第66話 多忙を極める9歳児っておかしいだろおおおお
アリアと街へ出かけた翌日から、僕の仕事は一層忙しくなった。
もしかしたら、この多忙を見越して全日の休みをくれたのかもしれない……。
「フェリク君、雑誌や新聞の記事、反響も良好だよ」
「お、おじさん、最近人使い荒すぎない!? もしかして、僕のせいでアリアがメイドになったの怒ってる?」
「べつにそんなことはないよ」
笑顔で否定するアリア父だが、しかしその声には若干のトゲを感じる。
「……やっぱり怒ってる」
「ごめんごめん。そうじゃないんだ。ただその、うちは貴族じゃないし、やっぱり親としてはあんなところに放り込むのは心配なんだよ。あとはまあ、家族に苦労させないように頑張ってきたのに、9歳から働かなくてもいいんじゃないかってね」
アリア父の思いはもっともだろう。
僕だってそう思う。
「――だからあまり考えないように仕事に打ち込んでいたら、いつの間にか君の仕事も増えてしまったというわけだよ。あはは」
「いやそこは自重してもらって。というか、うちの親が起業したってほんと?」
「あれ、言ってなかったっけ。そうそう、うちでは手に負えなくなってきたから、独立してもらったんだ。レグスさんが代表取締役、リイフさんが取締役、私はアドバイザーという形で入ってる」
アリア父によると。
これまでフローレス商会では、お米の仕入れや店舗展開、広報活動に加え、農地を増やし、生活に困っている人たちを雇い入れて米の生産基盤を拡大させる農場管理まで行っていたらしい。
が、さすがに米の普及と農地拡大に伴って手が回らなくなり、農場側のことを「クライス農園」として切り離して、本来の「フローレス商会」としての仕事に専念することにした、と説明してくれた。
今後「クライス農園」では、農具の生産や改良、仕入れも行なっていくという。
「……そっか。おじさんも大変だもんね。うちも、いつまでも甘えてばっかりじゃいけないよね」
「甘えだなんてそんな。クライス家のおかげで、フローレス商会は今やアリスティア領一の商会だからね。しかも君という戦力は、よそには決してマネできない。むしろ感謝してもしきれないよ」
アリア父はそんなことをいうけれど。
やっぱり、どう考えても助けてもらったのはクライス家だと思う。
ある日突然家を焼かれて、すべてを失って、路頭に迷うしかなかった僕たちに道をくれたのはアリア父だった。
領主様と知り合えたのも、彼がいてこそだ。
きっと、今が頑張り時なんだろうな。うん。
9歳で目が回るような仕事量ってちょっと意味が分からないけど。
でもこのガストラル帝国は、前世の日本のような優しい国ではない。
犯罪者以外にも、さまざまな事情から奴隷に落ちてしまう人は珍しくないし、法によって奴隷の売買も認められている。
犯罪奴隷と違って、一般奴隷は一応最低限の人権は守られることになっているが。
それもまあ、買い手次第というのが実際のところだ。
……うちもそうなってたかもしれないんだよな。
これからだって、何がどうなるか分からない。
僕もアリア父を見習って、いざという時に負けない力を身につけないと。




