られ、領主様はたじろぎ言葉に詰まる。
こんなに動揺している領主様、初めて見た……。
やはり領主様といえど、娘には弱いということか。
――にしても。
フィーユ様じゃなくてよかったあああああああああああ!!!!!




