第115話 先を見据えて、決意を新たに
「――――えっ!?」
「うちの養子になれば、君も貴族として扱われる。自分で言うのもなんだが、うちは貴族の中でも上級貴族で、それなりに力もある。たとえ王族であっても、アリスティア家の者を無下にはできない」
――つまりなんだ?
心配してくれてるってことなのか?
「で、でも僕みたいな平民を辺境伯様の養子にしていただくなんて……」
「いいかいフェリク君、よく聞くんだ。君は恐らく、このままいけばいずれ授爵することになる。だが、貴族には保守的な人間が多くてね……そういった平民からの成り上がりを良く思わない人も多いんだ。そのときに、アリスティア家という後ろ盾は必ず役に立つ」
領主様は、真剣な面持ちで僕をじっと見つめる。
その言葉に、思いに、偽りはなさそうだ。
いやでも授爵ってさすがにそれは――。
だが実際、先のことを考えると、たしかに何の後ろ盾もない平民では危険すぎる。
辺境伯という力がどれだけ大きいかは、貴族の世界に疎い僕でも想像できることだ。
でもそれは、それはつまり。
僕はクライス家の息子ではなくなる、ということじゃないのか?
多少脳筋だったり天然だったりする両親だが、これまで大切に育ててくれた大事な家族だ。
会えなくなるのは寂しいし、それに両親に申し訳なさすぎる。
「……あの、でも、そしたらうちの両親とは」
「ああ、心配しないでくれ。もちろん悪いようにはしない。これまでどおり何不自由ない生活を保障するし、自由に会ってもらって構わないよ」
領主様は僕の心配を察したのか、何でもないことのように優しく微笑む。
本当に、どこまでも寛大な領主様だ。味方には!
「君の大事な家族をないがしろにするわけないだろう。だが、君の両親をうちの家族として、つまり貴族として迎えることはできない。だから今すぐに答えを出せとは言わない。一度、家族としっかりと話し合いなさい。もちろん私からも話をしよう」
「……わ、分かりました。一度両親に話してみます」
そんなこと、本当に可能なのかは分からない。
でも、領主様だって考えなしに僕を養子にしようと思ったわけではないはずだ。
きっと僕の将来に、お米に、可能性があると思ってくれてのこと。のはず。
それに実際、僕のお米は本当にすごい。
むしろすごすぎて実態を明かせないくらいにすごい。
おいしいし、よく育つし、スキル【品種改良】で万能薬にだってできる。
この力があれば、国への貢献だって、多くの人を幸せにすることだって可能だ。
――おいしいごはんを食べながらそこそこ働いて、あとは平和に暮らせればそれでいいと思ってたけど。
でもそれでは、お米の可能性を潰してしまうことになる。
それはゆゆしき事態だ。
「ありがとうございます。領主様、僕、がんばります!」