第133話 再び真っ白な空間へ
気がつくと、僕はまた真っ白な空間に立っていた。
「こんにちは、フェリク君! ガストラル王国での暮らしはどうですか?」
目の前にいるのは、たびたび僕にスキルを授けてくれる、あのスキル授与式の厳かさを無に還す軽――いや、少しばかりハイテンションな女神だ。
「こ、こんにちは。女神様がくださったスキルと前世の記憶のおかげで、日々楽しくおいしいごはんを堪能してますよ」
実際、前世ではただ米活をエンジョイする消費者であった僕も、今や大手商会や領主様、有名シェフなど多くの人が関わる大きなお米ビジネスに携わっている。
しかも、その中心にいるのが僕なのだ。自分でも信じられない。
「そうですか、それは羨まし――いえ、よかったです」
うん? 今羨ましいって言いかけた?
「……もしかして、女神様もお米が食べたいんですか?」
「ち、違います! だって私、女神ですから! でもあんなに幸せそうな姿を見せられたら、どんな味がするのかなーとか、きっとおいしいんだろうなーとか、いろいろ思うじゃないですかっ!」
つまり食べたいんだね!
「前回みたいにここにお米や道具を出してくれれば、なにか作りますよ?」
「えっ――! で、でも、女神ともあろう者が人間の食べ物に手を出すなんて――」
「そうですか。それは残念です」
「あっ、でもでもっ! 人間のことをよく知るためにも、人間の文化を学んでおくのも大事かもしれないなーなんて……」
チラチラとこちらを見てくる女神様に、女神ともあろう者が僕に判断を委ねてどうするんだ、と思わず笑いそうになってしまった。ちょっと可愛い。
僕としては、女神様がお米の虜になってくれるなら、ぜひとも料理を振る舞って布教したいんだよなあ。
「――そういえば、前回この空間で炊いたお米はどうしたんですか?」
「えっ……。あ、あれはそのー、食べ物を粗末にするのもよくないですし? そこにあるならもう、ねえ?」
女神様は、不自然に視線を彷徨わせている。分かりやすいな!?
もしかしたら、そのとき食べたお米の味が忘れられなくなったのかもしれない。
まあお米は正義だし、おいしいし、それは仕方ないと思うよ。うん。
神獣フェンリルの末裔だというライスも、今やすっかり僕の米友だしね。
「でしたらぜひ――」
「そこまで言うなら仕方ないですね! フェリク君が作るお米料理、直々に女神である私が――ってああああああああああ! じ、時間が……時間がないです……」
「ええええ……」
突然、何もなかった場所にタイムゲージのようなものが表示され、女神様はそれを見て涙をにじませ心から残念そうにしている。
最初から素直に食べたいって言えば、間に合ったかもしれないのに。
「ま、まあまた機会はありますよ。きっと。多分」
「ええ、こうなったら絶対に、絶対にフェリク君のおいしいお米料理を食べてみせます! というわけなので今度――」
そこまで聞こえたところでタイムゲージがゼロになり、僕の意識は夢の中へ落ちていった。
――というか僕、なんでこの空間に呼ばれたんだろう?
もしかして最初から僕のお米料理が目的――なんてことはない、よね?