第11話 おにぎりの可能性
「おお、フェリク君いらっしゃい。楽しそうだな、何を盛り上がってるんだ?」
「あ、おじさんこんにちは。おじゃましてます」
「パパ、見てこれ! フェリクがすごいの!」
「お米がこんなに進化していたなんて、私知らなかったわ」
アリアとアリア母は、キャッキャと盛り上がりながら、僕が作ったおにぎりをアリア父に見せる。
「米が進化……? 何の話だ? というか、これはいったい……?」
「あー、ええと……」
僕はアリア父に、これまでの経緯を説明する。
その間にアリア母がおにぎりをお皿に入れ、フォークを用意して、アリア父に試食するよう求めた。
アリア父は、仕事柄貴族との会食も多く、日々おいしい料理を食べ慣れている。
もしかしたら、その中でおにぎり――はなくても白米のごはんくらいは食べたことがあるかもしれない。そう思ったが。
「…………フェリク君、これは本当にお米なのかい? あの、カユーの原料の?」
「うん。スキルで品種改良したり、精米したりはしてるけど」
「……これと同じものをもう一度作ることは?」
「もちろん何度だってできるよ。具材を変えればアレンジだって無限大だしね」
「そ、そうか。これは大変なことになるぞ……」
アリア父は椅子に座り、おにぎりをじっくりと味わいながらも、頭を凄まじい速度でフル回転させて何か考えているようだった。
――というか。
おにぎりをケーキみたいにフォークで切って食べるの、斬新で面白いな。
この世界の人には、おにぎりがこういうふうに映るのか。
なら、ケーキみたいに上にトッピングを乗せるのもありなんじゃないか?
中に隠れた具材を見た時のアリアたちの反応からして、女性陣は見た目が華やかになればきっともっと喜ぶ――ような気がする。もちろん人によるだろうけど。
「――フェリク君」
「うん?」
「この白くした米を『炊く』という調理法、それで作った『おにぎり』を、商品として展開したい。協力してくれないか?」
「ちょっとあなた、フェリク君はまだ8歳なのよ? そんな難しいことに付き合わせたら可哀想じゃないのっ」
「そうよ。パパは仕事のことになるとすぐ熱くなるんだからっ!」
アリアとアリア母は、呆れたようにそう止めに入ったが。
「いや、こんな才能を大人になるまで放っておくなんてそれこそ可哀想だ。フェリク君、どうだ? もちろん君のご両親ともちゃんと話をするし支払いも不正なく行なうと約束しよう」
「ちょうど父さんと話をしてたところなんだ。おじさんが協力してくれるなら、そんな心強いことはないよ」
「よし、それなら一度、ご両親を交えて話をしよう。明日の昼、君の家へ行くよ。ああ、こんなことをしている場合じゃないぞ。早速みんなにも話をしなければ――」
アリア父はそう言って席を立ち、大急ぎで出かける支度をして出ていった。
まさかこんな急展開になるなんて……。
こんなことなら、もっといろんなおにぎりを持ってくるんだった……。
「フェリク君、急にごめんなさいね」
「ううん、うちはただの米農家だし、父さんもそんな器用なタイプじゃないからさ。おじさんみたいな人が入ってくれると助かるよ」
僕もこんなことしてる場合じゃないな。
明日アリア父が来るまでに、もっと研究しておかないと。