表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/133

第63話 もっとフェリクと一緒にいたい【side:フィーユ】

 時は少し遡る――。


「お父さまっ!」

「――フィーユ。どうしたそんなに慌てて」

「わ、わたくしもフェリクと一緒に授業を受けさせてくださいっ」

 

 メイドが許されているのだから、わたくしだって――。

 そう思っていたのに。


「ダメだ。いったい何を考えてるんだ……」


 え――――。


「ど、どうして!? だってメイドだって一緒に受けているのでしょう?」

「メイドだからだ。おまえはうちの、アリスティア家の娘だろう。学ばなければならないことの量も種類も違いすぎる。それに、2人はまだ勉強を始めたばかりだ。12歳にもなって6歳の授業を受けるつもりか?」


 そんな、そんなのずるい……。

 わたくしだって、フェリクと一緒にいたいのに。


「授業はわたくしに合ったものを受けます。ですから同じお部屋で――」

「ダメだ。2人だって、ずっと貴族の娘が一緒では気が休まらないだろう。おまえには、ちゃんと別の家庭教師を雇ってある」

「わ、わたくしは2人を困らせるつもりは――」

「おまえはそう思ってなくても、向こうにとってはそうなんだ。貴族の発言や行動には、それだけの力がある。それに、フェリク君やアリアとトラブルを起こされては困る」


 ……そんな理由、納得できない。

 トラブルなんて起こす気ないのに。


 ――ずっとお仕事ばかりで、離れて暮らしていたお父さまには分からないわ。

 幼いころから病弱で、先の見えない体の不調と戦い続けてきて。

 ちょっとしたことで熱が出て、どれだけ辛くて苦しかったことか。


 そんな中に現れた、奇跡のようなスキルを持ったフェリクという人。

 従者に甘酒とお粥という不思議な食べ物のレシピを伝えて、わたくしとお母さまを救ってくれた人。

 ずっと、ずっと会いたかった人。お礼を言いたかった人。


 そんなフェリクにようやく会えた。

 そしたらまさかの歳下で、歳も近かった。


 フェリクは、誰もがおいしくないと思っていたお米を心から愛し、いろんな料理に変えてしまう魔法使いみたいな人で。

 その姿を見ていて、不遇の扱いを受けてきたお米と、普通の暮らしすらままならない弱い自分が重なってしまったの。

 そして、ただただお米に没頭するまっすぐな姿から、目が離せなくなったのです。


 わたくしはただ、フェリクと一緒にいて、彼のそうした姿を見ていたいだけ。

 楽しくお話したいだけなのに。


 ……でも、お父さまが認めてくださらなければどうすることもできない。

 せっかく近くにいるのに、遠い。


「……分かりました。もういいです」


 涙が溢れそうになるのを必死でこらえ、足早に部屋を出る。

 でも、いけないと思えば思うほど、思いが溢れて止まらなくなった。

 

 あのメイドが羨ましい。

 フェリクと仲良しで、同じ立場で、いつも楽しそうに笑っている。


 ――フェリクは、わたくしのことどう思ってるのかしら。

 いつも優しい笑顔で接してくれるのは、わたくしがアリスティア家の娘だから?

 料理を振る舞ってくれるのは、工房や住む家を奪われたら困るから?

 わたくしのことが怖いから、そうしているの……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ