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第16話 火事、そして村人たちの答え

 領主様のお屋敷に招かれて以降、告げ口を恐れた親にきつく言われたのか、近所の子どもたちが直接僕を馬鹿にしてくることはほぼなくなった。

 また、村におけるアリア父への信頼と力は絶大なもので、そんな彼が日々うちを訪れている、というのもあるかもしれない。

 心なしか村の大人たちの態度も変わり、うちと良好な関係を構築しようと努めているようにも思える。もちろん下心ありありで。


 ただ米の改良に関しては、村ではフローレス一家以外には話さずにいた。

 アリア父に「信頼できない相手に余計な情報を与えてはいけない」と口止めされていたし、貧しい生活を送ってきたうちの田んぼは小さく、現段階ではこれ以上の客は抱えられなかったからだ。


 ――いずれは、ほかの米農家さんたちも救ってあげられるといいな。


 米文化が衰退の一途をたどるガストラル王国では、米農家は減る一方で。

 残っている米農家も、そのほとんどが貧しい生活に苦しんでいる。

 馬車での移動中にも、元々は米農家だったはずの場所が荒れ地になっていたり、まったく違う家に変わっていたりと、思った以上に深刻な現実を突きつけられた。


 だから。

 僕は心のどこかで焦っていたのかもしれない。

 米文化が完全に廃れてしまう前に、僕がどうにかしなければ、と。

 米の素晴らしさを知っている米農家は僕だけだから、と。


 そうでなければ、こんなことになる前に――。


 ◆◆◆


「――リク! フェリク!」

「起きてフェリク! 大変なの!」


 朝、というか深夜、僕は父さんと母さんの悲痛な声で目が覚めた。

 というか無理矢理起こされた。


「……んん、なに、どうしたの父さん。もう朝――う、けほっ」


 ――え、な、なんだ? 煙? え?

 というかやけに暑いような――


「火事だ! 早く逃げないと煙が――ごほっ」


 気がつくと、家の中は煙でぼやけ、寝室のすぐ近くまで火が迫っていた。

 僕は急いで飛び起き、煙を吸わないよう服で口をふさいで外へ出る。

 父さんも母さんも怪我はなく、3人揃って無事ではあったが。

 しかし深夜で周囲に人気もなく、古い木造の小さな我が家は崩れる寸前だった。

 そしてさらに。


「――え、これ、何。どういうこと……」

「待て行くな。もう無理だ。今から行って、どうやって消火するんだ」

「……っ、どうしてっ……どうしてこんな……」

「……田んぼには水が張ってあったはずだ。空気も乾燥してない。何もなしに、こんなに勢いよく燃えるはずがない」


 父は悔しそうに唇をかみ、握った拳に一層力を込める。

 つまりこれは。

 自然発生した火事ではなく、誰かが意図的に放火したということなのだろう。

 でも、いったい誰がこんな――。


 しばらくすると、火災に気づいた村人たちが家から様子を見に出てきた。

 そしてその騒ぎに気づいたアリア父も、慌てて駆け寄ってくる。


「――これはいったい、どういうことです? 皆さんお怪我は?」

「……怪我はないです。俺にも、何がなんだか」

「とにかく消火を急ぎましょう。みんな水を! 水を持ってきてください! ほら、クライスさんも動けるなら動いて」


 呆然とする父や母に代わって、アリア父が消火に向けて動いてくれた。

 アリア父の声で、周囲の村人たちは消火を手伝ってくれたが。

 しかし彼がいない場では、行き交う人々は皆、僕たちを冷ややかな目で見て笑っていた。

 そしてヒソヒソと「調子に乗ってるからだ」「領主様にでも助けてもらえばいい」「子どもをだしにしてフローレスさんに取り入るクズが」と、わざと僕たちの耳に入るように話し始めたのだ。


 ――ああ、そうか。そういうことか。


 僕は、村のことや米農家の将来も考えて頑張ってたつもりなんだけどな。

 役に立てば見直してもらえるかもって、思ったんだけどな。

 でも、村の人たちは、そうは捉えてくれなかったってこと、か。


 結果、クライス家はこの火事で、一夜にしてすべてを失った。

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放火犯どもへの制裁がないからもやもやする
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