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第69話 ライスプディング、そして涙

 翌日、僕はラヴァル先生に頼み込んで、授業を休みにしてもらった。


「おはようフェリク。……あれ、ラヴァル先生は?」

「今日は授業は休みにしてもらったんだ」

「えっ!?」

「アリア、大事な話がある――んだけど、その前にとりあえずこっち!」

「えっ!? ち、ちょっと――!?」


 僕はアリアを自室に引っ張っていき、そして。


「シャロ、ミア、よろしくね」

「かしこまりましたっ!」

「承知いたしました」

「は? え? ちょ、な、なんっ――」


 僕はアリアを2人に預け、部屋を出る。

 今ごろアリアは、2人に風呂に入れられているはず。

 そのあとは、部屋でしばらく眠ってもらうつもりだ。

 まずは体力を回復させないことにはどうしようもない。


「シャロ、ミア、頼んだよ……」


 ちなみに、工房の入り口には鍵がかけてある。

 今この工房にいるのは、僕とアリア、シャロとミア、それから信頼できる使用人とラヴァル先生のみだ。

 先生には、夜まで工房内の客室でゆっくりしてもらうことにした。


 ――よし! んじゃあ今のうちに作るか!


 今日作るのは、お米を使ったプリン、「ライスプディング」だ。

 ライスプディングは消化に良く、体への負担も少ない。


 まずは米と水、牛乳、砂糖を鍋に入れ、柔らかいお粥になるまでじっくり煮込む。

 これの粗熱を取ってすり鉢に入れて、米粒をすりつぶして滑らかにしていく。

 滑らかに、とはいっても、多少ざらざら感が残るくらいの方が僕は好きだ。

 まあこの辺は好みだけど!


 いい感じに滑らかになったら、あとは器に入れて――


「よし! あとはアリアが起きるまで冷却庫で冷やせばOKだな!」


 ソースは――甘酒アレンジ用に作り置きしてるいちごジャムにしよう。

 甘さひかえめに作ってるからちょうどいいはず。


 すり鉢に残っているライスプディングを味見すると、練乳を思わせるまったりとミルキーな甘さが口いっぱいに広がる。

 ああ、うまい。この程よく残った米のざらざら感も素朴で好きなんだよなあ。

 アリアも気に入ってくれるといいな。


 ライスプディングを冷却庫に入れたあとは、ここ数日のごたごたで放置していた仕事を急ピッチで片づけていく。

 特に仕入れた米の品種改良や精米が滞ると、方々に多大な迷惑がかかってしまう。

 

 ――ほかの多くの作業は、僕がいなくても工房の従業員がやってくれるけど。

 でもこればっかりはな。


 ちなみに精米は、日本古来の杵と臼でつくやり方を伝授してはいるのだが。

 途方もない労力と時間を必要とするうえ、スキルに比べると精度がだいぶ低いため、なかなか実用化には至っていない。

 たった数百円で、しかも数分で精米してくれるコイン精米機って、あれ実はめちゃくちゃすごかったんだな……。


「……フェリク」


夕方、目が覚めたアリアが、工房1階のキッチンへと降りてきた。


「アリア! おはよう。少しは回復できた?」

「う、うん……。心配かけてごめんね」

「そんなのどうでもいいよ。ほら、座って」

「で、でも私、そろそろ戻らないと……」


 アリアは困惑した様子で時間を気にしている。


「あんな場所に帰せるわけないだろ。いいからほら、座る!」

「ええ……」

「はいこれ、食べて。ライスプディングっていう、お米で作ったスイーツなんだ。冷たくておいしいよ」


 僕はアリアを椅子に座らせ、テーブルに、いちごジャムを乗せたライスプティングを用意した。

 僕の様子から逃げられないと悟ったのか、アリアはため息をつきつつもスプーンを手に取る。

 そして、ライスプディングをすくって口へと運ぶ。


「…………甘い。おいしい。やさしい味がする」


 気づくと、アリアは泣いていた。

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