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第124話 フェリクの選択と覚悟

「……陛下、彼は確かに賢く優秀ですが、9歳の、しかも平民出身の子どもです。土地を与えたところで管理などできませんし、貴族の務めも果たせません。それよりも今は、環境を整えてお米に注力してもらうべきでは?」

「ふむ……。しかしその希少な力を国のために使ってもらう以上、爵位と土地くらい与えなければ働きに見合わんだろう」

「それはもちろんそうですが……」


 国王様と領主様は、僕のよく分からないところで白熱し始めた。

 領主様のことだから、きっと自身の利益も考えてはいるのだろうが。

 しかし同時に、僕のことを心から心配してくれているのが伝わってくる。

 そして国王様もまた、僕を1人の人間として大事に扱おうと考えてくれている。


 ――でも、僕はいったいどうしたいんだろう?


 貴族になれば、たしかに地位や権力が手に入るし、できることも増えるのだろう。

 父さんや母さんはもちろん、アリアやおじさんにだってもっと恩返しできる。

 でも僕は、中身はただの米好き会社員だ。

 今は「子どもなのに」とちやほやしてもらえるが、これから先、貴族としてやっていく意志や覚悟があるのか?

 僕は本当に、それで僕がやりたいことに注力できるのだろうか?


「――リク。フェリク!」

「――へっ? あっ、はいっ!?」

「どうしたんだ、そんな難しそうな顔をして」

「リアムが難しい話ばかりするから、困ってしまったのではないかね?」


 しまった、うっかり考えこみすぎて、2人の話をまったく聞いてなかった……。


「――い、いえその、違うんです。ごめんなさい。僕もどうすべきか考えていて」

「君のスキルには、師匠となる人がいないからね。苦労も多いことだろう」

「そうですね。フェリク君と同じスキルを持つ人間を、私は見たことがありません」


 僕が持っているスキル【品種改良・米】や【精米】、【炊飯】は、僕だけが持つ特殊スキルだ。

 そのため、【精米】や【炊飯】はともかく、【品種改良・米】の及ぶ範囲や全貌が未だ誰にも解明できていない。

 それに僕は、べつに領地を治めたい願望なんてないんだよな……。


「……あの、土地と爵位を賜る件、大変ありがたいお話なのですが、謹んでご辞退申し上げます。申し訳ありません!」

「なんと……! フェリクは自分の土地が欲しくはないのか?」

「人には向き不向きというものがございます。僕はお米に関することには長けているかもしれませんが、それ以外はただの子どもで素人です」


 い、言ってしまった……。

 どうか機嫌を損ねませんように!!!


「フェリク、なにも全てを自分一人でしようなどと考えなくてもいいんだよ。君が仕事を誰かに任せることで、働き口が生まれてお金が回る。私なんて、リアムの知恵を借りてばっかりだ。彼は恐ろしいほどに計算が上手だからね」

「はっはっは。またまた御冗談を。――なら、こういうのはどうです? 私が土地の一部をフェリク君に貸し与えます。彼には、そこで自由にお米の研究に勤しんでもらいましょう。ちょうど、旧ファルムから近い場所に空きがあります」

「えっ、いや、あの……僕はべつに、今の生活に不満なんて――」


 旧ファルムに近い空き場所というのは、あそこからグラムスへ向かう途中にある、昔は農村だったあのエリアだろうか?

 たしかに僕の行動範囲を考えると、便利な場所ではあるけど……。


「――まったく、リアムはよほどフェリクを手放したくないようだね。分かった、それなら今後については君に任せよう。かかる費用は私が出す。ただしフェリクには、年に数回開催される貴族会議に同行してもらう。いいね?」

「承知いたしました。必ず連れていきます」


 うおおおおおおおおおおおい!

 勝手に話を進めるな!

 まったくこれだから貴族と王族は!!!


「――ではフェリク、そういうことでいいかな?」


 いいかな? じゃない!

 ぐう……まあでも、ずっと領主様のお世話になり続けるってのもな。

 今なら多分それなりに稼いでるし、やっていけるはず。

 それなら、僕も僕の力で生きるべきなのかもしれない。

 本来、領主様は僕なんかが頼っていい存在じゃないんだし。


「――し、承知いたしました。今後もお米の研究に邁進したいと存じます」

「うむ。頼りにしているぞ」

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