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第45話 フェリクに追いつきたい【side:アリア】

 フェリクの家が火事になって、そのあと領主様がうちにやってきて。

 私たちフローレス一家は、突然ファルムからグラムスへと引っ越すことになった。


 グラムスは、アリスティア領で最も栄えている街。

 美しい大通りには華やかな店やレストランが並んでいて、横道には多くの屋台が並んで賑わいを見せている。

 パパが経営している「フローレス商会」は、今や貴族が運営する商会にも負けない大きな商会で、領主様との繋がりも深い。

 そのこともあって、娘の私を知っている店員さんもたくさんいる。


「お、フローレスさんちの娘さんじゃねえか。それから奥様も。はいこれ、サービスだよ。持ってきな!」

「わあ、ありがとうっ!」

「すみませんいつも。ありがとうございます。アリア、よかったわね」

「いやあ、うちはフローレスさんのおかげで儲けられてるようなもんだからな。これくらいはさせてもらわねえと」


 ママと屋台通りを歩いていると、いつもこんな調子で誰かに声をかけられる。

 ちなみに今日もらったのは、「塩漬け肉と青じそのおこげサンド」だ。

 カリカリのごはんも、たっぷりと挟まれた具も、私の大好物。


「――それにしても、お米料理が定着してきたわね~。これがあのフェリク君の力だなんて、今でも信じられないわ」


 ママがそう、感心した様子でほう、とため息をつく。

 まだファルムに住んでたころ、たまに家族でグラムスへ来ていた時は、お米料理なんてカユーしか売ってなかった。

 あれから、まだ1年も経ってないのに。

 今や多くの店で、「いろんなおにぎりあります!」「甘酒で体力回復!」「お昼ごはんにぴったり!おこげサンド」など、お米料理を売りにしている。


「本当、すごいよね、フェリク……」


 ちょっと前まで、フェリクの家は貧しくて、お金がなくて。

 カユーと干し肉、あとはよく分からない雑草ばかり食べてたから、いつも私が食べ物を持って行ってあげていた。

 うちには食べ物がたくさんあったから、私が面倒見てあげなきゃって思ってた。

 申し訳なさそうに、少し困ったような顔で笑う、優しいフェリクが大好きだった。


 ――でも、今は。


 大出世して、領主様のお屋敷に住んでいて。

 私の助けなんてなくても、おいしいごはんをいくらでも食べられる。

 それどころか与えられたばかりのスキルを使って、あっという間にお米を人気商品にしてしまった。


 私なんて、まだ数メートル先に転移できるくらいにしか使えないのに……。


 フェリクが出世して、何不自由なく暮らせてるのはとても嬉しい。

 これは本当だけど、でも同時に、どうしようもなく寂しくなることがある。

 まるで別の世界の人間になってしまったみたい……。

 最近は、会うことすらなかなかできなくなってしまった。


 ――私、このままフェリクに置いていかれちゃうのかな。

 そんなの嫌だな。

 私だってもっと何かしたい。

 少しでいいから、フェリクに追いつきたい。


「……ねえ、ママ。私もフェリクみたいに何かできないかな」

「ええ、あなたにはまだ無理よ。……あのねアリア、フェリク君が特別なだけなの。焦らなくたっていいのよ」

「でも私、フェリクが好きなの。置いていかれたくないよ……」

「アリア……」


 目のふちが熱くなって、じわっと涙が溢れてくる。

 どうして私には、フェリクみたいな力がないんだろう?

 同じ日に同じ村で生まれて、ずっと一緒に育ってきたのに。

 もっとフェリクと一緒にいたいのに。


 9歳になったら、私は領主様のお屋敷でフェリクと勉強することになっている。

 だから、週に3日は一緒に過ごせるらしい。

 でも、多くの人に認められて立派に仕事をこなすフェリクの横にいる私は、きっと何もできないままのただの子ども。

 そんなの、余計につらい。


 私にも、何か、何か――。

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