第13話 領主・アリスティアの屋敷へ
「初めまして。君がフェリク君かい? 私はこの辺一帯を所有・管理しているリアム・アリスティアだ」
「は、初めまして。フェリク・クライスと申します」
5日後、僕はアリア父とともに領主様の屋敷へ来ていた。
目の前には、見るからに住む世界が違いそうな、威厳を湛えた領主様。
しかしその目はとても優しく、僕が委縮しないよう気を遣ってくれている。
「遠くまでわざわざすまないね。道中、大変だったろう?」
「いえそんな。立派な馬車まで手配いただき恐縮です」
村から屋敷は、速度強化系のスキルを使った馬車で丸2日かかる。
領主様が迎えの馬車を手配してファルムへ到着するのに3日、僕とアリア父が馬車に乗り込み屋敷へ向かうのに2日かかった形だ。
では、アリア父が翌日うちに話を持ってこれたのはなぜか。
それは、アリア父のスキルが関係していた。
彼は【音声伝達】というスキル持ちで、一度会って話をした相手となら、遠方にいてもやり取りすることが可能なのだ。
スキルを使用すると、相手方の元に半透明の画面――ゲームに出てくるステータス画面のような――が出現し、相手がそれに触れることで会話がスタートする。
この文明が未発達な世界では、まさにチートスキルと言っても過言ではない。
「……ほう。ずいぶんとしっかりした子だね。うちの娘にも見習わせたいくらいだ」
「お、恐れ入ります……」
まあ僕、中身30歳のおっさんですし!
いや、こっちでも8年生きてるわけだから、実質38歳か?
記憶が戻ったのはつい最近だけど。
「では早速だけど、本題に入らせてもらおうか。まずはフェリク君のスキルについて、私に教えてくれるかな」
「は、はい――」
僕は自身のスキル【品種改良・米】と【精米】について説明する。
ちなみに、ほかの植物でも同様の効果を得られないかと実験してみたのだが。
はっきり「米」と限定されているだけあって、米以外には効力を発揮しなかった。
「――なるほど。元々存在する米を、おいしく食べられるよう改良するというわけか。エイダンが絶賛するほどだ、ぜひ私も食べてみたい」
「ええ、もちろん。アリスティア様にお召上がりいただくために、フェリク君をここまで連れてきたんですから」
エイダンというのは、アリア父の名前だ。
「フェリク君、キッチンも食材も好きに使っていいから、私にもその白米のおにぎりとやらを作ってくれないかい?」
「わ、分かりました。お口に合うかは分かりませんが、やってみます」
「楽しみにしてるよ。……バトラ、2人をキッチンへ」
「かしこまりました」
こうして僕とアリア父は、執事・バトラの案内のもと、屋敷のキッチンへと向かったのだった。