表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
118/133

第118話 アリアの涙と思い

 アリスティア家の養子になった数日後、王城への招待状が届いた。

 一週間後、スキル【転移】持ちの従者が迎えが来るらしい。

 そして。


「……ふ、フェリクっ! あ、アリスティア家のご子息様になったって本当なの!? さっきラヴァル先生が――」

「アリア!? えっと……まあ、そういうことになるかな」


 僕が貴族になったことで、アリアとは授業内容が変わってしまい、授業は別々に受けることとなった。

 今、それを先生から聞いたアリアが慌てて工房へ乗り込んできたところだ。


「……そう。本当、なのね」

「……アリア?」


 アリアはうつむき、握っていた拳にぐっと力を入れる。

 何やら相当思いつめている様子だ。


「あ、アリア? アリスティア家の養子になったって言っても、これは――」

「……どうして、どうしてそんなどんどん先に行っちゃうの? 私、頑張ってるのに。こんなの、追いつけないどころか……」


 アリアの目から溢れた涙が、足元にぽたぽたと丸い模様を作っていく。


「なっ――なんで泣いてっ」

「私、ずっと頑張ってるのよ? ずっとずっと、フェリクの横にいたいって頑張ってきたの。なのにそんな、勝手に手の届かないところに行かないでよっ。貴族なんてどうしたらいいの!? 置いてっちゃやだあっ」


 アリアはその場にへたり込み、わんわんと泣き始めた。

 周囲にいたメイドさんや工房の従業員たちが、驚いた様子で遠巻きにこちらの様子を窺っている。

 というかずっと横にいたいって、そんな告白みたいな……。


 ――いや、相手は9歳の女の子だぞ。深く考えたらダメだ。

 と、とにかくアリアを落ち着かせないと。


「アリア、とりあえず落ち着こう。ね。ほら座って、玄米茶を淹れてあげる」

「ふ……う……うええん……」


 泣きじゃくるアリアの手を取り、どうにか椅子に座らせて、あらかじめ炒って保管していた玄米にお湯を注ぐ。

 あの、旅先で出会った玄米だけのお茶と同じものだ。


「アリア、不安にさせてごめんね。たしかに事実上僕は貴族になったし、領主様の息子ってことになるんだけど。でもこれには事情があるんだよ……」


 僕はこれまで起こったことを、できるだけ分かりやすくアリアに説明した。


「お、王都の学校で王女様に料理を作って、そのあと国王様に会って、お米の話をして王城に呼ばれた……!?」

「うん。それで、今後のことを考えて、平民のままでは危ないからって領主様が」


 アリアにはアリア父から話がいっていると思っていたが、どうやら何も聞かされていなかったらしい。

 普通の平民なら一生関わることがないであろう国のトップが登場し、頭がフリーズしているようだった。


 ――もしかして、国王様とお会いした件はおじさんも知らないのか?

 王都から戻ってまだ一度も会えてないし、話がどの程度共有されてるのかもよく分からないな。


「本当、フェリクって、どこまで想像の斜め上をいけば気がすむの……!?」


 アリアは机に突っ伏し、大きくため息をつく。


「な、なんかごめん。突然でびっくりしたよね。でもアリアだってスキル【転移】持ちなんだし、将来は王城務めになる可能性高いんじゃないかな」

「私は――ううん、それより、ならフェリクのことはこれまでどおりフェリクって呼んでいいのね? こうやって普通に会って話もできるってこと?」

「もちろん。アリアに会えなくなるくらいなら、貴族の息子になんてならないよ」

「なっ――!? そ、そう。分かったわ」


 べつに僕、貴族になりたいわけじゃないし。

 むしろ本当は、これまでどおり平穏な生活を送りながら、アリアや身近な人たちとのんびり米活ライフを楽しみたい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ