第107話 よし、天津チャーハンを作ろう!
「――というわけで、夕飯はチャーハンを作ることになりました」
「これは……むぐ……素晴らしい料理ですね……! むぐむぐ」
自分の分のチャーハンを食べ終え、アリア父やフィーユ、メイドさんたちに配ったあと、せっかくならとデリの分も作ってキッチンに持ってきたのだ。
デリはおいしそうにチャーハンを頬張り、すっかり虜になっている。
――でも、ただチャーハンを出すってのも芸がないよな。
さっき見られてるし、なんかこう、もうワンランク上げて驚かせたい。
が、カタリアナ王女が求めているのは、先ほど作ったあのチャーハンだ。
王族相手に、違うものを出して機嫌を損ねるようなリスクは犯せない。
「……そうだ! よし、天津チャーハンを作ろう!」
「て、てんし……何です?」
そうと決まれば、まずは出汁を作らないと!
この世界には、顆粒だしなんて便利なものはないからな。
鍋を出し、燻製肉と鶏手羽元、セロリ、玉ねぎ、にんじん、白ねぎ、生姜、酒、水を入れて、あんかけに使う出汁を作っていく。
さすがにコンソメや鶏がらスープの素を自作したことはないが、たしか材料はこんな感じだったはずだ。
「えっと……これはいったい何を? これがチャーハンになるんですか?」
ぶつ切りの食材を鍋で煮込む僕を見て、デリは困惑しているようだ。
これまで多くの料理人たちと関わってきて知ったことだが、この世界には、出汁を取るという概念がない。
「こうして食材をじっくり煮て、食材から味やうまみを溶け込ませるんです。これを料理に使うことで、奥深い味わいになるんですよ」
「そ、そんな調理方法があったんですね!?」
「使った食材は、あとで刻んでスープにします」
デリと話をしつつ、鍋の様子を見つつ煮込むこと約2時間。
美しい黄金色をした出汁が完成した。
「――っ!? な、なんですかこれ。こんなおいしいスープ初めて飲みましたよ! こんな料理どこで覚えたんです? フェリク様は米農家出身だと伺いましたが……」
「あー、いや、な、なんとなくかな?」
「何となく!? 何となくでこんな絶品スープを生み出されたら、ずっと修行を重ねてきてようやくここにいる私なんて……」
し、しまった。デリの自信をへし折るつもりはなかったんだけど……。
お詫びに、再現できるようにレシピを書いて渡すとしよう。うん。
「この作った出汁に醤油と塩コショウを加えて、そこに刻んだ海老と三つ葉を加えます。あとは水溶き片栗粉でとろみをつければ、あんかけ部分の完成です」
「でもこれ、さっきのチャーハンと随分違いますけど……」
「チャーハンはこれから作ります」
僕はスキル【炊飯】でごはんを炊き、先ほどと同じ要領でチャーハンを作ってお皿に盛りつける。
そして卵を半熟に焼いて乗せ、その上にあんをたっぷりとかけて――
「完成です! これは試作品なので一緒に食べましょう。入りますか?」
「もちろん! 余裕です!」
できあがった天津チャーハンを半分ずつに分け、片方をデリに渡す。
半分に切ったことで、卵とチャーハン、あんが一体となり、おいしそうにツヤツヤと輝いている。
「んんんんーっ! チャーハンだけでもおいしいのに、このふわとろ卵とツヤツヤのスープ、もう無敵です! 三つ葉っていう野菜は初めて見ましたが、清涼感のある香りがとてもいいですね。おいしさの海に沈んでしまいそう……」
「うん、うまい!」
半熟の卵が程よくごはんに絡み、それをうまみの詰まった艶やかなあんが絶妙にまとめ上げている。
本当はオイスターソースがあるとよりコクが出るが、海老の出汁が効いているのかこれでも十分うまい。
王女様、喜んでくれるといいな。