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第14話 「焼きおにぎり」は領主様をも虜にする

「――ひ、広いっ!」

「さすが、領主様のお宅はどこを見ても素晴らしいね。設備も最新だし、うちとは比較にならないな」


 フローレス家も、うちに比べればずっと広いし素晴らしいけどな!

 そう思いつつ、アリア父が感嘆の息を漏らすのも納得のクオリティだった。

 自分が住んでいるのがいかに田舎中の田舎で、うちがどれだけ貧しい家なのかを思い知る。ぐぬぬ。


 ――まあでも、米に恵まれた今となってはそんなことどうでもいいけど。

 食うのに困ってるわけではないし。


「以降、フローレス様、フェリク様のお世話はメイドのミアが担当いたします。足りないものや分からないことがありましたら、何なりとお申し付けください」

「メイドのミアと申します」

「は、はい、よろしくお願いいたします」


 美しい黒髪を肩の上で切りそろえ、メイド服を綺麗に着こなすミアは、深々とおじぎをして微笑んだ。

 黒髪ストレート×メイド服とか最高か!


「シェフたちには、夕方までキッチンに立ち入らないよう伝えてありますので、どうぞご自由にお使いくださいませ。私はこれで失礼いたします」


 バトラは一礼して、その場から去っていった。


「フローレス様にお持ちいただいたお米は、こちらに運んであります」

「ありがとう、助かるよ」

「お水はここをタッチすると出ます。コンロはこちらをお使いください。それからお鍋などの調理器具は――」


 ミアは、僕とアリア父に一通りキッチンの中を案内してくれる。

 うちで作れるんだから当然だが、必要なものはばっちり揃っているようだ。


「お米は【品種改良・米】と【精米】で完璧な状態にしてあるから、あとはこれを鍋で洗って、浸水させて――」

「ほうほう。米の状態で見ても驚くほど真っ白でつやがある。それに透き通っていてとても綺麗だ。あの黄味がかった中は、こんなふうになってたんだね。驚いたよ」


「おにぎりに使う具材がほしいんだけど。領主様は何がお好きなんだろう? おじさん知ってる?」

「そうだな、先日の食事会のとき、そういえば――」


 ◆◆◆


「おまたせいたしました」

「おお、これがおにぎりか! たしかに見たことない食べ物だ。しかしこっちは白くは――ないな」


 お皿には2種類のおにぎりを乗せてある。

 1つはシンプルに米のうまみを味わう、白米×塩のおにぎり。

 そしてもう1つは――


「どちらも白米ですが、色のついている方は、具材を入れたおにぎりを香ばしく焼いています」

「な、なるほど……?」

「まずはお米本来の味を楽しんでいただきたいので、白いおにぎりからお召上がりください」


 バトラが、白いおにぎりを取り皿に移して領主様の前に置く。

 ここでもやっぱり、ナイフとフォークが登場した。

 いつかは手で持って直にいってほしいけど、今は大人しくしておこう。


「――う、うまい! なんだこの優しい甘みは。それに水分を含んでしっとりしていながら、水っぽくはなくふっくらもちもちとした食感に仕上がっている。これはどうやって味つけしたんだい?」

「塩です」

「し、塩のみ、だと? これが? このうまみはすべて、米の持つ味だというのか」


 ――よし、いいぞ!

 まあ、米のうまさの前では領主様もただの人間ってわけだな!


「次はこの、焦げ目のついている『焼きおにぎり』を。こちらは塩コショウで味つけして焼いた白身魚とにんにくの素揚げを包み込んで、ガーリックバターでこんがり焼きました」

「白身魚とは。私の大好物じゃないか!」

「おじ――エイダンさんから、領主様は白身魚がお好きだと聞きまして」

「はっはっは。いやあ、フェリク君は本当に、子どもとは思えないな」


 領主様は楽しそうに笑い、焼きおにぎりを切って魚と一緒に口へと運んだ。


「こ、これは――!」

「い、いかがでしょうか?」

「最高だよ。白身魚も驚くほどふっくらとしているし、にんにくとバターの風味がたまらないね。この香ばしく焼けた部分なんて、これだけを延々食べていたいくらいだ。エイダン、これは本当に、フェリク君が1人で考えて1人で作ったのかい?」

「ええ、もちろん。私は料理をしたことがありませんし、米に関しては素人です」

「まだ8歳だというのに、本当に驚くことばかりだ……」


 ――やばい。嬉しすぎて顔がにやける!

 貧乏人の食べ物だと馬鹿にされてきた米が、領主様をうならせているなんて。

 そしてそれを成し遂げたのが僕だなんて。

 大好きな婚約者を親に認められたときって、こんな気持ちなのかな?

 神様本当にありがとう!!!!!

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