第63話 もっとフェリクと一緒にいたい【side:フィーユ】
時は少し遡る――。
「お父さまっ!」
「――フィーユ。どうしたそんなに慌てて」
「わ、わたくしもフェリクと一緒に授業を受けさせてくださいっ」
メイドが許されているのだから、わたくしだって――。
そう思っていたのに。
「ダメだ。いったい何を考えてるんだ……」
え――――。
「ど、どうして!? だってメイドだって一緒に受けているのでしょう?」
「メイドだからだ。おまえはうちの、アリスティア家の娘だろう。学ばなければならないことの量も種類も違いすぎる。それに、2人はまだ勉強を始めたばかりだ。12歳にもなって6歳の授業を受けるつもりか?」
そんな、そんなのずるい……。
わたくしだって、フェリクと一緒にいたいのに。
「授業はわたくしに合ったものを受けます。ですから同じお部屋で――」
「ダメだ。2人だって、ずっと貴族の娘が一緒では気が休まらないだろう。おまえには、ちゃんと別の家庭教師を雇ってある」
「わ、わたくしは2人を困らせるつもりは――」
「おまえはそう思ってなくても、向こうにとってはそうなんだ。貴族の発言や行動には、それだけの力がある。それに、フェリク君やアリアとトラブルを起こされては困る」
……そんな理由、納得できない。
トラブルなんて起こす気ないのに。
――ずっとお仕事ばかりで、離れて暮らしていたお父さまには分からないわ。
幼いころから病弱で、先の見えない体の不調と戦い続けてきて。
ちょっとしたことで熱が出て、どれだけ辛くて苦しかったことか。
そんな中に現れた、奇跡のようなスキルを持ったフェリクという人。
従者に甘酒とお粥という不思議な食べ物のレシピを伝えて、わたくしとお母さまを救ってくれた人。
ずっと、ずっと会いたかった人。お礼を言いたかった人。
そんなフェリクにようやく会えた。
そしたらまさかの歳下で、歳も近かった。
フェリクは、誰もがおいしくないと思っていたお米を心から愛し、いろんな料理に変えてしまう魔法使いみたいな人で。
その姿を見ていて、不遇の扱いを受けてきたお米と、普通の暮らしすらままならない弱い自分が重なってしまったの。
そして、ただただお米に没頭するまっすぐな姿から、目が離せなくなったのです。
わたくしはただ、フェリクと一緒にいて、彼のそうした姿を見ていたいだけ。
楽しくお話したいだけなのに。
……でも、お父さまが認めてくださらなければどうすることもできない。
せっかく近くにいるのに、遠い。
「……分かりました。もういいです」
涙が溢れそうになるのを必死でこらえ、足早に部屋を出る。
でも、いけないと思えば思うほど、思いが溢れて止まらなくなった。
あのメイドが羨ましい。
フェリクと仲良しで、同じ立場で、いつも楽しそうに笑っている。
――フェリクは、わたくしのことどう思ってるのかしら。
いつも優しい笑顔で接してくれるのは、わたくしがアリスティア家の娘だから?
料理を振る舞ってくれるのは、工房や住む家を奪われたら困るから?
わたくしのことが怖いから、そうしているの……?




