第23話 先人の知恵は有難く拝借、でも――
ぬか漬けは適宜様子を見ながら育てていくとして。
次はレシピを開発したい。
今、カユー改め玄米粥から始まって、白米、おにぎり、焼きおにぎりときた。
おにぎりのバリエーションは無限大すぎてキリがないから、これは空いた時間で増やしていくことにして。
どうせならもっとインパクトのある、見た目が華やかなメニューがほしい。
「寿司もいいけど、この世界での商品化はハードルが高そうだよな……」
飲食店でも冷蔵庫――じゃなかった、冷却庫や冷凍庫があるとは限らないわけで、生魚を使うのはあまりにリスクが高すぎる。
貴族の会食とか、そういう場面でなら全然アリだと思うけど。
一度は凍らせないと、寄生虫がいたら怖いしな。
まあでも、握ったごはんの上に具材を乗せるスタイルってのはいいかも。
いや、いっそのことケーキみたいにすればいいのでは?
この間のアリアたちの反応からして、絶対喜ばれるだろうし。
……うん。
これ、ほとんどちらし寿司だな!!!
僕が考えるようなことなんて、既に考え尽くされているというわけか。
さすが米を愛する同士、いや、先輩方だ。
先人の知恵は有難く拝借しよう。
「――でも普通のちらし寿司もいいけど、もう一工夫何か……」
ただ上に乗せるんじゃなくて、層にするのはどうだろう?
それか、円柱状にして何か巻くのもオシャレだよな。薄く切ったきゅうりとか。
いや、せっかくならパンと合うおかずと組み合わせて対抗させるか……?
ハムと卵とか、ベーコンとか、サラダ類もいいよな。
いっそこんがり焼いてライスバーガーってのも……。
ああもう! 全部見たことあるやつ!!!
というか全部僕が食べたいわあああああ!!!!!
今すぐ目の前に現れてくれないかな、なんて、思わずため息が出てしまう。
こうした米料理のすべてが、僕が作らないと存在すらしないなんて……。
「あ、あの、フェリク様? やっぱりまだ体調がよろしくないのでは?」
「え、ああ、ごめん。ちょっと考えごとしてただけだから大丈夫だよ」
――とりあえず米を炊くか。話はそれからだ。
僕はキッチンに用意されていた鍋で米を研ぎ、冷却庫に入れて浸水させる。
今開けてみて気づいたが、冷却庫には既に食材が一通り入っていた。
あ、氷があれば氷も――と思ったが、氷はなかった。
「この冷凍庫、氷ってどれくらいでできるか分かるか?」
「サイズと量にもよりますが、だいたい5分くらいでしょうか」
5分て早いな!?
「凍らせたいものを入れて、ここのスイッチに触れてください。冷凍庫内の温度を自動測定して、集中的に凍らせてくれます。勝手に凍るのを待つと、たぶん数時間はかかるかと……」
「な、なるほど!? 集中的に凍らせるのはすごいな……」
「ただ、最初に凍らせるとき、魔導石の消耗も激しいのでお気をつけください。魔導具師様が来られる前に切れてしまうと、中にあるものがすべて溶けてしまいます」
よく見ると、冷却庫も冷凍庫もメーターのようなものがついている。
これがゼロになると使えなくなる、ということなのだろう。
――いくら好き勝手使っていいと言われてるとはいえ、さすがにフル活用するのは気が引けるな……。今回は試作だし、冷蔵庫で我慢しよう。
というか、贅沢言っちゃいけないんだろうけど炊飯器が欲しい……。
この世界、土鍋もないし。
まあ普通の鍋で炊いてもうまいはうまいけど、でも毎回これで炊くのはさすがの僕でもちょっと辛い。
うちに置いてきた高級炊飯器、一緒に転生してくれればよかったのに!
あれめちゃくちゃ高かったんだぞ!!!




