第112話 アリスティア家への帰宅
「もう帰っちゃうのね」
「申し訳ありません。仕事のこともありますので……」
元々は2~3日を想定していた貴族学校への滞在だったが、気づけば一週間以上になっていた。
この件は本当に急に決まったことだったし、本来やる予定だった仕事がまったくもって終わっていない。精米機と梅も気になるし。
「フェリクの作る料理はどれも温かみがあって、本当においしかったわ。またいつでも遊びに来てちょうだいね。わたくしの名前を出せば、問題なく入れるはずだから。衛兵にも伝えておくわ」
「ありがとうございます」
王女様、それからフレッドやお世話になったメイドさん、デリにも挨拶を済ませ、僕はアリスティア領への帰路についた。
◇◇◇
「フェリク様! おかえりなさいませっ」
「おかえりなさいませフェリク様」
工房へ戻ると、すぐにシャロとミアが迎えてくれた。
「ただいま。――え、ええと、これはいったい」
アリスティア領へ帰宅し、領主様の屋敷の敷地内にある工房へ戻ると、大量の謎の箱が積まれているのが目に入った。
箱は僕の身長よりはるか高くまで――というより、ほぼ天井まで積み上げられており、いくつもの柱のようにそびえている。
「精米機ですよ! 追加で注文していたものが本日届きました」
「こ、こんな量頼んだっけ!?」
「あちこちから注文が入って、在庫があっという間に消失しまして……。フローレス様と旦那様が、先日追加なさってました。これ以外に、屋敷の倉庫にもございます」
「量産すれば1つあたりのコストも下げられてちょうどいい、と」
どうやら僕がいない間に、精米機の人気がとんでもないことになっているらしかった。
「夕方には旦那様も戻られると思います。直接話があると思いますよ」
「ここ最近のあれこれはまとめておきましたので、お手すきの際にご確認をお願いします。――ですがまずは、少しお休みになってください」
「ありがとう、そうするよ」
部屋に戻ると、机の上には紙の束が山積みになっていた。
こ、これを確認しろと……?
思わずめまいがしそうになるが、それだけアリア父や工房、工場で働くみんなが動いてくれたということだろう。
僕がいない間にもこうしてクライスカンパニーを動かしてくれる人がいる、というのは、本当にありがたい話だ。
「失礼します。ハーブティーをお持ちいたしました。まずはお休みくださいね!」
「――シャロ。ありがとう。さすがに疲れたからね、それ飲んだら少し寝る」
「ぜひそうしてください」
シャロがほっとしたように微笑む。
なんだろう、僕、仕事狂だと思われてるのかな?
べつにそういうつもりはないんだけど……。
シャロが淹れてくれたハーブティーを飲むと、ふっと体の力が抜けるのを感じた。
後半はあまり自覚してなかったが、やはりだいぶ緊張していたらしい。
そしてそれと同時に、どっと疲れが押し寄せてくる。
――はあ。有意義な時間ではあったけど、なんか疲れたな。
しばらくゆっくりさせてもらおう。
ベッドに倒れ込んだ僕は、そんなことを考えながら、深い眠りに落ちていった。