第113話 晩ごはんと、ミアとのひととき
「――ぅ、んん」
目が覚めると、外はもう真っ暗だった。
だいぶ熟睡していたらしく、先ほどまでの疲れもすっかり消えている。
若いってすごい。
「フェリク様、お目ざめになりましたか。おはようございます」
「おはよう、ミア」
「先ほど旦那様が戻られました。もう遅いから明日話をしようとのことです」
「分かった。ありがとう」
「お食事はなさいますか?」
「うん、食べようかな。おなかすいた」
「かしこまりました。すぐに準備いたします」
ミアは一礼して、部屋を出ていった。
そしてしばらくして、温かい食事を持ってきてくれた。
「本日のメニューは、チキンのガーリックソテー、サラダ、スープ、ごはんです」
「今日もおいしそう! ありがとう」
「恐れ入ります」
最初は僕しかできなかった炊飯も、今では工房のみんながマスターしている。
少し前までは可もなく不可もなく、くらいの味だったスープも、今でははっきり「おいしい」と言えるレベルだ。
出汁の概念を伝えた甲斐があった。
ここでの僕の食事は、工房付きの使用人が作ってくれることもあれば、僕が自分で作ることもある。最近はシャロやミアが作ってくれることも多い。
工房で働いている人たちには、僕が使っているとき以外は、キッチンも食材も自由に使っていいと言ってある。
そのため、それぞれ好き勝手に料理を学び、楽しんでいるようだ。
「おいしい! 今日はミアが作ったの?」
「は、はい。恐縮です」
ミアはほっとした様子で頭を下げる。
彼女は自己主張はあまりしないタイプだが、自分で作った日はソワソワしているので、案外分かりやすい。
ちなみにシャロは、「今日は私が作ったんですよ!」と言ってくるタイプだ。
――シャロもミアも、本当に料理上達したよな。
僕が不在の間に、よりレベルアップしてる気がするぞ。
「フェリク様の精米機、メイドの間でも大好評です。精米機がお店に出回ったことで白米が入手しやすくなって、一般家庭でのお米の使用量も一気に上がったそうですよ。旦那様もフローレス様も、とても喜んでおられました」
「本当!? 嬉しいよ。王女様も国王様も、お米をすごく気に入ってくれたみたい。やっぱりお米はすごいんだな~」
「――ふふっ。すごいのはフェリク様ですよ」
ミアがおかしそうに笑う。
ミアはシャロと比べ、基本的に表情が薄く控えめで、必要なこと以外はあまり喋らない。
そのためたまにこうして笑われると、何となくドキッとしてしまう。
他意はないけど、やっぱり女の子の笑顔の力はすごい。
――まあでも実際、実はけっこう本気ですごいよな、この力。
スキル【品種改良】の可能性は無限大だし、【精米】も【炊飯】も一瞬だし、藁や米ぬかを混ぜ込んだ堆肥は農作物を豊かに実らせるし。
今年は農作物が不作らしいのに、この堆肥を使用しているアリスティア領の農場では、それを微塵も感じない。
しかも国王様いわく、同じ力を持っている人はいないらしい。
――国王様に王城に招待されてるし。
明日、いろいろと領主様に相談してみよう。